第一章 そのサークルの名は『妖怪探究会』 01話
初投稿作品です。ジャンルはファンタジーですが、一応ミステリー要素もあるので(といっても、文章表現が甘いせいか推理シーンとかかなり雑です……)、ファンタジーなミステリーの雰囲気を楽しんでいただけたらなと思います。
ピンポーン、という音が部屋の中で響いた。
来客の予定はない。セールスか何かか?住んでまだ半月ほどなのに、すでに二回来ている。一人暮らしのおれに何を買わせようとしたのか。「二度あることは三度ある」という格言が頭に浮かび、その類だと決めつけインターホンに出た。
「すいませんが、セールスならお断りです」
しかしセールスの類ではなかった。
「いえ、宅配便です。甲坂ゆと様でお間違いないですか?」
なんと、宅配便だったか。失礼なことをした。
「あ、はい。そうです。……誰からですか?」
「送り主も甲坂様です」
同じ名字、ということはたぶん父さんか母さんからだろう。
「わかりました。今開けますんで」
配達物の送り主は母さんだった。少々大きめの段ボールを受け取り、それを床にドンと置く。さっそく開けてみると、「ゆと君へ」という文字が大きく書かれた紙が一番上に置かれていた。けれど、実の息子に君付けするとは、あまり感心できない。
ゆと君へ
一人暮らしはもう慣れた?
ちゃんとご飯食べてる?
病気とかしてない?
大学はちゃんと行ってる?
一人暮らしを始めてまだ一カ月も経ってないのに、私は心配でなりません。家から通える範囲だったらよかったのに……。でも、男の子は一人で生きていく力を持たなきゃいけないもんね。心配だけど、うまくいくと信じています。
さて、突然だけど、これからの生活に必要だと思うものを、勝手に送らせていただきました。食べ物、飲み物、生活雑貨、などなどです。
それと、あなたの部屋に置いてあった物を少し送ります。というのも、あなたがいた部屋をちょっとリフォームして、プライベートルームにしようと思ったからです。それにはあなたの持ち物が邪魔だったので……。
家族みんなが心配しています。決して無理はしないようにね。近いうちにまた会えることを楽しみにしています。
母より
なんというか、おせっかいな母親だ。自分の子供が一人暮らしをしたばかりであれば、母親はすべてこんなにまで過保護になるのだろうか。
まあおれの場合、小さいころから過保護に育てられた方らしいが。
にしても、息子の荷物を堂々と「邪魔」呼ばわりするとは……。
荷物の中身は母さんが言った通りのものだった。中身を一つ一つ出していくと、一番下に古い本が数冊敷かれているのを見つけた。これがおれの部屋にあった、リフォームするために「邪魔な」ものだろう。
手に取ってみると、懐かしいと思うと同時に、嫌な思い出も思い出してきた。
『忘れられた妖怪たち』
『人であらざるもの―現在に蘇った者たち―』
昔はこんな本を読んで楽しんでいた。今思うと、そんな自分が憎々しい。きっと人でない何かに憧れる時期だったのだ。怪獣なり、ヒーローなり、誰しもそんな時期は来る。すでにおれにとっても、これらの本が視界に入ること自体嫌に思えていた。
ただ、一冊だけ目に留まる本、もとい何枚もの紙を紐でつなげたものがあった。題名はない。自分が作った本なのだから、ないのも当然だ。それは、おれ自身が個別に調べ、まとめあげた妖怪図鑑のようなものだった。
こんなもの、いまさら誰が読むんだ。
自主制作した本を再び段ボールに戻し、さっきも取りだした妖怪関係の本もその中に入れる。その段ボールを、押し入れの奥深くに封印した。
さて、気持ちを切り替えるか。
取り出したのは、今年度の授業の履修届だ。これを明日までには提出しなければならない。もし出し忘れたなら、今年一年なんの授業も受けずに過ごさなければいけなくなる。本当は、自分で授業を決めるという面倒くさいことはしたくない性分だ。けれど、これを考えなければ授業には出られない。勝手に授業を決めてくれる大学ならばよかったのに。
やっぱりなるべく単位を取りやすい授業を履修したい。二週間ほど通って得た情報から割り出し、自分にとって苦労しない時間割を決めなければ。
そんなおれの気をよそに、窓の外から子供たちの声が聞こえる。
もう夕方だ。小学生ならばもう変える時間である。考えもせずに窓の外を見ると、子供たちが四人いて、仲良く横一列に並んで楽しそうに喋って歩いている。
そんな様子を、呆然と見つめるおれ。
難しいことを考えず、ただ遊びに必死な子供たち。今のおれの怠惰な大学生活に比べれば、なんと健康的で楽しそうなんだろう。
けれど、自分もあのころに戻りたいとは思わない。確かに楽しい思い出もあった。
同時にそれは嫌な思い出でもあるのだ。
子供たちが通り過ぎていくのを見届け、吐き捨てる。
「君らの中に、妖怪がいなければいいな」