日記 田宮一郎19歳 5月5日
拝啓、母さん、子供は嫌いです。
前に近くの公園で見かけ、つい声を掛けてしまってから付かず離れず僕に憑いている白いワンピースを赤く血で染めた少女のその後の顛末をお話します。"あいつら"の仲間とはいえ十日も一緒にいれば情も移ろうというものです。何を訴えるわけでもなく、ただわんわん泣くだけ。ただただ鬱陶しいだけの存在だったのに、いざ、いなくなってしまうと寂しさを禁じ得ません。彼がどうして消えてしまったのかをお話しましょう。
今日が子供の日だから、ゴールデンウイークだからと言うわけではなく、受験勉強の息抜きに外に行きたくなり、少し遠くの公園まで散歩にでかけ、木陰にあるベンチで本を読んでいました。しばらくすると若い夫婦が花束を持ってこっちに向かって歩いてきました。彼らは僕の前を通り過ぎ、ベンチの後ろにある大きな桜の木の根元にその花を手向けて手を合わせました。よせばいいのに僕が「何かあったのですか?」と二人に尋ねると、父親の方が答えました。娘がこの木に登って転落死し、今日はその供養に来たのだと。なるほどそういうことかと少女の姿を探すと、何と彼女は桜の木に登り、こっちを見て笑っているのです。僕は思わず、危ないから降りなさいと声を掛けそうになりました。しかも驚いたことに、少女は木から母親の胸に飛び込み、二人は春風に消えてしまったのです。
父親は、妻も後を追って逝ってしまった。二人は今頃、天国で仲良く暮らしているのだろうと言い残して去っていきました。まさか迷子探しを手伝わされるとは思いませんでした。子供はもうこりごりです。




