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Avenger  作者: J.Doe
Actors On The Last Stage/Program:Avenger
61/107

Green Eyed Monster/Screen Died Goner 7

 "有色の親子の捜索"だった任務目標を、ウィリアムは任務目標を"有色の親子の救出"に変更していた。


 このタイミングを伸ばせば救出は難しく、雀の涙ほどの報酬しか出せなかった少女が組合に救出依頼を出せるはずがないのだから。

 ダクトを這い、格子を破り、施設最奥部に潜入したウィリアムを出迎えたのは、腑分けされた男の死体と所々が吹き飛ばされた肉塊だった。


 不幸にもそれらには黒髪が生える皮膚が垂れ下がっており、近くにはその空洞を作ったのであろう冗談のような大口径のリボルバーが置いてあった。


 内臓の腑分けは灰髪の人間達との違いを知るため。

 繰り返された銃撃は生命力を知るため、そして何の成果も得られなかった苛立ちの捌け口になった。


 その事実に辿り着いたウィリアムは大口径のリボルバー――ハンドキャノンを手に取りながら舌打ちをする。


 依頼人の少女にこの惨状を知られてしまう訳にはいかない。

 自分でさえアドルフがこんな目に遭えば、冷静ではいられないとウィリアムは理解できるのだから。


 2人の救出が叶わなかった以上、これ以上ここに居る理由はない。

 脱出を決めたウィリアムが通ってきた道であるダクトを見上げたその時、黒い髪に隠された耳は金属同士が噛みあう硬質な音を捉える。

 実験(ごうもん)を想定された部屋の防音性は非常に高く、室外の足音1つウィリアムは聞くことが出来なかったのだ。

 そしてぶつかり合う灰色がかった黒い瞳と、見知らぬ有色の少年に驚愕する灰色の瞳。

 見つかってしまったという不測の事態に、ウィリアムは思わず右手に握っていたハンドキャノンの引き金を引いてしまった。


 途端に撒き散らされる冗談のような銃声。


 吐き出された銃弾は灰髪の男の頭を吹き飛ばし、ジャケットのパワーアシストで殺しきれなかった反動がウィリアムの右腕を躍らせる。

 僅かに痛む右腕と駆け寄ってくる無数の足音に顔を顰めたウィリアムは、スチールデスクを横に倒して身を隠す。

 この施設はおそらく実権施設、応援を呼ばれる前に片付けて脱出しなければならない。


 即座に思考を走らせたウィリアムはハンドキャノンと、防衛部隊の支給品であるハンドガンを取り替える。

 手に馴染むオートマチックの銃口をスチールデスクの淵に沿わせ、ウィリアムは深く息を吸い込む。


 プライベートでこそいい加減なアドルフ。しかし戦闘における思考において並ぶ物が居ない優秀な指揮官だった。

 1つの狂いも許されない数式のように。それでいて答えに辿り着くのが必然であるように。


 行うのは、ただ自らが思い描く勝利に向けて駒を進めるだけの戦闘。

 それが守るべき全てを救い、殺すべき敵を全て殺しつくす近道なのだと。

 アドルフにそう教え込まれたウィリアムは、目に入った人影に躊躇いなく引き金を引く。

 先ほどとは違い比較的穏やかな銃声、しかし変わらぬ殺意を内包した弾丸がアサルトライフルを構えていた男の頭部を貫通する。


 突然訪れた仲間の死、撒き散らされた固体が混じる飛沫。


 男達は恐慌しながらも室内へと銃口を向けるが、既に行動を始めているウィリアムには遅すぎた。

 扉が開かれた廊下に立ちすくむ3人の男、ウィリアムは躊躇いもせずに引き金を引く。

 コンクリートの壁をウィリアムの拳銃の弾丸が穿ち、スチールデスクをアサルトライフルから吐き出された弾丸が抉り続ける。


 その間にもウィリアムはただ引き金を引き続ける。


 初撃で1人の腹部を撃ち抜き、追撃でもう1人の眼球を撃ち抜き、駄目押しにもう1人の腕を撃ち抜く。

 倒れこまれてしまった事により、視界の外へ逃れられてしまった敵対者達。

 ウィリアムは好転しない事態に思わず舌打ちをしてしまう。

 敵対者達のような組織ではなく、単独で潜入をしているウィリアム。

 たった1人でこの施設から脱出しなければならないウィリアムは、些細なミス1つで命を落としてもおかしくないのだ。


 再度舌打ちする事で苛立ちを紛らわせて、脳裏でちらつく"最悪の状況"に駆り立てられるようにウィリアムは耳を済ませる。

 そしてウィリアムの耳に届いたのは、死に損なった男達の苦悶の声、自身の荒くなってしまった呼吸、それらに紛れる事のない重厚な足音。


 予期してしまった通りの最悪な事態に、ウィリアムは思わず頭を抱える。

 単独での隠密潜入を想定していたために、ウィリアムの装備はとても貧弱な物であり、自身が思い描いてしまった"ソレ"に対抗するのは難しいようウィリアムにはに思えたのだ。


 そんなウィリアムの懸念を裏付けるように響いた2発の重厚な銃声、それと共に聞こえなくなってしまった敵対者達の苦悶の声。

 ウィリアムはゆっくりとスチールデスクの端から顔を出した。

 全身を覆う真っ白なパワードスーツ、ハンドキャノンと同等に大口径のライフル。


 そこに居たのは企業の私兵だった。


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