Into The Deep Unknown/Brew The Cheep Unknown 3
「食べながらでいいから、これからの話をさせてもらうね」
空になった真空パックをボストンバッグに押し込みながら、アドルフは灰色がかった黒い瞳をローレライへと向ける。
ローレライは租借する口元を手で隠しながら、頷く事でそれを促す。
「これからローラ嬢ちゃんをコロニーCeasterへ連れて行く」
「そんな……ご迷惑ではありませんの?」
「端末で位置を確認してくれれば分かると思うけど、そこまで遠い訳でもないんだ。何よりこんな場所にローラ嬢ちゃんを置いていく訳にもいかない、野盗でも出たらどうなるか分かったもんじゃない」
当然のように紡がれたアドルフの言葉に、ローレライはビクリと体を震わせる。
昨日感じた濃厚な死の気配、華奢な自分では抵抗する事すら出来ないであろう強大な暴力。
脳裏にこびりつくそれらがローレライの恐怖心を激しく刺激しているのだ。
「……ごめん、言葉を選ぶべきだったね」
「いえ……事実ですわ……」
すまなそうに詫びてくるアドルフに、ローレライは弱々しく肯定を返す。
確かにこんな荒野の真ん中で1人放り出されてしまえば、ローレライはどうしようもないのだから。
「話を戻そう。まあとにかく、BIG-Cの奪還は出来なかったんだ。これくらいは引き受けさせてもらうよ」
どこかで疲れたような声色で紡がれた申し出を、ローレライは断る事は出来なかった。
そして、アドルフとローレライは荒野をバイクで走っていた。
右のボストンバッグと一緒に括り付けられたアンチマテリアルライフルを見る度に、父のことを思い出し心が無茶苦茶になりそうになるローレライは目をそらす。
考えてみれば"お兄さん"は今のローレライの歳には既に戦場に出ていた。
辛くは無かったのだろうか、恐くはなかったのだろうか。
ローレライはBIG-Cが他のコロニーよりも多少裕福で、自分が人よりも愛情を受けて育ってきたことを理解している。
だから幼い頃の事を知らない眼帯の男と自分が同じ考えを持つなんて思いはしないが、幼い頃から男を戦場に出すような家族の元に戻った所で"お兄さん"は幸せになれるのだろうか。
あまりに気になってしょうがないローレライはアドルフへと問いかける事にした。
「1つお尋ねしてもよろしくて?」
「なんだい、薮から棒に」
「お兄さんは……幼い頃から戦場に出て、辛かったりはしなかったのんですの?」
アドルフは問い掛けに黙り込み、やがて困ったような笑みを浮かべる。
「幼い頃って言っても……いくつからだったかは思い出せないけど俺にとっては当然だったからね」
それが当然。
それはこの世の中での当然なのだろうか。それとも男を取り巻く環境での当然なのか。
理解出来ないの常識に沈むローレライの思考を切り裂くように、アドルフは更に当然のように続けた。
「それに、将来を約束した女が居てね。そいつが覚えてるか分らないけど、そいつと暮らす為にも金がたくさん必要だったんだ」
そのアドルフの言葉にローレライの胸中に理解の出来ない不快感が広がる。
昨晩や父のライフルを見た時のような物ではなく、アドルフが青の固形食物を兵器で食べて見せた時のような変な胸の苦しさ。
その不快感が生まれた原因が分らないローレライは、荒野の向こうを見据えながらアドルフの腰にまわしたその細い腕の力を少し強めた。




