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子ウサギ妖怪との非日常的な日々  作者: 樫 ゆう
第三章 三匹の子ウサギ
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第三章 三匹の子ウサギ 04話

 帰りは夕焼けが眩しい時間だった。

 楓はおれの一歩先をトタトタと歩いている。見るからにテンションが上がっているが、それは現代の洋服を着て歩いているからだろう。時折クルリと回っておれに見せつけてくる。服とは別に、さっき学校に行く時と何かが違うと感じていたが、それもすぐに思いつく。楓の靴だ。元々楓は下駄だったため、カランコロンと音がしていたが、今はしていない。さっきまで気づかなかったが、今は女の子らしいスニーカーを履いている。


「このスニーカーという履物、少し歩きにくいですね」


 楓は足を軽く挙げ、靴をおれに見せつける。


「嫌なら下駄に戻るか?鈴美音さんから預かっているけど」


 楓はすぐにかぶりを振った。


「いえ、いずれは慣れます。それに、この服に下駄は似合わないと、鈴美音様がおっしゃっていました。あと、もらった服でファッションを考えて、上手に着なさいともおっしゃられました」


 鈴美音さんは妖怪にもファッション性を気にさせるのか。それにしても、楓はファッションなんて言葉わかってないだろ。

 なんにせよ、楓は終始楽しそうだ。さっきも通った道だからか、手当たりしだい立ち止まって興味を持つことは少なくなったが、それでもいつも微笑みながら歩いている。


「楽しそうだな」


「はい!このような街でゆと様やほかの皆様と出会えて、こんな衣服まで着させてもらって、とっても嬉しいです。私は幸せです!」


 幸せで何より。楓の微笑みには何の暗みもない。誰が見てもそう思うだろう。

 だが本当は違う。心から嬉しく思っているのだろうが、実際、楓は気にしていること、不安になっていることがあるはずだ。

 それは、楓の正体に気づいた時のこと。

 おれが楓に確認を取った後、「三匹の子うさぎ」という伝説において、当然というべき気になることがあった。

 楓を除く、他の子うさぎたちのことだ。

 その時楓は、「捕まったのは私だけで、他の二人は逃げることができました」と言い、他の二匹を心配させない素振りを見せたが、夜、楓が寝てしまった時に、他の二匹の名である椿、柊の名を呟いたのだ。そして頬には一筋の涙が伝っていた。

 おれ達の前では心配させないよう気丈に振る舞ってはいるが。本当は他の二匹を心底心配しているのだ。


「楓」


「はい。なんでしょうか」


「おまえ、他の二匹のことが心配じゃないのか?」


 思い切って聞いてみた。

 変わらず微笑んだままだったが、おれの問いに一瞬表情を曇らせたのを見逃さなかった。


「心配いりません。二匹とも私より賢く、どうすれば逃げられるのかを知っています。私が心配するほどあの二匹はヤワじゃありません」


 嘘だ。本当は心配でたまらないに違いない。


「本当か?」


「なんで嘘をつく必要があるのですか?本当です。彼女たちが聞いたなら、自分自身のことを心配しろと言うでしょう。ゆと様が気にすることでもありません」


 強がっているのが見え見えだ。

 しかし、このままその真偽を確かめ続けたところで一向に状況が変わらないのは明白だ。おれはあえてこの場では本当のことを聞きだすのを諦めることにする。


「わかったよ。心配してないんだな」


「はい!」


 カラ元気なのがまるわかりだよ。

 ため息をつき、楓の後姿を見てふと思う。

 もしかしたら、おれは楓に対してすでに心を許しているのかもしれない。だからこそ楓を預かるのに承諾し、嫌だと言いながらもこうして仕方ないと思っている。

 そのせいなのか、余計なことを考える。可能なら、他の二匹も捕まる前に保護したいと。

 興味を持たない。関心を持たないがおれのポリシーだったが、それは静かに崩れ始めていた。だがその意味を深くは考えなかった。

 

 それがおれの明確な心の変化と気づくのは、もう少し後のことだ。


「ゆと様!見てください!夕焼けと星と月が空に全部あります!とてもきれいです!」


 この時間帯ならこんな景色珍しくないだろう。まあ確かにきれいだが。

 それにしても、少しのことできゃあきゃあ騒ぐのは本当に勘弁してもらいたい。


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