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―物語とは―

からすが鳴く。人はまばら。空の色はくれない。時は夕刻。

みちに響くは鈴の音。人には聴こえぬ微かな声。

あやかしと人の入れ替わる時、それを人は誰そ彼、黄昏と呼ぶ。

人は自然に家路を急ぐ。無意識に。自然に。されど意図的に。

そんな人の波に逆らい闇へと溶けこむ若者が一人二人。

今日は、そんな少年少女達のはなし


―さぁ、噺をきこうか―


「やっほ~、元気してた?」

大きな音を立ててドラム缶の上に着地した少女。

「お前はちと元気すぎるだろう。違うか?」

壁にもたれかかる青年。

「久しぶりに集まったってのに少し当たりがキツいんじゃない?」

廃車の上に寝そべっている少年。

「まぁ、落ち着きなさいよ。」

煙を吐き出す女性。

「よく集まってくれたね、皆。」

そして、フェンスの上に腰掛ける少年。

「よく言うぜ、人を集めておいてなぁ」

「ふふ、それでも集まる集まらないは個人の自由よ?」

「るっせ!」

「はいはい、そこまでにしなよ?何で僕たちを集めたのか聞かないとね?」

「もー、会いたくってウズウズしてたんだよー?」

元気よく少女はドラム缶を蹴り飛ばして地面に着地。

ももこくすいはく、今日は君達に頼みがあってね。」

少女、青年、女性、少年を順に指差して少年は一つ伸び。

「へー、何?面白い案件かい?」

少年が身体を起こすと、ちょうどの光があたる。

胡散臭い笑みを浮かべる彼の頭を狐の面が彩る。

「どーせこっちにわざわざ持ち込まれたって事は面倒事でしょう?あーやだやだ。」

カランと響く下駄の音。

ふっと吐き出された煙が消えると着物を少し着崩した女性の姿。手に持つ煙管きせるからは煙が立ち上る。

「でも、そんな事言いながらすいちゃんも楽しんでるんでしょ~?」

ぴょんと軽くジャンプして鉄柱にぶら下がる少女。

猫耳のついたフードが動く度に揺れ動く。

もも、いい加減落ち着いたらどうなんだ?お前、以前もそうやって遊んでて落ちたろ。」

頭を掻きながら鉄柱の元へと歩み寄る青年。

かき上げられた髪の間から銀のピアスが光る。

「無駄な話はこの際省こうか。この案件、いつもより少し面白いと思うよはく。そしてすい、見方によれば面倒だ。今回は人にいたのを討伐って所だ。るかい?それともらないか?」

ピッと投げられたのは簡素なカード。

書いてある文字はYes・No

「これはこれは。僕はいつも通りだね~こうさんよ?」

ニヤリと笑って少年はカードを投げ返す。カードのYesに焦げた丸。

「愚問っていうのよ、こういうのを。集まった段階で答えは一つよ。」

ふっと煙に乗せて返した紙には氷でYes

「わったしも~」「俺もだ。」

少女が投げ返したカード二枚には、やはり引っかき傷のような丸が二つ。

「全員良い返事だ。はく

ひょいと少年が投げたカードが青白い炎に包まれて消える。

「なかなか見事なパスで。」

「いつも通りさ。」

ストンとフェンスから飛び降りた少年。青年にキャッチされる少女。ニヤニヤと笑いながら面を被る少年。ふっと吐き出す煙が漂い、鈴の音は響く。

「さぁ、行こうか」

顔を上げた少年の眼があかく光った。


―そして、彼らの一日は始まる―


「ね~え紅々こうこう~、今日は誰をるの~?」

「今日は引きこもりの息子さんだそうだよ。」

「きゃっは~可笑しい!引きこもってかれるとか運無さすぎなぁ~い?」

もも、人には事情ってもんが有るんだろうよ。あんまり笑ってやるな。すい、お前はどうするんだ?」

「私はいつも通りバックアップ専門。そういうあんたは運びだけでしょ?」

「ま、そうなるな。はくはどうせ囮役おとりやくだろ?」

「失礼しちゃうよこく。引き付けとかカモフラージュの専門家って言ってよ。」

「お前達、無駄口が多い。もう着くぞ。」

「あいっは~い紅々こうこう!」

ひょいとへいの上へ上がり、少女は後ろ向きに歩き出す。

ため息をいた青年は、少女に付き添う。

「ここがそうだ。」

少年が指差したのは一般家庭に比べるとはるかに大きい家。

「ふにゃっ!」

塀伝へいづたいに歩いていた少女が慌てて地面に飛び降りる。

あぶねぇなもも。どうした?」

小柄な少女を青年は軽々とキャッチ。

っくん!ここヤダ!ビリってしたもん!」

地団駄じだんだを踏む少女を見て少年が爆笑。

「ちょっ!しろたん酷くない?!ねぇすいちゃんもそう思わない?!」

むっとした表情を浮かべて女性に訴える少女。

「あのねもも、こんな家ならセキュリティーに電気も流すわよ。こう、私行くわよ。」

「あぁ、頼むすい。」

少年が告げると女性の姿は闇に消えた。

「ん~、水姉すいねえさんの変化はいつ見ても惚れるねこう。」

「お喋りが過ぎるぞはく。依頼主との接触はお前の得意分野だろう?頼んだよ。」

「あいあい。」

軽い返事と共に少年が押したのはインターホン。

ふわりとお香の匂いがただよう。

「はーい、あら、来て下さったのですね?最近息子の様子が妙で…」

「それはそれは奥様もお悩みだったでしょう。しかし私共わたくしどものカウンセリングによって心の悩みが軽くなる事は間違いありませんよ。少しお話をうかがえますか?」

「えぇ、もちろんですわ!きっと主人もあの子が元気になれば喜びますわ。本当に助かります!あ、どうぞお入りになって下さい。」

そそくさと招き入れる家の主に背を向けて少年はウインク一つ。

堂々と四人は屋敷の門をくぐった。

「後は任せたぞ、はく。」

「あいは~い♪任せてよこうこくもも、後はそっちでよろしくしてよ~?」

機嫌良く三人を少年は送り出して、彼は奥様の相手。

最後にもう一度少年が振り返って確認すると、そこにはきっちりとスーツを着た真面目そうな青年が相手をしているのが映った。

「んじゃぁ行くぞ、こうもも。」

「頼む。」「よろしくね~っくん♪」

二人の了承を得るなり、こくの姿が変化する。

「場所はすいに聞いたし、ひとっ飛びすんぞ。」

ひょいと背に二人を乗せて、一枚の布が空を舞った。


―さぁ、一仕事―


「あいよ、後は好きにやれ。拾ってやるからな。特にもも。」

「もう落ちませんーっ!」

「そう言ってる奴程落ちるんだよ。」

「べーっだ!」

こく、ご苦労だった。」

「おうよ!」

ふっと空の色に溶けて消える。

残された二人は仲良くベランダに着地。閉め切られた窓からは微かな光が漏れている。

「うっわぁ~、完全なるひっきー」

もも、よろしく。」

「おっけ~紅々こうこう!」

カシャンという小さな音と共に窓ガラスが割れ、窓が大きく開く。

そんなことは気にも止めず、少年は部屋に進入する。

入った室内には僅かな腐臭と禍々まがまがしい気配。

遅れて入った少女は露骨に顔をしかめる。

「うーわ、これでよく生きてるよね~くっさ!」

「まぁ、この臭いは僕達にしか判らないからね。しかし、立派に育ったものだね。」

「だね~」

のんびりと二人が見上げる先には巨大なあやかし

「これってしろたんに燃やしてもらえば良かったかもよ~?」

「いや、はくには足止めを頼むべきだったからあれでいい。」

「でもわたしコイツの相手やだな~」

もも

「あいは~い。了解ーっ!」

ポンという可愛らしい音と共に揺れるは猫耳と尾。

紅々こうこうどこ~?」

「んーと、肩甲骨の付近だね。」

「おっけ、そーれっ!」

人とあやかしを繋ぐ部分が切れ、窓から侵入した際に身動き一つしなかった部屋の主の目に、微かな光が戻る。

こう、広い所に連れ出した方が良いわ。はくがこちらへ来てる。」

「ふむ、困ったな。もも、きちんと切ったかい?」

だいじょ!こう見えてもももちゃん、お仕事は素早く安心丁寧派だも~ん!」

すいこくももと僕を拾うように連絡を。もも、先に飛び降りろ。」

「了解紅々こうこう!お先ねー♪」

ひょいと窓から少女は身を躍らせる。

「さて、お前はこちらだ。」

一際ひときわ大きな音を立ててあやかしが庭へと吹っ飛ぶ。

コンという音を立て、ベランダの手すりに立つ少年。

足元の下駄は一本歯いっぽんば。手には日本刀。そして闇に輝くあか

「愛刀がけがれる。」

そう一言吐き捨てて、少年も飛び降りた。

「また派手にやらかしよったなこう。」

舌打ちを一つした少年は部屋にここのつの尾を揺らして入れ替わった。

こく

「あいよ~」

短いやり取りで正確に一枚の布は少年を運ぶ。

紅々こうこう~、何かアイツ超切れてる~」

あやかしを面白そうに指差す少女。

「まぁ、寄生主との境界をったからな。」

そんな少女に少年は苦笑。

「やっぱアイツ嫌ーいっ!」

ふいと背を向けた少女に触手のようなものが伸ばされる。刹那、

「おい、勝手に触ろうとしてんじゃねぇ。」

鋭い言葉と共に触手が落ちる。

「あーん、もう最悪ーっ!超キモい!後でしろたんに消毒頼もーっ!爪の間に入ったしー。」

飄々とその場を離れた少女はひょいと空中にある布に乗る。

っくん!見物!」

もも……お前という奴は……。こう、いけるか?」

「余裕だよ。」

簡潔に返事を返してあやかしに歩み寄る。

「さて、そろそろ終わらせようか。すい

「はいはい。日本刀だけでいい?」

「ああ。」

突然現れた女性と共に、場の空気が冷える。

「はいよ、こう。」

「どうも。」

少年が差し出した刀に女性が手をかざすと刀身が凍った。

「じゃ、これにて終わりということで。また黄昏刻たそがれどきにでも。」

少年が呟くと、あやかしは二つに裂け、そして消えた。

「ご苦労様。」

女性からのねぎらいの言葉を聞き流し、少年は刀身を綺麗に拭き取り刀を収める。

「いっつ見ても惚れ惚れしちゃうね~♪」

「お見事、こうはくは?」

ふわりと着地した二人組み。

「もうすぐ戻ってくるよ。さぁ、帰ろうか。」

少年は足を門へと向ける。

屋敷から四人はあっさりと立ち退いた。


―これは誰の噺?―


「酷いなぁ~皆。僕を置いて帰っちゃうなんてさ~」

しろたんは後処理担当でもあるでしょ~?」

「いや、それはそうなんだけどねーももー」

「ご苦労だったなはく。」

「あいはい。」

ひらりと手を振る少年。ゆらりとお香が立ち上る。

今は真夜中。の光が一番高い時間とき。不意に雲が途切れてが顔を出す。


ドラム缶の上に立つ猫娘。


壁の近くに漂う一反木綿。


廃車の上に胡坐をかく九尾の妖狐。


煙を吐き出す雪女。


フェンスに腰掛ける鬼。


「さて、次の問題だ。るか?らないか?」

既にカードは投げられた。

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