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Avenger  作者: J.Doe
Actors On The Last Stage/Program:Avenger
36/107

She Roll Dice/He Role Vice 7

「やってはみるが期待するな。私とて冷静な判断が出来る状態ではない、兵達にそれを求めるのは酷だ」

「ですがそれがルーサム卿の仕事でしてよ。サビナのためにも、卿には生き残っていただきますわ」


 得意げにそう告げてくる親友の娘に、ルーサムは再度ため息をつかされてしまう。

 早い内に母を病気で亡くし、仕事で忙しい自身と2人で暮らしていた寂しい思いをさせてしまった娘。

 そんな娘の伴侶を1人死なせて、もう1人の娘が変わる切欠となってくれた傭兵の男を死なせたとあれば娘はどんな顔をするだろうか。


 何よりあの時決めたはずだ。


 また娘が自分の元から旅立つと決める時まで守り通して見せると。

 その事を考えてしまえば、ルーサムは面倒だとばかりに深いため息をつきながら、ポケットの中の端末へと手を伸ばす以外何も出来なかった。


 その様子を見届けたローレライは一礼をして、来た道を引き返す。

 時間にしてたった数分。それでも父ほどに歳が離れたルーサムとの会話は、ローレライに疲労感と達成感を感じさせていた。


「お疲れ様。結果は――聞くまでもないか」


 歩み寄ってくるローレライの表情に確信めいた物を感じたのか、アドルフは口角を歪めて肩を竦める。

 コンバットブーツの足元には大きな薬莢が散乱しており、アドルフは観測手も居ない状況で狙撃を繰り返していた事をローレライに理解させる。

 その実力を見誤っていたつもりはない。

 しかしアドルフの能力は片目を失った人間のものとは思えないほどだった。


「お兄さんのおかげですわ、わたくしだけではどうにもならなかったでしょう」

「そいつは良かった、代金分の役割は果たせたかな」

「気が早くてよ。ですがこの調子なら撤退の頃合を見誤る事もないでしょう。そろそろ部隊のいくつかが残弾不足を訴えてくるでしょうし、私達は改めて各所の援護に――」

『こちら戦闘車両部隊。目標の機動兵器を補足、これより交戦に入る』


 どこか気安い2人の会話を遮る端末から漏れ出した声。

 何かを求めるようにローレライは、透き通るような碧眼をアドルフの灰色がかった黒い瞳に向ける。

 何もかもが口は得た世界で、より強く残された色素(ルーツ)

 しかしアドルフはアンチマテリアルライフルを担ぎ、その視線を受け止めるだけでローレライの望むものは何も返してはくれない。


 自分で決めろ。


 そう言わんばかりのアドルフの態度に、ローレライは意を決したように口を開いた。


「……了解、検討を祈りますわ」


 端末越しに健闘祈りながら、ローレライは再度問いかけるようにアドルフへと視線をやる。

 彼らには勝ってもらわなければならない。

 そんなローレライの意思を感じたのか、アドルフは深いため息をついた。


「機動兵器同士の戦闘は先に補足した方の勝率が高い。お互いに高威力兵器を積んでいるにも関わらず、8つ足タイプの脚部自体の金属強度が低いからね。だから先に一撃を打ち込んでさえしまえば」

「勝てる、とおっしゃいますの?」

「可能性はあるよ。相手はチャージに時間のかかる粒子砲が主兵装みたいだし。視認したあのタイプの機動兵器であれば、最低でも機動部くらいは潰せるだろう」


 しかし油断はしないで欲しい。アドルフは言外にそう付け足しながらバイクに跨る。

 私兵集団の歩兵に比べ、1握りほどしか居ない機動兵器を扱う人間達の使う武装の理念は攻撃に偏ったものだ。

 前線の味方をフレンドリーファイアしようと、それ以上の敵を葬れれば構わないと兵器で粒子砲を使い、敵を消し飛ばす。

 死ぬ寸前の敵に対してMEMORY SUCKER.を使うのは主に歩兵の仕事なので、それと関係ない彼らだからこそ平気で出来る考えだった。


 彼らにとって戦争は自らの破壊願望を叶える為の物でしかない。


 歩兵に多くの敵を取られてしまう前に少しでも早く動けるように装甲は薄く、その結果状況によっては一握りではあるが傭兵でも破壊する事が出来るレベルの物だったのだ。


「しかし、引っ掛かる事があるんだ」


 その言葉を聞き、訝しげな顔をするローレライにアドルフが続ける。

「このコロニーの財産や人の記憶が目的であったり、ただ単に目障りで消しに来たのであれば何故機動兵器が1台きりなんだ?」

 財産や記憶を奪いに来たのであれば圧倒的な兵力を見せつけ蹂躙してから奪う方が彼らの好みのはずだ。


 なら何故たった1台なのか。


 2台の戦闘車両を破壊した後、何故まだ戦闘車両が数台ある可能性もあるというのに、応援を呼ばないというのは舐め過ぎではないだろうか?


「我々が遊ばれているというだけではありませんの?」

「だとしたら尚更だよ。アレは限界まで戦争というゲームで遊び、その上で勝利したいという子供の感情が組織になったような物だ。奴等にとってこの状況はとても面白くないはず」


 アドルフが紡ぐ言葉を理解し、理解してしまったからこそローレライは困惑を深める。

 BIG-Cは過去の傭兵の活躍により、私兵集団の襲撃を長く受けてこなかった。

 アドルフにとって当然でも、ローレライを初めとするBIG-Cの人間達にとっては知らぬことばかりだったのだ。

 私兵部隊とそれを所有する企業はその思考の果てに「過剰な戦力を注ぎ、その上で躍らせて勝つ」という歪な理念を持っていた。


 だというのに過去に1度敗北しているこのBIG-Cに対して、この戦力の薄さはあまりにも奇妙だ。


 嫌な予感からアドルフは、ガンホルダーに納まっているハンドキャノンへと視線をやる。

 嫌な予感がぬぐえないのだ。エフレーモフのロケットランチャーごときでは比較対照にならないほどの。


 奴等にはいつもと違う目的がある気がする。


 いつもなら最悪の状況が想像できるのに、今は何も浮かばない。アドルフにはそれがとても不気味に感じた。

 しかしアドルフは確証の無い事を話すつもりは無く、注意だけは喚起する事にした。



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