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降魔一郎の東方異聞録~見える  作者: めけめけ
第6章『降魔一郎の東方異聞録』 気配
25/33

気配(3)

東方倶楽部48号(9月29日発売号)掲載

降魔一郎の東方異聞録


気配(3)


 気配。それは何も見えず、何も聞こえない、まして触れられもしないのに、何かがいるような感覚。時にそれは存在感だけではなく、明確な敵意、或いは悪意、ともすれば殺意まで帯びて、存在していることがあると言われます。別に霊的なものに限ったことではなく、そのような負の気を当てられれば、何かしら身体や精神に影響があるという人もいます。


 私はそういう専門家ではありません。ただ、見えるというだけで、見えるものが、どんな気でいるかなど、正確に分析することなどできません。ただ、それは当たり前に、あからさまに、誰でもわかるような、つまりは睨みつけたり、その目が血走っていたり、身震いしていたり、拳を握りしめていたり、卑屈に笑ったり、怒気がこもった息遣いをしていたり、そう言うことであれば、専門家でなくとも分かろうものです。


 しかし世の中には、そのようなものに対して、どこまでも鈍感でいられる人間がいる。決してあなたのことを言っているわけではありませんよ。ただ、そういう人がいると申しあげているだけですので、気を悪くしないで下さい。


 人それぞれ、怖い物が違います。同じように愛するもの、愛でるものも違います。たとえば、そう、キャラクターのフィギアを集める、そして愛でるというは、何も最近始まったことではなく、昔からあることです。そしてそいう趣味嗜好は誰からも理解されるところではないというのも、今に始まったことではありません。たとえば、ここに一組の男女のカップルがいて、彼は昔から、あるアニメのヒロインのフィギアを大事にしているとしましょう。彼女にはそのことが疎ましく、ちょっとしたいたずら心で、そのフィギアにいたずらをしたとしましょう。彼はそれを酷く怒り、勢い余って彼女を罵倒し、言い争いになり、ついつい手を挙げてしまった。そんなどこにでもあるような光景の延長戦上にあるのは、何かをきっかけに仲直りをするか、修復できずに分かれてしまうのか。


"仲直りがハッピーエンドとは限りらない"


 二人は互いに非を認め、どうにかその日の夜には仲直りをすます。喧嘩のあとの情事はそれは激しい物になったことでしょう。文字通り精も根も尽き果て二人はぐっすりと眠ってしまう。しかし彼女はある気配に気づき、目が覚めます。


"誰かに観られている"


 二人しかいないはずの彼の部屋。1DKのその部屋に、三人目の気配を彼女は感じます。彼を起こそうとしても、うわごとのように何かを言うだけで目を覚ましません。観られているだけではなく、明確な敵意を彼女は感じ、警戒心を強めます。


"声が聞こえる"


 薄明かりの中で、小さな声が聞こえます。それは子供のような少女のような――例えるのならイヤホンから流れる歌声、人の自然な声とは質量の違う声が彼女の耳を障ります。そうえいば携帯の充電をするのを忘れていた。確かキッチンのテーブルの上に置いたままだった。もしかしたら――と彼女は思いました。その携帯から音がしているのかもと。


 彼女はベッドから抜け出し、キッチンに向かって歩きはじめます。音がだんだん聞き取れる。やはり携帯から音がしているのか。


"もう少し、もう少し"


 そう言っているように聞こえます。


"そのまま、そのまま、まっすぐ"


 暗がりの中、手探りで音のする方に足を勧めます。


"おしまいね"


 身の危険を感じ、彼女は硬直します。そこに背後から声が――何をしてるの?

 それは彼の声でした。さっきまで寝ていた彼が目を覚まし、背後から彼女に向かって声を掛けた。彼女は驚き、硬直したまま、よろけ、そして何かを踏み、その痛みで声を上げます。


"いやっ!"


 それに驚いた彼がベッドから飛び起き彼女を後ろから支え、部屋の灯りをつけます。


"こっ、これは……、君はそうまでして、もういい、出て行ってくれ!"

 彼女の足元には彼が大事にしていたフィギアが無残な姿で倒れています。彼女は何が起きたかまるでわかりません。どんなに説明しても、どんなに弁明しても、彼の怒りは収まりません。二人の関係はその日限りで終わりを迎えました。


 さて、彼女にいったい何が起きたのか。

 そして読者の皆さんはいったいこのお話のどこに恐怖を感じたのか。

 女心もまた、私の専門外です。


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