表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/29

間章


 走る。

 暗闇の中を必死で走る。

 どれほど経っただろうか、見当もつかない。

 目に見えるのは薄く照らす月の光、そして周りの木々。

 ここが森のような場所と言うことは理解できた。

 けれど、どこの森なのかは分からない。

 休みたいが、休んでいる間に逃げ出したことが分かり追手が来るかもしれない。

 後ろを振り向く。

 誰も追ってくる様子はない。

 体は正直だ。その事実が分かると、走るのをやめ立ち止まってしまう。

 ハア、ハアと息を整える。

 一旦休んだ体は、頭に冷静さを与えてくれた。

 大丈夫。朝までは気づかない。あいつは一人だけだ。恐らく寝ている。気づいていない。

 ただ、自分一人だけなのが心細い。

 

 いつも私たちは三人一緒だった。とある山のなかでいつも遊んでいた。二人といるだけで幸せだった。

 なのに突然あいつが現れて、私たち三人を捕まえようとして、私たちを引き裂いた。

 一番鈍くさい私だけが捕まり、二人は私を取り戻そうと追いかけてくれたけど、あの奇妙な、鉄の馬には追い付くことはできなかった。

 目隠しされたままどこかの家に入り、目が見えた時は暗く、狭い部屋だった。

 鍵がかかっており、中からは抜け出せないようにしてあった。

 しかし諦めるのは早い。さっそく抜け出せないか試行錯誤し、行動に移した。

 暗闇の部屋にわずかに入った月の光を頼りに、使えそうなものを探し出す。それらを鍵穴に差し込み、開かなかったら違う物で試し、それを繰り返し行った。

 その結果、ついに開いた。

 そっと扉を開け、壁伝いにそっと外へ行く。

 そこから先はずっと全力疾走だ。


 こうして今に至る。

 他の二人は大丈夫だろうか。無事にいるだろうか。

 きっと大丈夫。鈍くさい私と違って二人は賢い。きっと無事でいるはずだ。

 ……会いたい。

 自然と涙が溢れてくる。

 本当に一人きりになるのは、これが初めてだった。

 一人の夜がこんなに寂しいなんて。

 一人の夜がこんなに怖いなんて。

 泣いている場合じゃない。早く遠くへ逃げないと。

 再び走り始める。

 斜面を下っているから、恐らくここは山だ。

 私たち三人が暮らしていた山とは違う。暗くても、それはわかる。

 早く帰りたい。だけどここがどこなのかもわからない。

 とにかく前に走り続ける。

 しばらくすると広い場所に出て、眩しい光を放つあの鉄の馬を見つけた。

「あいつ」かと思ったが、どうも形が違う。別のもののようだ。

 鉄の馬は止まっている。男が一人、鉄の馬から出て、赤い光を放つ短い棒を口にくわえてだした。

 すると、今度は変な音が聞こえてきた。その音が鳴る物をポケットから出し、耳にあてる。

 なにやら話している。不気味だ。誰もいないのにそこに人がいるように話す姿は。

 ふと、考えた。

 あの鉄の馬は、あいつの物とは違って後ろに大きなスペースがある。様々な物が積まれているが、それの影に隠れて乗れるのではないか?これからも歩くより、あの鉄の馬で移動した方が断然早いはずだ。

 それに、何かと話している男は先ほど「町」という言葉を言った。

「町」とは、人々が多く暮らす場所だという知識を持っている。昔、三人で遠くからそれを見渡した思い出がある。

 なんだか、行ってみたいという衝動に駆られる。

 もちろん、二人がいる場所へすぐ帰りたい。しかしここがどこだかわからないうちは、とりあえず移動するのも手だ。

 ……行ってみよう!

 素早く鉄の馬の後ろの空いたスペースに乗り込む。そして前にいる男には気づかれないよう物陰に隠れる。

「町」というのは人間が多く住んでいる。それは不安だ。

 しかし、私たち「妖怪」の多くもまた、人間に溶け込んでいると聞いたことがある。私を助けてくれるかもしれない。

 もし、妖怪を見つけることが出来なかったら。

 やむを得ない。最悪の場合、「妖怪のことを知っている人間」を当てにするしかない。運が良ければ助けてくれる。

 問題はどうやって探すのか。

 ……難しいことを考えるのは苦手だ。

 とにかく、「町」とやらに行ってみよう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ