心霊スポット(1)
東方倶楽部44号(8月25日発売号)掲載
降魔一郎の東方異聞録
心霊スポット(1)
私のような人間のことをあまり好意的に思わない人たちがいます。まぁ、いろいろですが、よくあるのが"どこそこの心霊スポットにいったが何もなかった。お前には見えるのか"というたぐいの話です。そんなときは本当に困ってしまうのです。何が困るかって、背中にそんなものをしょい込んでやってこられては迷惑というお話です。
その方は郊外にある廃墟になった病院跡地に言ったそうです。いや、いったのでしょう。見ればわかります。そういうところに夜中に大勢でいって、ギャーギャー騒いでいたのでしょう。いや、本当に見ればわかります。彼は相当に怒っていて、私の存在など気にならないのでしょうね。ずっと睨みつけています。彼の背中を、ずっと、ずっと。
そういう存在がはたして、彼に危害を加えることができるのか、私にはわかりません。しかし、その気でいることは見てわかります。だから私は彼にこんなふうに忠告をしてあげました。
あなたはたとえば、そういう場所に、そういう存在がいたとしてですよ。あなた方のような存在をどのように思うのだろうと想像したことはありますか? もっと言ってしまえば、もしもあなたが逆の立場だったらどう思うのか想像できますか?
もしそれができないというのであれば、よろしい。私が教えてあげましょう。いや、聞きたくないと言っても駄目ですよ。あなただって、私が聴きたくもないような話をさっきまで散々してきたのですから、少しくらいは私の話しも聞いてください。それが礼儀というものではないですか?
先ほどのあなたの話しでは女性二人男性三人の五名でその場所に行ったというお話でしたね。女の子たちはキャーキャー騒いでいたそうで、まぁ、男性三人にとってはそれが面白かったのでしょうが、そういう姿を見せられて、見せつけられて、はたして相手がどういう気分になるのか、想像に難しくないでしょう。でもだからこそ、そういう輩には自分たちの存在を隠して置きたいものなのですよ。本当に出たとか言われちゃうとね。また人が集まってしまう。彼らは、そして彼女たちは辛抱強くあなたたちの愚行を眺めていたことでしょう。それには頭が下がる思いですよ。
そしてめでたくあなた方は何事もなくその場を立ち去ることができた。できたはずだったのですが、どうやら大きな失敗をしてしまったようですね。あなたたち、あそこでいったい何をやらかしたんですか?
そう尋ねると、彼の顔色は少し変わってきましてね。さっきまでの人を小ばかにしたような態度が一変して、神妙な面持ちで私に言ったのです。"どうせ幽霊なんているわけないし、いたとしてもなる奴の気がしれない。この世に未練とかマジだっせーし。そんなの怖がる奴の気が知れねー"
若さといのは困ったものです。余計なことをついついしたがるし、言いたがる。見なくてもいいものを見たがるし、聞きたがる。彼は幽霊の機嫌を損ねたのでしょうね。こうして私の機嫌を損ねたのと同じように。だから大人の私としては、彼を少し懲らしめてやろうなどと思ってしまいましてね。ついつい"余計なこと"を彼に話してしまったのです。
"背中に気を付けた方がいい"とね
私が知る限り、人に直接害をなすような死者はこの世に存在しません。しかし、この世界には、たとえば"祟り"とか"呪い"とか"取り憑かれる"と言った話があります。あなたもいくつかはご存じでしょう。そのどれでも構わないのですが、実際にそういうものが存在するかというと、おそらくあなたは"ノー"と答えるでしょう。そして答えると同時にこう考えるはずです。
"たとえ存在していたとしても、私には関係ない"とね
それでいいのです。大事なことは存在するかしないかではなく、"私には関係ない"と思えることが、重要なのです。ですからあなたには、そういうものから身を守る術をすでにお持ちということになる。結構なことです。ですが、その"関係ない"と思える根拠はどこにあるのでしょうか?
そういわれるとやや、答えに窮するかもしれませんが、"なぜなら私はそんなものに関わらないようにしているからだ"と気づくでしょう。そうなのです。自分から進んでそのようなものに近づかなければ、存在を無視することができれば、そのような霊的な存在、超自然現象的存在から身を守ることができるのです。
さて、次週はこの話の顛末をご紹介することとしましょう。それまでどうか、いかがわしいものには近づかないよう、気を付けてください。




