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Avenger  作者: J.Doe
Actors On The Last Stage/Program:Avenger
81/107

Raedy To Flame/Heady To Blame 4

「だとしてもだ、よく許婚の僕にそんな口を――」

「あら、いまさらの話ですわね。コロニーは焼け落ちてしまいましたし、そもそも婚約は解消になったはずでしてよ。それに、わたくしには心に決めた方がいらっしゃいますの」

「……あの薄汚い傭兵か」


 憎々しげに呻いたポズウェルは苛立ちを隠そうともせずに舌打ちをする。

 最大規模のコロニーBIG-Cの防衛部門最高責任者であるチャールズ・アロースミスの1人娘にして、空爆という予想外の攻撃に対して素早く対応して見せた参謀でもあるローレライ・アロースミス。

 その高貴で清廉な存在は硝煙と血に汚れた傭兵の傍らにあってはならない。


 それがローレライ・アロースミスという元許婚であれば、ポズウェルにとってはなおさらだったのだ。


「いい加減に目を覚ますんだローラ、人々を導く君がそんなんでいいと思っているのかい? 許婚に不義理な態度を取って、薄汚い傭兵に絆された。気に入らないが今なら許してあげてもいい」

「結構ですわ、自分を安売りする趣味はなくてよ」

「この、尻軽の売女が――」


 激昂するままに声を張り上げようとしたポズウェルは、眉間に突きつけられた質量に言葉を途切れさせてしまう。

 所々が擦り切れ、華奢なローレライの手には不似合いの合金製の殺意。

 それは隣立つ証としてローレライが一方的にウィリアムから譲り受けたCrossingの刻印が施されたハンドガンだった。


「無手の相手にそんな物を向けるなんて、とことん薄汚れてしまったようだねローラ」

「わたくしはか弱い女ですもの、当然の嗜みですわ――それと、これ以上あの方とあの方のものであるわたくしへの侮辱。それを許した覚えはなくてよ?」


 殺すぞ、とローレライは言外に付け足して惚れ惚れとするような美しい笑みを浮かべる。

 普段であれば戦場も知らない女が銃を持っていたところで何も恐れる事はないが、戦闘指令という立場は自分を不穏分子とするかもしれない。


 そう考えてしまったポズウェルは背を伝う冷や汗に肝を冷やす。

 かつての許婚が傭兵を捨てて自分の下に帰る。そんな望みすら持てないほどにローレライの透き通るような碧眼は純粋な怒りを讃えていた。


「そこまでにしておけ。ポズウェル卿、貴様の負けだ」

「邪魔をしないでいただこうかルーサム卿、不義理を働いた許婚は僕が裁かなければなりません」


 助けられた安堵よりプライドが勝った様子のポズウェルに、ルーサムは付き合ってられるかとばかりに肩を竦める。


「それで勝ち目も無いとはいえに手を上げるというのか? まあチャールズの娘もやり過ぎだとは思うが、誇りの主張しかしない貴様と2度もコロニーを救った傭兵の小僧では勝負になりはしない」

「ルーサム卿! あなたもあの傭兵の肩を持つと仰るのか!?」

「結果的に我々はあの小僧に2度も救われた。恩人をそのような言う方も不義理だとは思うがな――この話はもう終わりだ。これが最後とは言え共に戦うのだ。身内で牙を剥き合う事など人の上に立つ者がすべきではない」


 返す言葉もないルーサムの正論にローレライはゆっくりと銃を下ろし、ポズウェルは安堵と苛立ちに揺れる心を押さえ込むように拳を強く握る。

 前線で兵を動かすポズウェルには参謀が必要で、後方から指示を出すローレライには自在に動く駒が必要。

 2人が言い争い、血を流す事に何の意味もないのだから。


「チャールズの娘――いやアロースミス卿、策はどこまで仕上がっている?」

「策と言えるほどではありませんがそれなりには。しかし資金と武装と戦力、全てが足りませんの。更に言えばそれらが揃っていたとしても私兵集団の殲滅は難しいかと思われますわ」

「大言を吐いた割には随分なことを言うじゃないか」

「ええ、感情の赴くままに戦うというような愚の極み、考えた事がございませんの。確実な目的の遂行、それが我々に求められた事ではなくって?」


 ローレライはそう言いながらウィリアム譲りの手段を選ばないという思考から辿りついた答えをタブレットに表示する。

 今回の作戦の目的は穏健派のキャラバンを逃がす為の陽動にある。その為に迫撃砲等の視覚的にも派手な高威力兵器を使い敵の目をこちらに引き付け、その間にウィリアムが単独で潜入し施設中枢の破壊と首脳の暗殺の後に脱出。そして前もって潜伏させた工作兵がコロニーの外に簡易的な地雷原を製作、敵の追撃部隊をそこに誘導しつつ全軍撤退。


 あらゆるものが数で負けている以上、BIG-C陣営はどんな手を使ってでもアドバンテージをひっくり返す必要があるのだ。


「待て、我々に敵から逃げろと言うのか?」

「ええ、目的は陽動である以上復讐派が望む企業の戦力の殲滅はおまけでしかありませんわ――ああ、心配なされなくても敵陣に乗り込む事になるので空爆のご心配はいりませんわ」


 怪訝そうに顔を歪めるポズウェルにローレライは付け加えた憶測で隠した事実を誤魔化す。


 実を言えば、ウィリアムが無事に企業社屋に侵入できる保障などない。


 だがそれでも、企業の持つ享楽的な嗜好は、赤い機動兵器乗りの女の言う通りウィリアムを歓迎するだろう。

 そうでなければCrossingでの惨劇は起きなかったのだから。

 その確信に辿り着いたローレライは今作戦を書き上げたのだ。ウィリアム・ロスチャイルドという最強の切り札を、何よりも愛しい殺意を最大限利用する作戦を。


 しかしポズウェルは苛立ちを隠そうともせず吐き捨てる。

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