日記 田宮一郎19歳 4月5日
拝啓、母さん、僕が思う"あいつら"のことについて書いています。
こんなこと誰かに言っても信じてもらえないし、だけれど僕は僕の考えをまとめておく必要があると考え、こうして母さん宛に日記を書いています。
変ですよね。もし母さんが生きていらっしゃれば、万が一の為、そう母さんがそうであったように、突然この世ならいなくなった時の為に、僕のことを書き記しているというのであれば意味のあることなんでしょうが。もっともそもそも、この世に意味などあるかということについては、僕は甚だ疑問を持って生きています。
よく世間では死んでしまったら終わりだとか、死んだ気になればなんでもできるなどと言います。僕はそういう言い草には本当に辟易としています。そういう輩には僕が見えている光景を見せてやりたいです。"あいつら"はお前たちのなれの果てだぞってね。僕が随分と意地悪なことを言っているように思うかもしれませんが、だって母さん、僕には見えているんですから。死というのはそんなに簡単なものじゃないってことを。死を受け入れることの難しさってやつですよ。高校生の分際で、生意気な口を利くとか言われちゃいそうですが、僕はそれだけのものをこれまで見てきたし、聞いても来ました。
"あいつら"は話しかけても答えない事がほとんどですが、口がきけない訳ではないんです。母さんが僕に話しかけてきたのとは違って、自分の言いたいことをぶつぶつとこぼしているだけなのですけどね。不満や怒りや悲しみ、うんざりするほど聞かされてきました。嫌でも耳年増になろうというものです。




