表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Avenger  作者: J.Doe
Actors On The Last Stage/Program:Avenger
48/107

Into The Deep Unknown/Brew The Cheep Unknown 11

「……何か目印はありませんの?」

「どうだったかな――でも都合よく人が来た、彼に聞いてみよう」


 精一杯の強がりを見せるローレライの言葉に、何も知らないアドルフは平然と言葉を返す。

 本当につれない人だ。

 ローレライは思わず苦笑を浮かべてしまう。


「そこの人、ドレーシー・ベルナップの家を知らないか?」

「トレーシー・ベルナップ……ああ、あそこの」


 アドルフに声を掛けられた灰髪の男は、考え込んだ末に見当がついたとばかりに指を鳴らす。

 こんなにも広いコロニーで1人の女を知っている男。

 さりげなく、それでいて違和感のない程度にローレライは疑惑の視線を灰髪の男へ送る。


 全てが"お兄さん"と自分を引き裂こうとしているのではないか。


 そんな被害妄想がローレライを駆り立て、やがて自己嫌悪に陥らせる。

 その惨めな在り方に、高貴なる者の義務(ノブレスオブリージュ)などありはしないのだから。


「E3の区画の居住区に居るよ――にしても兄ちゃん随分若いな、親戚かなんかか?」

「まあ、ちょっとな。わざわざありがとう」


 婚約者が居るという事が気恥ずかしいのか、アドルフはそう言って灰髪の男を置いて歩み始める。

 E6、E5、E6。

 いくつかの区画入り口を越えて、やがて2人は目的であるE3区画へと辿り着いた。

 扉もなければ、申し訳程度の安っぽい照明しかない明り。

 しかしそこに広がる景色は瓦礫が多少散らかっている物の、そこまで荒廃しているような印象はなかった。


 その光景にローレライは意外だと感じる。

 拠点がスラムであるという事と家族が居ない事から、ローレライはアドルフの出身はスラムだと勝手に決め付けていたのだ。


 しかし、とローレライは新たな疑問に眉根を顰める。


 なぜコロニーに住める立場にありながら、"お兄さん"は忘れてしまうほど昔から戦場に立たされてしまったのか。

 コロニーの有力者達の子供が統率者となるために、傭兵としての戦歴を欲しがるのは知っている。

 だが"お兄さん"は傭兵家業を始めた理由を"将来を約束した女と暮らすため"と言っていた。


 そこからローレライは"お兄さんは傭兵になる事を強要されたのではないか"と仮定する。

 伴侶となる女を人質に取られたのか、それとも伴侶となる女自身に強要されたのか。

 理解が追いつかない事態に、ローレライは色素の薄い唇に立てた人差し指を当てて考え出す。


 コロニーCrossingは居住区を多く持つ大型コロニーだが、設備の悪さから裕福とは言いがたい状況にある。

 そのコロニーCrossingは裕福ではないとはいえ大型コロニーである。だからこそ防衛部隊を持っているはずで、わざわざ傭兵として出稼ぎをするメリットはない。

 そしてローレライは1つの答えに辿り着く。


 貧乏なコロニーの防衛部隊では手に入れる事は出来ず、傭兵はそれを手にするチャンスを得られるかもしれない物。

 それはただ1つ。命を捨てる事によって得られる、決して少なくはない報酬だ。

 辿り着いてしまった答えにローレライは、名前しか知らないトレーシー・ベルナップを警戒対象にする。


 もし伴侶だというのなら、トレーシーはなぜ"お兄さん"を助けなかったのだろうか。

 怒りと困惑から生まれた疑問に、ローレライは無責任すぎると憤慨する。

 ローレライが脳内で"お兄さん"拉致作戦の草案を練り始めた頃、2人は1軒の家に辿り着いた。

 だがその家が掲げるファミリーネームはベルナップではなく、クレネルとなっていた。


 それを理解した瞬間、ローレライは辺りを一気に見渡す。

 バイクという高級品、同じく高級品である有色の人種である2人。

 それらを奪うためにこの閉鎖空間へ誘われたのではないかと、ローレライは考えたのだ。


 しかし辺りに人影がないどころか、遠くから生活音が聞こえる程度にそこは平和だった。

 騙された訳ではない、しかし現れたのは目的とは違う名前。

 ローレライが新たに生まれた疑問に悩んでいると、アドルフはコンバットブーツを履く足でスタンドを立たせてバイクを停める。


「あー……ローラ嬢ちゃん、変なところないかな?」

「今のお兄さんは随分と変な印象を受けますわ」


 答えの出ない疑問達と、"お兄さん"が去ってしまう寂寥感から、ローレライは心にもない答えを返してしまう。

 失敗したと即座に理解したローレライは恐る恐るアドルフの様子を窺うも、アドルフは苦笑しながらライダースジャケットの襟を正していた。


「辛辣な評価ありがとう――うっしゃ!」


 やがてアドルフは覚悟を決めたように、薄汚れた合金製の扉をノックする。

 この扉が開いたその瞬間、2人の旅が終わる


 恐かった事もあった。

 悲しい事もあった。


 それでも、その温もりに再開できた事をローレライは確かに喜んでいた。

 時間にして数秒。

 アドルフにとっては永遠のような数秒。

 ローレライにとっては刹那のような数秒。


 それを終わらせるように、その扉が開かれた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ