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降魔一郎の東方異聞録~見える  作者: めけめけ
第6章『降魔一郎の東方異聞録』 気配
27/33

気配(5)

東方倶楽部50号(10月13日発売号)掲載

降魔一郎の東方異聞録


気配(5)


 こちらに連載をさせて頂いてから、ぽつぽつとお便りなど頂くようになり、少々困惑しております。特に悩み相談的なお手紙には本当に困ってしまいます。私がこうして、東方異聞録なる怪奇譚を書かせていただいているのは、単に私が”見える”ということだけでなく、そうした不思議な体験をされた方と、いろいろと出会うことがあったからにほかなりません。つまり私は、そういうお話を、いろんな方から聞くことが決して嫌いではないという事――もっと言ってしまえば、困っている人を助けたくて仕方がない性分――とかではなく、ただただ知りたいだけの人であって、問題を解決するための術を持つ、祓い屋やエクソシストや霊能力者ではないということを、大変心苦しく思いながら、そういう方のお話を興味深く拝見させていただいております。


 せっかくですので今回は、その一部をご紹介させて頂くことで、読者の皆さんと悩みを共有すれば、もしかしらた何か解決の糸口が見つかるかもしれないと思った次第です。4週に渡り『気配』についてご紹介をしてきたのですが、それについて似たようなエピソードや相談、質問が来ておりますので、まずそれからご紹介をしましょう。それは、


”犬や猫には、人間には見えない何かを見ること、気配を感じることはできるのか”というものです。


 飼い犬が突然玄関の方に向かって駆けていき、そこでうろうろしていると家族が返ってくる。ある程度距離が離れたところからでも犬は飼い主や家の人の気配を感じることができる。そんな犬なのだから、もしかしたら”普通の人”には見えない何かが見えるのかもしれない。そういえば時々、あらぬ方向――天井や誰もいない部屋の隅に向かって、飼い犬が注視することがある。あれはやはり、何か見えているのではないのだろうか。


 と、だいたいこういう内容のお話なのですが、より具体的に、家族の命日になると、仏壇に向かって飼い犬が吠えるとか、誰もいない窓の外を飼い猫が威嚇し始めるだとか、中には飼い主自身も、その気配を感じたというケースもございました。なるほどこれは興味深いお話ではなりませんか。このような話をしたとき、必ず霊的なものに対して否定的な意見が出るものです。


”犬や猫は人間よりも優れた聴覚や嗅覚をもっており、人間には見えない虫や風に乗ってやってきた臭いや人の耳に聞こえない周波数の音に反応しているだけで、それも若いうちはそういう行動をとることが多いが、歳をとるとそういう現象にいちいち反応しなくなるものだ。”とか”生き物の身体の周囲には『準静電界』と呼ばれる静電気のような、ごく微弱な電界が全身を包むように存在し、それを察知することで気配を感じる。偶然の自然現象によってその『準静電界』と似た状況が発生し、何もいないのに気配だけ感じるということがあるのではないか”という話も聞きます。


 私はそれらの意見に大いに賛成で、おおよそはその類で片づけられます。そもそも幽霊というのは、存在しない存在、非存在の存在なのですから、そういうものがいると考えた方が、合理的に思えるような事象について、仮に幽霊がいたとすれば、なんとなく辻褄が合うという場合に引き合いに出される、いわば数学でいうところの”虚数”のようなものです。


”なんだ、あれは死んだおじいちゃんが帰ってきていたのか”

”犬や猫が人の言葉を解すかどうかはわからないが、気持ちはわかるのではないか”


 おかしな話です。そもそも人は”気持ち”や”感情”や”心”のメカニズムを科学的に完全に解き明かしてもいないのに、そういうものがあることを前提にペットに対して気持ちが通じるなどと思ってしまう。死んでしまったらすべてが無になるとわかっていても、魂は不滅だと信じている。そう考えた方が人間社会にとっては便利だからこそ、便宜上作られたのが『幽霊』『霊魂』であり、もっと言えば科学が進歩する前の社会では『精霊』や『妖怪』といったものも、実在するものとして人間社会を支えてきたのです。それもつい数百年前の話だとすれば、人が世界のことを、はたしてどの程度認識できているのか、たかが知れているというものです。


 だから私も、犬や猫が見えているように、何かを見えているのか、わかったものではありません。見えているものをそのまま口に出して説明することが、必ずしも、正しく物事を伝えることにはならないということです。


 見えている世界が違えば、住んでいる世界が違う。


 それは何も特別なことではないと思うのです。ですから、これに懲りず、お便りをお待ちしております。ちなみに私は犬も猫も嫌いですが、鳥はもっと嫌いです。あれはとても不吉なものです。生き物の中で唯一高いところから我々を見下ろしている存在。そんな生き物がいったい、どんなものを見ているのか、あまり想像したくないものです。だからこそ、人は塔を建て、ビルを建築し、高いところに住むようになった。そういう考え方も世の中にはあるということです。


 ただ、これだけは忠告しておきます。犬や猫が見ているもの、そういうものにうかつに近づくのは、どうか控えた方がいい。獣の警戒心は、生存のためのものであり、はたして彼らが飼い主を守ることが、自分の生存に関わることだと、そう考えるのは、”気持ち”とは関係なしに、論理的な行動だと私は思うのです。


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