表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

毒≠恋心

作者: 雛桃

※腐表現、キス表現あります。しかも捏造120%なので、苦手な方はご注意下さい。閲覧後の苦情等は受け付けません。

「……。参ったなぁ」


のどやかな出雲の晴天の下、その神は額を押さえてため息をつく。

黒真珠を思わせる襟足まで伸びた艶やかな黒髪に、白磁の肌を持った美しい男神…大国主は僅かに笑顔をひきつらせた。




何を隠そう、彼を困らせている原因は目の前にいる小さい蝮である。

…さかのぼること、事は30分程前。

今日は快晴で絶好の散歩日和だと考えた国主は、自宅である出雲大社の近くを散歩しようと出てきたのである。

隠居してからは、こうして散歩をしたり読書をしたりするのが毎日の楽しみとなっていたりする。



そうして散歩をしていたわけなのだが、その途中偶然草むらから出てきた蝮に国主は動きを止めた。

いや、止まった。の方が正しいかと思う。


チロチロと舌を出しながら地を這う蝮の姿を見ただけで、この大国主ともあろう彼が真っ青になったのだ。

それもそのはず。国主は蝮が大の苦手なのである。

昔、まだ人間だったころに国主は蝮に脚を噛まれたことがあるのだ。それがトラウマになってしまい、蝮を見ると情けないことに腰を抜かしてしまい、動けなくなってしまう。

そして現在、この蝮と絶賛にらめっこ中だと言うわけだが…。

全くもって嬉しくないし生きた心地がしない。



「…う、あっち行ってくんないかな」



苦笑を極めながら、蝮を手でしっしっ、と追い払うが効果はゼロに等しく。

蝮は退くどころか、ゆっくりと国主に近づいてくるではないか。彼にすればたまったものではない。

冷や汗で背中がぐっしょりと湿っているのを感じながら、こんな時スセリが居てくれたらなぁ…なんて情けなく心中で呟く。

こんな情けない姿を誰かに見られたくはないが、もうなりふり構ってはいられない。

とにかく助けがほしい。



(うぅ…っ、誰か…!)



震える喉から声を絞り出そうとした…その時である。



「…たく、出雲まで来てみれば。


情けねーなくそガキ」



耳に覚えのあるアルトが鼓膜を叩いたと思えば、目の前の蝮は目の前に現れた誰かにむんずと鷲掴まれていた。



「お、…お義父さん…」



「誰がお義父さんだよ」



声に不機嫌を滲ませた相手に、国主が安堵した表情で笑いかける。

腰まで届くパサついた周防色の髪を無造作に一つに束ね、頭には蛇革のカチューシャ。

露出した二の腕や上半身は男らしく筋肉がついており、無愛想な顔をした目の前の男性こそ、国主の義父であるスサノオであった。着物は所々破れたり汚れているが、不思議とみすぼらしさは微塵も感じさせない。恐らくは彼の纏う、他を寄せ付けぬ圧倒的な覇者の強いオーラがあるからだろう。

彼は腰を抜かしていた国主を一瞥すると、鷲色の鋭い目を細めた。

国主はもう慣れたから平気だが、スサノオは強面で長身。加えてガタイも良いため、普通なら目が合った位で竦み上がる。しかしながらそこは国主。へらりと脱力した笑みをスサノオに向けてみせた。



「ありがとうございます、助かりました」



「はっ。蝮に噛まれてくたばるてめーも見ものだとは思ったんだがな。スセリが悲しむから仕方なくだ」


スサノオは手中ですっかり大人しくなっている蛇をそっと草むらへ帰してやった。言動や見た目とは裏腹に、その動作は優しい。放された蝮はそそくさと逃げていった。



「それでも嬉しいです。ありがとうございますお義父さん。私のために…なんて優しいお方でしょうか」


優雅な仕草でスサノオに詰め寄ると、まるで繊細なものに触れるように、両手で彼の手を包む国主。知的でどこか憂いに満ちた漆黒の瞳を細め、国主は微笑む。

瞬間ぞわりと鳥肌が立ち、スサノオはバッと手を振りほどいた。



「う゛ぇっ…気色わりぃこと言うんじゃねぇ!!つうか、偶然見かけたから助けただけだ!お前も国津神のボスなら、蝮ごときでびびってんじゃねーよ」



「そう言われましても…。だって怖いんですもん」



「可愛いくねーからその言い方やめろ。……はぁあ、てめーと話してると100年分疲れる」


「おやまぁ。私はお義父さんと話してると100年分幸せな気持ちになりますがね」



「黙れスケコマシ」



スサノオは憎々しげに吐き捨て、はぁあ…とまた深いため息をつくと国主に踵を返した。

こいつと話していると疲れる。と内心ごちた。どんなに嫌味をぶつけようと、彼には効かないのである。むしろ嬉々とした反応しか返ってこない。国主はスサノオが一番苦手としている相手であった。

しかも、である。この国主という男はスサノオに会うたびに過剰なスキンシップを求めてくる。因みに過剰と言うのは、男同士にしては。の話である。至極当たり前であるが。


このような好意は、普通女性に向けるべき言葉であろうに。

この義理の息子は、よもや男女見境ない節操なしなのではないかと疑いたくなる。

それとも単なる嫌味な義父への嫌がらせか。どちらにしろタチが悪い。



「お義父さぁん、待ってくださいよ。どちらへ行かれるのですか?」



「てめーには関係のない話だね」



「ひゃあ冷たい。そう言わずに教えて下さいよ」



この間延びした話し方がいちいち癪だ。

スセリはこの男の一体どこに惹かれたと言うのだろう。



「…ちっ。…スセリんとこだよ。ちっと渡すもんがあんの」



「なぁんだ。残念」



なんだとはなんだ。なんだとは。

イライラして言い返そうとしたスサノオだったが、国主がのんびりした口調で「あのですね、」と続ける。



「スセリなら今日1日居ませんよ」



「……は?」



「あれ?聞いてませんでした?スセリはクシナダ様と今日は●ャニーズのコンサートに行ってますよ」



「へ…。…えぇええ!?」



のほほんと喋る国主に思わず声を上げてしまう。スサノオは古参の神だが割とミーハーである(大体は嫁の影響だ)。そのためアイドル歌手やらというジャンルにも明るい。

●ャニーズくらいなら所属している人間の大体の名前はわかる。



…確かにクシナダは今日出掛けるとは言っていたけども●ャニーズのコンサートなんて初耳だ。今朝クシナダに、どこに行くんだ?と何気無く尋ねた時に「…言わなきゃ、駄目ですか?」なんて頬を染めて可愛らしく言うものだから深く追及はしなかったのだが…そういうことか。


スサノオは花のように可憐な妻の顔を浮かべてがっくりと肩を落とす。

妻のことは信頼しているし愛しているけれども、やはり男として夫としては少々複雑な気持ちになる。やはり妻も神とはいえ一人の女性なのだと実感する。



「ま、まぁまぁお義父さん、落ち込まないで下さいよ。クシナダ様はきっとお義父さんに気を使って言わなかっただけだと思いますよ」


しかも気に食わない義理の息子にまで慰められてしまった。今日は厄日か。

半目で国主をじとりと睨んで、スサノオはただ一言発した。



「……帰る」


「えーっ、私が居るじゃないですか」


「てめーに用はねえよ!…ったく、せっかく出雲まで来たってのに…最悪だ」


「ツレないなぁ…。お茶ぐらいご馳走しますのに…」


「何出されるか分かったもんじゃねーのに飲めるか!」


「もう、お義父さんは照れ屋ですねえ」



どうやったらそんな解釈ができるんだ!と怒鳴りたかったのだが、これ以上いちいち突っ込んでたらきりがない。

大体、俺は神さえも畏れるスサノオ様だぞ。何故こんななよなよしたひょろいガキに引っ掻き回されなきゃあかんのだ!

国主を無視してずかずか帰り道を歩く。



「お義父さんは私がお嫌いですか?」



「あぁ?嫌いに決まってんだろが!今更だな」


「……。そうですか」


国主がポツリと呟く。

それ以降だんまりになった国主に少し違和感を感じたものの、あまり気にも留めずに帰路を歩くスサノオだったが。



「お義父さん」


「だからなん……うわぁあああ!?」



再び名前を呼ばれたと思えば、後ろから注連縄が身体に巻き付いてきた。

それを出した犯人は他でもない国主。

このクソガキ!どこから出しやがった!!

しかもこの注連縄、神力が強すぎて振り払えない。


「なんのつもりだてめー!」


「いやぁ〜私をお嫌いだと申されましたので、少しは好きになってもらう努力をしようかなと」



「この行為のどこに好きになる要素見出だせって!?悪意しか感じねーよ!」



スサノオはじたばたともがいて抗議する。

だんまりしていたのは、反省とかではなく単にこれを考えていただけのようである。

国主は注連縄に捕らえられたスサノオを引き寄せると、邪気の無い笑顔を閃かせた。



「悪意なんてとんでも御座いませんよ、お義父さん」


白魚のような指が、スサノオの顎をくいと上げさせた。まるで人形のような、整った国主の顔が目の前…吐息の触れる位近くにあって、流石のスサノオもたじろぐ。



「な、」


「私はただ、お義父さんが欲しいだけです」



は…?こいつは今なんて言った?

俺が欲しいだけ…だと?どういうことだ?


思考がぐるぐる渦巻いて混乱するスサノオに、刹那柔らかいものが唇に押し当てられる。それが口づけだと理解するまでに、そう時間は要しなかった。


「ん、っ!?」


触れるだけだと思われた口づけだったが、次の瞬間肉厚なぬめりのあるものが口内に割り割くように侵入ってきた。

びくりと肩を震わせ、目を見開いて国主を見やれば、そこには雄の目をした義理の息子の姿があったわけで。

信じられない。そう目で訴えると、目の前の相手は愉快そうな光を目に湛えた。


「ぁ…ん、っふ………ぅぁ、」



歯列をゆっくりなぞられ、舌を組まされ、口内を蹂躙される。

口づけは触れるだけのものしか経験がない。こんな行為など、するのもされるのも初めてなスサノオである。そのひとつひとつが快楽へと彼を誘っていく。

ぴちゃぴちゃと耳を犯す音はまるで麻薬のように、脳から伝ってじわじわと熱を生み出して正常な思考を快楽へ塗り替えていく。

拒否をしようにも、身体が言うことをきかない。次第にぼうっとしてきた頭に、無意識に目を瞑り、腕はだらんと垂れ下がる。



「っは……、ん、っ…ん」


だらしなく半開きになった口の端から飲み込めなかった唾液が流れて伝う。

舌先からぴりぴりと伝う強い感覚は、もしかしなくとも国主の神力であろう。

最強と恐れられ、今尚現役を貫くスサノオであるが、それでも国津神のボスである国主の神力は強すぎて身に余る。

普段へらへらしているが、これでも昔は恐ろしい祟りを起こした神だ。本人は黒歴史だと笑って語るが、その力は凄まじい。

産土神レベルの神ならば、その神気に圧されて失神してしまうだろう。


現にこのスサノオでさえ、身体が若干痺れて力が入らなくなってしまっているのだ。



「はぁ、っ……お義父さん」



熱を孕んだ吐息と共に唇が離れる。

口から銀の糸が引いて、ぷつりと途切れた。


やっと解放され、酸素を欲して肺に空気を一杯に吸い込むスサノオ。

スサノオは乱れた息を整えながら、生理的な涙で潤む目で国主を睨み付ける。

身体に力が入らなく自由がきかないが、もし今こんな状態でなければぶん殴ってる所だ。


「っ…ざけんな…。なんのつもりだ国主っ」



「ですから、」


つい、とスサノオの胸の辺りを指でなぞる国主。

そんな刺激にさえ反応してしまう身体が悔しい。



「っ…」



「お義父さんが、好きなんです。私」



欲しくて欲しくて堪らないんです。

低く囁かれた言葉に、腰が砕けてしまう。

スサノオとて、その言葉の意味がわからない程幼稚ではない。

自分の意識とは別に、熱がじわじわと顔を侵食していく。

言葉が出てこない。さっきまでは次々と口から出た嫌みも、何もかも。ただ呆然としたままそこにへたりこむ。



「…」


国主はそんなスサノオに穏やかな眼差しを向けた。次いでスサノオの乱れた佇まいを正すと、静かに「それでは、またお逢いしましょう」と切ない微笑みをこぼし、注連縄を手中に戻すとスサノオの脇を通りすぎて行った。



残されたスサノオは、暫し宙を見詰めていた。しかし遠ざかる下駄の音に合わせるように、止まっていた思考がだんだんと理解を始める。



「……あいつ、が……俺を好き……?」



震える声で、やっと転がり落ちた言葉。

自分で聞きながら、泣きそうな、なんとも弱々しい声だとスサノオは思った。


信じられない、男同士じゃないかと葛藤するより先に、そもそも国主がスサノオに好意を持っていたことが意外で仕方なかった。


自分の記憶を辿りに辿っても、国主に好意を寄せられるような事をした覚えが無いからだ。むしろ恨まれてもおかしくない事しかしてない気がする。

それなのに、あんなに熱の篭った目で好きだと言われるなんて。

冗談なのだろうか。だが、国主には男色の気など無かった…筈だ。単なる嫌がらせにしては手が込みすぎていると思う。


信じがたいが紛れもない事実を突きつけられ、考えれば考えるほど頭がショートしそうになる。

しかしながら、今の一連の出来事を簡単に燕下できるはずもなく。呑み込むには、まだまだ時間が必要だ。

そう漠然とだが思った。




「はぁ………もしかしたら、一番厄介な奴に好かれちまった…か?」




蝮の毒より奴の毒の方が数倍怖いと、スサノオは重いため息をついて悶々とするのだった。






―――



一方国主は、小指の爪をかちかちと噛みながら歩いていた。

そして、ふと我にかえって己の癖に苦笑する。

この小指の爪を噛む癖は、昔から抜けない。決まっていつも寂しいときや、欲しい物が手に入らない時についついしてしまっている。


「………、お義父さん…」



ポツリと、義父のことを呟いた。

少しムキになりすぎたかもしれない。

こんなことを無理矢理したって、義父の心が手に入る訳もないのに。

…嫌い。そう言われただけなのに。

いつもの義父とのやり取りだ。もう何千何回もあんなやり取りを繰り返してる筈なのに。何回も嫌味なんて聞き慣れてる筈なのに。

胸に鋭い刃物を突き立てられたんじゃないかという位に胸が痛かった。


嫌い。その一言を聞いたら心がざわついた、悲しさが胸を支配した。生まれて来た黒い感情に、呑まれそうになった。自分で訊いたくせに、可笑しな話だと、国主は一人自嘲する。



後にも先にも、こんな気持ちになったのは初めてなのだ。


いつからだったか。

あの強い眼差しが、清い御霊が。なにもかもが。

欲しくて欲しくて、堪らなくて。



どんなに一緒に居ても、満たされない。

話していても、触れても。彼の瞳は国主だけを捉えることはない。

食べても食べても満たされないような虚しさだけが残る。


なればいっそ無理にでも奪ってしまいたくなるけれど、大好きな義父を傷付けたくない。

苦い二律背反。


板挟みになりながら、また国主は、皆の望む「大国主」であり続けなければならない。



もう、全てが欲しいなど贅沢は望まないから、一度だけ…たった一度だけでも。

あの彼が自分に微笑んでくれたら、何も要らないのに。






国主は広く青い空を見上げた。



そこには綺麗な青だけが静かに国主を見下ろしていて。






その綺麗さに

少しだけ、泣きそうになった。

というわけで!!日本神話の神様のBLCPでも風神雷神の次に好きな国スサでぬるっと短編でしたー。二柱は既婚者だけど、お互いになんかもやもやした気持ち抱いてたらいいなっていう理想。うちの女神勢は割とみんなミーハー設定です。ここまで読んで下さり誠にありがとうございましたっ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ