今日こそは
2月14日、全国的にチョコ一色となるこの日は乙女たちの戦争の日だ。
「綾香、誰に渡すか決めてるの?」
当然よ! 本命はずーと決まってる。入学式に一目ぼれしたときに生徒会長として凛々しく入学の挨拶をしたあの方だ。
「ええ、もちろん」
私の心は決まっている。
「へえー。うらやましいね。恋してる乙女と言うのは」
そうでもないよ。たぶん先輩は私のことなんて知らないし、一方的な片思いなんだもん……。つらいよ。
「ま、せいぜい頑張りな。私も応援してるから」
友人の恵理子がそういって去って行った。
大丈夫だ。この日に備えてリサーチ済みだ。
先輩は甘いものとアーモンドが好きらしい。カカオ中心だと苦くなるかもしれないから、ミルクを多量に入れて、そしてアーモンドをたっぷりと入れたんだもん。問題はないはず!
でも受け取ってくれないとしたら……。
だめ、弱気になっちゃ!
その日は放課後になるまでのろく感じた。早く時間すぎてよ……。
緊張のあまり、先生に当てられたときは普段なら、応えれたのにこの日に至っては全然ダメ。先生も「お前でもこんな簡単な計算ミスするんだな」ってあきれられた。だってバレンタインだよ! 仕方ないじゃん。
「それじゃホームルームはこれぐらいにして解散」
やっと放課後だ。先生の挨拶が済むと、教室のみんなは一斉に教室を飛び出し、校門を抜けて言った。他校の人にチョコを渡すのかな? たぶんそうだろう。私ぐらいだろう。同じ学校の人に本命チョコを渡すのは。
「そりゃそうでしょ。うちは女子校よ」
友人の理恵子の声が耳元でささやいた。そう、ここは女子校。先輩も当然女性だけど、好きになっちゃったもんはしょうがないじゃん!
「いきなさい。こんな真剣になれるのは青春の時ぐらいよ」
理恵子が私の肩を叩いた。
どうする? どうしよう?
「あなたの先輩の想いはそんなもんなの。いきなよ」
理恵子が私の背中を叩いた。私は無我夢中で駆け出した。
この想いが伝わらなくてもいい。ただ自分の気持ちに素直になること、それが大事なんだ。あきらめるな私!
わき目も振らず駆け出した乙女の姿は、それはそれは美しかったそうな。
「先輩! 受け取ってください!」
バレンタイン。それは全国の乙女が想いを伝える日。 完
バレンタイン、それは乙女の一大イベント……。