Raedy To Flame/Heady To Blame 2
錯乱したとしか思えないポズウェルの言葉にチャールズは面食らうも、コロニーの有力者達はそうは捉えなかった。
企業のオルタナティヴ戦力を単独で殺したウィリアムは、弱い人々にはあまりにも刺激が強すぎたのだ。
その結果としてウィリアム・ロスチャイルドはアロースミス傘下にありながら、ポズウェルの影響力の中にいる男により金を渡されてコロニーを追われた。
傭兵が追い出された後にローレライ・アロースミスは参謀としての教育を受け始める。
ポズウェルはそれを薄汚い傭兵風情に頼るのではなく誇り高い我々で解決をしよう、とローレライが考えていると確信し事ある毎にそれを賞賛した。許婚の価値は自分の価値であり、没落してしまったポズウェルの家督を甦らせるには都合が良いと感じていたのだ。
そしてある日ポズウェルはあの薄汚い傭兵の男を追い出したのは父で、常日頃から追い出すべきだと父に進言していたのは自分だとローレライに打ち明けた。
BIG-Cには薄汚い傭兵など不要であり、品位を落とすその存在を追い出した功績は賞賛されるものだ。
しかしポズウェルに与えられたのは賞賛ではなく、美しく可憐な許婚の平手だった。
宝石のような青い瞳の目は涙を湛え、振りぬかれた手は怒りと悲しみから震えていた。
ポズウェルは許婚の不義理な行動に怒ると同時に困惑していた。
ポズウェルにとってウィリアムをBIG-Cから追い出すというのは、不穏分子から人々を守る事と同義だったのだから。
その事が切欠となり、チャールズはローレライの婚約を破棄し、ついに親友にまで見捨てられたポズウェル卿はその後家督を息子に譲渡し、第一線から退いた。
尊敬していた父は立場を追われ、利用しようとしていたポズウェル家の権力は失われた。
もはや何の役にも立たない家督を継いだポズウェルを立ち上がらせたのは許婚の麗しい少女への執念とあの忌々しい傭兵への憎悪だった。
その感情はポズウェルを小隊長までの道を驚異的な速度で進ませた。ある時は上司を陥れ、ある時はライバルを消した。家督という首輪を失ったポズウェルは手段を選ぶ事をやめたのだ。
「しかし、戦う事で得られる物がないのも事実のはずです」
「逃げるだけで安寧が得られると思うのであれば、それは度し難い愚考ですわ。我々は外の世界を知らなかっただけで世界は戦いを繰り返していましてよ。我々はそれから目を逸らして都合のいいものだけ見ていただけに過ぎませんの」
ウィリアムが守り抜いた移民達と違い、BIG-Cには少なくは無い財産があった。それによる庇護を求めて人々は集まり、壊滅させるには手間が掛かる存在として今までは見過ごされてきた。だが、全てを失ってしまった以上この世界の、入った郷の掟に従わずに生きていくのは不可能だろう。
戦わずには生き残れない。ウィリアムが生きる為に傭兵になったように、アドルフが金の為に防衛部隊に入ったように。この時代において戦う理由というのは限りなくシンプルだった。
「戦う力を持たぬ者達の事を考えれば、我々が露払いを引き受ける他ありませんわね」
「その者達を思えばこそ、逃げて逃げて逃げ延びるのが得策なのでは!?」
「もはや我々に皆を庇護し続ける力などなくてよ。皆を遠くへ逃がす為の陽動にしろ、相手に痛手を負わせて牽制するにしろ戦いはもう避けられませんわ」
風向きが悪くなったのを感じたのか、思わず声を張り上げるモーランにローレライは肩を竦める。
なんと言われようと、これだけがウィリアムの支援と戦略指令でである事の義務を果たす唯一の方法なのだ。
しかしモーランは納得がいかないとばかりにテーブルを殴りつける。
「なんと無責任な! チャールズ氏が知ればなんと仰られ――」
「その父が追撃により亡くなりましたの! 他の皆をそのような目に遭わせぬ様にするには戦える者が戦うしかない事くらい分からなくて!?」
モーランの言葉を遮り、ローレライは抑えきれない感情と共に言葉を叩きつける。
不躾に踏み込まれた上に癒えぬ傷を抉られた。
無責任でデリカシーのないその態度に、父を失ったばかりのローレライが怒らない理由がなかった。
ルーサムを含め、皆の驚愕に歪む表情を順に見渡してから、ローレライ心を落ち着けるように深呼吸をする。
父は死に、悲しい事に自分の考えを理解出来る人物は母と傭兵しか居ない。
ウィリアムとの約束を果たし、父の無念を晴らさなければならないローレライに、立ち止まることは許されないのだ。
「ポズウェル卿の言い分が気に入らないのも確かですが事実は覆りませんわ。物資が足りない、戦力も足りない、意思すら統一出来ない。ここらが潮時と言う事ですわね」
「何をおっしゃりたいんですか?」
「対立する両者を纏めようとするから無理が生じるんですわ。先ほども申し上げましたが、ここからは別々に生きるしかないかと」
「わ、我々を見捨てるというのですか!?」
モーランは怪訝そうに歪めていた顔を一気に青褪めさせていく。
穏健派に戦闘員が居るのは事実だが、それ以上に復讐派に戦力を取られているのも事実。
BIG-Cの戦力分散は誰にとっても致命的のはずなのだ。




