一話
__私のお母さんは、厨二だった...。
そんな事に気がついたのは、小学三年生の時くらいだったと思う。
自分の名前を指摘してくる友達が出てきた。
正直、その時まで、自分の名前の意味なんて考えたこともなかった。
まあ、それはそれ、これはこれ。
名前の話は置いておこうではないか。
現在私は、我が家のリビングでごろごろ転がって、かるーく次の高校の事を考えていた。え、名前?違いますよ。色んな高校のパンフレット見てただけですよ。
「ねえお母さーん、いい加減高校、どうしよう?」
隣でせっせと料理をしている母に顔を向け、昨日もその前も呟いてきた台詞を口にする。
母はトントンと手際良く野菜を切り、真っ白な割烹着に身を包み、黒髪のポニーテールを揺らしている。母さん、貴方は一体何歳なんだ。
いや、母は若い方だ。もうすぐ高校になる娘を持っているお母様方の中でもトップクラスに...もしかしたら、最年少かもしれない。
お母さんは昔、ある嫌な出来事がすごくトラウマらしい。まあ、それは私も知っているので、母の前では話題には出さぬよう、気を使っている。偉いでしょ。
「貴方が決めれば良いのよ、お母さんは自由に生きて欲しいの」
自由に育てすぎだ、馬鹿。
自由に生きて欲しいんならもっとマシな名前を付けてくれ、お母様。
今からでも遅くない、市役所に行こう。
「うー......だから決まらないんだよ、母としてびしっと何か言ってよ」
「じゃ、勉強してきたら?」
それ以外でお願いします。私は勉強が大嫌いです。
「それ以外? ......仕方がないわね」
えっ。お母さん、私は何も口に出していませんよ?
「あら、いけない。......じゃあ、私が昔通っていた高校でも紹介しましょうかね。そこは面白かったわよ、三年とは言わず、もっと通っていたかったわ」
「そういう所って、基本勉強出来ないと無理じゃない?」
正直、私は馬鹿だ。それは認めようではないか。
「いえいえ、頭が悪くても入れるくらい緩いわよ? 授業内容も低いし。...でも、あそこは全寮制だったわね。まあ、休日なら外出届を出せば良いけど。学園内には色んな設備が充実してるから、どっちかって言えば我が家より快適かも」
「へえ、なら行ってみたいかも」
ここより快適なら、全寮制でも全然大丈夫だし、むしろ勉強緩いんなら入りたいな...
すると母は、いそいそと二階に駆け上がり、手にはチラシをもって降りてきた。
「あったあった! 鈴蘭学園のチラシ! 子供がいる親には毎年届けられるらしいから、もしもの為にとっておいたのよ」
へえ、とチラシを貰うと、生き生きと部活に取り組む生徒の写真が大量にあった。それと、ここは高等部からが全寮制らしい。小さい子の写真も多くあった。勉強緩そうだな.....よし!
「よし、ここ受験しよ!」
「あらあら、決まったみたいでよかったわ」
いやあ、こんなに良いところがあるんなら教えてくれれば良かったのに。
今私は、そんなことを考えていた。
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さて、受験の結論から言おう。堂々合格だった。
流石私! 自分で自分を褒め称えたい!
いつもなら、そう言っていただろう。だがしかし! 受験の問題用紙をひっくり返したときは、驚いた。吃驚して、言葉も出なかった。
まさか、初めに『1+1=』が出てくるとは。
大勢で行っていたが、始まって数秒間は鉛筆の音はしなかった。
......まあ、そんな事で堂々合格! その後も小学生レベルの問題続きだった!
「はぁぁ、もうしばらくは休みが続いて欲しい......」
「まあまあ。明日は入学式よ? あ、荷物はまとめた? 大丈夫?」
「うん。終わった」
これで寝坊をしなければ良いのだが。
「本当ね、目覚まし時計はちゃんとセットしておくのよ? 電池も変えて」
「はーい......ん?」
お母さん、怖いです。
まあ、その後は何事もなく眠りにつき......
入学式四分前に起床した。