気配(4)
東方倶楽部49号(10月6日発売号)掲載
降魔一郎の東方異聞録
気配(4)
前回のお話は、霊体験としては特別なお話でした。幽霊やその手のものを語るとき、人はまず、死んだ人間の魂だとか、未練だとか、怨念だとか、そういうことを想像します。幽霊などという特別な存在になるには、それ相応の理由があるはずだと。
しかし、私からしてみれば、それははなはだ間違い――危険な考え方だといわざるを得ません。幽霊などという特別な存在に自分が出会うはずがない。それはただ、あなたが気付いていないだけだと申し上げたい。
私の知り合いに長年不動産業を営む鈴木(仮名)という人がいます。彼から、なかなか入居者が決まらない物件や入居してもすぐに解約されてしまう物件があると聞いたことがあります。それはどういう意味なのでしょう。あなたは想像するでしょう。きっと事故物件、なにか良くないモノがそこに居座っているのに違いない。例えば自殺者とか殺人事件とか、何か特別なことがあったに違いないと。
そうではないのだと彼は言います。
もちろん、そのような物件も確かにあるそうです。いや、彼はあるからこそ、ないのだと言っていました。そのような事故物件は、それなりに注意が払われ、きちんとした状態、そしてそこに済んでも大丈夫な人に住んでもらうから、まず問題は起きないのだといいます。プロからすれば、原因がはっきりしているものに対しては、それ相応の対処さえしておけば、”間違い”は起きないのだそうです。
だからこそ、あなたは気をつけなければならない。
今回、読者の皆様には特別に彼から聞いた、そのような”間違い”の起きる物件の見分け方――と申しますか、聞き分け方をご紹介いたしましょう。あなたが一人暮らしをするのであれば、物件を観にいったときに次のことを試してみて下さい。玄関、トイレ、風呂場、リビング、部屋という部屋にあなた一人で入り、両手を数回パーンと鳴らすのです。できるだけ同じ加減でできるよう調整をしてみて下さい。家具の置いていないガランとした部屋で手を叩くときれいに反響が返ってきます。つまりよく響くのです。響きが悪い、音がどこかに吸い込まれていってしまうような部屋がもしあったとしたならば、少し注意が必要です。
ポイントとしては10点満点の採点であれば、減点1することをお勧めします。もしもあなた一人ではなく、他に一緒に住む人がいるのであれば、特にそれが異性であるのであれば、それぞれが1回ずつ試し、次に二人で一緒にやってみて下さい。どの結果も問題なければいいのですが、二人共通して問題があるようでしたら減点1。どちらか片方のときだけ、その現象が起きるとしたのであれば、減点を2か3にすることをお勧めします。
それはなぜなのか。
それが分からない読者がいるのだとしたら、もう一度先週号を読み直してください。嫉妬というのは、負のエネルギーの中でもっとも厄介なものだと分かるでしょう。誰だって目の前で仲睦ましく、イチャイチャされたら、気分がいいはずがありません。普段は触らぬ気も、ふれてしまうというものです。気がふれると怖いですよ。
あなたがそのような気配に注意を払うことで、うっかり虎の尾を踏まずに済むわけですから、引越しなどの節目くらいは、馬鹿馬鹿しいと思っても、試してみる価値はあると思うのです。そうすることによって、相手も自分に注意を払われている、”気を配られている”と思えば、お互いに良好な関係を築くことも十分に可能だと、鈴木さんはおしゃっていましたよ。さすがはベテランの不動産屋、抜け目がないです。
この方法は例えばホテルや旅館でも有効なので是非お試しください。まぁ、もっとも彼女の前でそんなことをしたら、何事かと思われるでしょう。
”虎穴に入らずんば虎子を得ず”とも申しますからね。
何かあっても、そういう時は見てみない振り、聞こえて聞えない振りができるのが、大人というものです。