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―終わりなく―

「ねねっ、っくーん、次は三丁目で何故か通れない道があるって~。」

「大方一晩で消えるんじゃねぇか?」

「でもね、それが一ヶ月続いてるらしーよー?」

「あー、気に入っちまったんだろーよ。そこの道。」

今日もまたフラフラとへいの上を歩く少女が一人。

少し遅れて布が舞う。


水姉すいねえさん~、今回は何?」

「水辺でよく足を引かれるらしいわ。」

「水辺ならあねさんやからな~」

カラコロ響く下駄のが二つ。

お香の匂いと煙が後には漂った。


―さてさて、今回はどんな噺をしようか?―


紅々こうこうーっ!終わったよ~ん!やっぱりぬりぬりだった~」

もも、いい加減独自の名前で覚えるのを止めたらどうだ?そのうち間違えるぞ?こう、完了した。」

「あぁ、ご苦労様。大方見当はついていたと思うけれど、やはり塗壁ぬりかべかい?」

フェンスの上に腰掛けた少年が問いかける。

「うんっ!あ、そういえばすいちゃんとしろたんはー?」

そう問いかける少女に対して少年は視線を走らせる。

「ただいま戻りましたで~」

こう河童かっぱだったわ。少し脅したら『もうやりません』って言ってたから放置してきたんだけど大丈夫だったかしら?」

少年の視線の先には陽気に手を振る青年と気だるそうな女性が姿を現す。

「恐らく大丈夫だ。ご苦労様。」

「礼には及ばんよこう~。」

ひらひらと手を振る青年からはお香が香る。

「ぷっふぁっ!あはははは!しろたん今日は何がモチーフだったのぉ?あはははははっ!」

「んな笑わんでもええやないかもも~。今日はあねさんとの仕事やったから、胡散臭そうな闇金融業のあんちゃんって所かいな?」

はく、いい加減話し方がムカつくから変化へんげを解いてくれないかしら?」

冷たい視線が青年に突き刺さる。

「おぉ怖っ。まぁ、水姉すいねえさんの頼みは断れんしなぁ~」

ニヤリと青年が笑うと匂いが消えて、少年が現れる。

「さて、今日のの高さならもう一件くらいならいけそうだけど。どうする?」

ピッと掲げられたカードを月明かりたいようが照らす。地面には小さな影が映る。

ふっと吐き出された煙が円を描く。

空中へと身を躍らせたカードは青白い炎に包まれ消える。

フードを揺らして飛び上がった少女は電線にぶら下がる。

紅々こうこう~、今日のはつまんなかったから皆気持ちは一緒だよ~」

「珍しく一番にすいが応えた段階でわかってたろ?」

ふわりとお香の匂い。

「そういうのを愚問って言うのよこう、って話~。」

女性が一人現れて消える。

はく、あんた一回凍りたいの?」

「やだな~、可愛い悪戯いたずらでしょ?」

狐の面を上に上げ、少年は廃車の上に避難する。

「ならば決まりだ。さて、行こうか。」

フェンスから飛び降りた少年の目はあかい。

「今回は何かな~?」

綺麗に着地する少女。

「ま、気楽に行こうぜ。」

いつの間にか隣に立つ少年。

「お前達は危機感というものを持て。」

「そういうこくは何も出来ないのよ?気をつけた方が良いんじゃないかしら?」

「るせぇ!」

二人の男女は軽口を叩き合う。

「今回は結構な山だ。気を引き締めろ。」

「あいっは~い♪」

誰も居なくなった路地裏に鈴の音が響いた。


―似たもの同士はうまくいかないものさ―


「んで、今回は何だ?」

「行けばわかる……と言いたい所だけどそうはいかないね。でも、先に正解こたえを教えるのは好きじゃない。僕から敢えて一言言うとしたら、写し鏡…かな。」

「むむーっ!紅々こうこうのヒント難しいっ!っくんの質問が悪いんだよ~」

「俺のせいかそれ?」

「だってそうでしょ~?」

少女が空き缶を蹴り飛ばす音だけが残る。

「もうすぐだ。」

短く少年が告げると、女性の姿がふと消える。

「じゃあこう、私は先に」「いや、待てすい。」「こう?」

冷たい風と共に女性が現れる。

「今回は全員で動く。良いな?」

「わかった。」

煙管きせるに火をつけて女性はくゆらせる。

「うわぁ……こう、これは無いでしょ…。凄い嫌な臭いがする。」

しろたん?」

顔をしかめて少年は立ち止まる。

「流石ははくといった所か。この距離でもわかるのかい?」

「逆に何でももこく、それに水姉すいねえさんがわからないのかが疑問だね。」

袖で鼻の辺りを少年は覆う。そんな少年に気も止めず、少年はすぐ先の角を左折。

「ふむ、それだけはくが嫌がるって事は同族、もしくは同系列か。」

「ご名答。」

パチンと少年は指を鳴らす。

最近憑かれたようでね。」

視線の先にはうずくまる黒い影。

「あー、憑物堕つきものおちかい?」

あからさまに嫌そうな顔をして女性は煙を吐き出す。

「うびじょえぇぇぇぇぇぇいおがはふおでくぇわあああああぁぁぁぁぁ」

黒い影は絶え間なく奇声を発し、滅茶苦茶に動き回る。

「うわぁ……本気で憑物堕つきものおちじゃん。」

耳を塞いで少女は少し後ろに下がる。

「だから全員でって言ったのか?」

ふわりと漂う布が問いかけた。

「あぁ。あれは烏天狗からすてんぐ憑物堕つきものおち。御しきれなかったようだよ。」

紅く輝く眼には憐れみが混じる。

「嫌だなぁアレ。ま、でも放置すると腐臭も酷くなるし、ちゃちゃっと済まそうかねい。」

少し遅れてやってきた少年は面を被る。

「ん~、ま、ろっか♪」

ポンという音と共に少女の姿が変化する。

「はぁ、仕方ないわね。」

一陣の風が吹き、女性のまわりの空気が冷える。

「悲しき同胞なかま鎮魂歌レクイエムでもささげようか。」

一言少年が呟くと熱風が巻き起こる。少年は下駄を鳴らして軽やかに壁を駆け上がる。

っくん!」

少女は空を舞う。

「ふぅ、全くあの子達は。結局私頼みかい?」

女性が黒い影に向かい、手をかざすと、奇声を発する影が一瞬動きを止める。

カンという小気味良い音と共に少年が空へと身を躍らせる。


刹那  氷が弾け飛ぶ。

「あかんコウ一回いっぺん戻れ!」

少年が何かを空中そらはなつ。

「お前さん、無茶は駄目だ。」

空中で少年がキャッチされた直後に黒い羽が飛来する。

「そうはいきませんよ?」

そう尻尾を揺らした少年が呟くなり、羽が全て燃え尽きる。

こうー、人に注意する前に自分~」

「大丈夫だ。はく、お前が援護してくれるだろう?」

「まぁ、そうですけどね~」

お香の匂いが一際ひときわ強くなり、少女、青年、女性、おじさんと口調も姿もどんどん変化する少年。

紅々こうこう!私はどこをれば良い?」

た限りだと、今回は無いよ。あの憑物堕つきものおちは同胞なかまだからね。」

「了解。じゃあとどめは紅々こうこう以外刺せないね。っくん行くね!」

「おうよ。気ぃつけろよ。ま、拾ってやるけどな。」

「だーかーらぁっ!大ー丈夫だって!」

身軽に飛び降りた少女は自在に駆け回り、影の動きを翻弄ほんろうする。

「さっきのは私が悪かったわね。次で決めるわよこうももはく!」

もう一度女性が手を向けると、今度こそ影の動きが止まる。

面の周りを炎は踊り、尻尾が揺れる。

こく。」

「あいよ。」

影の真上に紅いの少年が落ちてくる。

再び上に向けて飛来した羽は、全て炎に焼かれて消え失せる。

「ここだ」

そのままの勢いで少年は刀をある一点に刺した。

誰も通らない路地裏。

そこに山吹色の光があふれた。


―これは一体誰の為の噺?―


紅々こうこうー。私達もいつかあぁなっちゃうのかなぁ~?」

フードを深く被った少女はボソリと呟いた。

危険性リスクが無いわけでもない。」

「わぁ~お。こうの脅しっぷりったらないね~」

淡々と述べる少年とおどけてみせる少年。

一見正反対な事をしているようで同じ行動。それらは彼らの瞳の一致。

「まぁ、考えてたって仕方ねぇ事はある。誰が何時、どんな時に何が起こるのかっていう未来の事なんて読めないんだからな。」

塞ぎこむ少女の顔を青年は撫でる。

こう、全員でと言った訳は、実力不足だけじゃないだろう?」

物憂げな顔で問いかける女性。

「あぁ。」

短く応える少年。

皆が思い思いに想いを馳せる。

カシャンという小さな音と共に彼はいつもと同じ、フェンスの上に腰掛ける。

「僕達にも危険性リスクはある。でも、その為の五人だろう?」

少女が蹴った空き缶が空中ちゅうを舞う。

缶が落ちると鈴が鳴る。

「さて、ここで問題だ。」

少年はピッとカードを取り出す。

るか?らないか?」

派手な音を立てて少女はドラム缶の上に立ち、青年は空へ。

ニヤニヤと少年は狐の面を被り直し、煙管きせるからは煙が立ちのぼる。

月明かりの元、鈴の音は響いた。

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