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Avenger  作者: J.Doe
Actors On The Last Stage/Program:Avenger
35/107

She Roll Dice/He Role Vice 6

「陣形を立て直しますわ。銃撃をしつつ、西部隊の中央に向かっていただけて」

「了解」


 バイクは速度はそこまで上げずに進み、アンチマテリアルライフルから吐き出された弾丸は確実に紙幣と捉えていく。

 男の戦い方は「確実」という物にこだわっているように思えた。

 急にスピードを上げて今までの轟音にエンジン音紛れさせる。

 躍起になって確実に私兵部隊を殺し尽くそうとしたりしない。

 そして最悪の事態を最初に考え、確実な勝利に駒を進める。

 それが逃げる事であっても。

 誰もが望むような結末ばかりではない。

 この時代を象徴するような考え方であった。


「まもなくで西防衛部隊の中央に到達する。話が通るように端末で声を掛けて置いてくれ」


 アドルフの着用するジャケットのパワーアシストがショートバレルのアンチマテリアルライフルの反動を押し殺し、その弾丸は油断していた私兵の体を撃ち抜き殺す。

 ローレライはそんな状況を端に捉えながら、端末を操作して西の防衛部隊に用件を伝える。

 インスタントメールの送信に意識を裂きながらも、ローレライは眼帯の男が使っていたハンドキャノンに恐怖していた。


 アンチマテリアルライフルを無反動のように扱えるパワーアシストを持ってしても、押さえ込めないハンドキャノンの反動。

 そして1つの懸念がわきあがる。

 さきほど考えていたように、もしただのハンドガンが豆鉄砲程度の役割しか果たせなくなるのであれば、自分もあの冗談のような銃を持たなければならないのだろうか。


 しかし脳裏によぎるのは的から大きく外れた所に弾丸を放ち、反動で吹き飛ばされる自分の姿だった。


 無理だ、絶対に無理だ、とローレライは頭をふる。


 ローレライはハンドガンの安全装置の外し方でさえ未だに知らないのだ。

 ハンドキャノンを扱うアドルフですら「冗談のような」と言う形容詞をつけるような銃を、参謀でありながらただの小娘でしかないローレライが扱えるはずがない。


 思考が回らないローレライを乗せたバイクはゆっくりと速度を落とし、やがてその動きを止める。


「到着だ。俺は周囲の警戒に移るよ」


 思考から回帰したローレライは、その言葉に頷いて西の防衛部隊の司令部へと向かう。

 配置されている防衛部隊の隊員達の目は生気を失い、絶望に染まる顔は一様にうなだれていた。

 そのただ呆然と立ち続けている隊員達をかき分け、ローレライは目的の人物を見つける。


 年齢による退色を始めたサンディブロンド。

 戦場にありながら、近くて遠い死を感じさせるような薄汚れたフロックスタイルの衣服。

 その男はチャールズの親友であり、防衛部隊大隊長の1人であるトニー・ルーサムだった。


「ルーサム卿、隊が乱れていますわ! 今すぐに陣形を立て直してくださって!」

「ああ……チャールズの娘か……」


 声を張り上げるローレライに、ルーサムは諦観が滲み出した目を向ける。

 ルーサムは優秀な部隊長であり、同時に敗北の匂いに敏感な人間であった。

 先のBIG-C防衛戦では最善ではないと理解しながらも愚直な戦いを繰り返し、自らの部下達と、娘の伴侶である歩兵を失ってしまった。

 その頃からルーサム卿は敗北の匂いに敏感になっていたのだ。


「最早手遅れだろう。余す事無くお前の指揮が通っているはず、だが結果はこの様だ……」

「それはわたくしが防衛部隊が支持されていないからですわ! ルーサム卿が命令を下せば状況は変わるはずですわ!」

「どうだかな、皆恐れている。東の惨状に、起動兵器に、戦闘車両すら居ないこの戦況に」

「確かにそれはもう起こってしまった事ですわ! だから先の防衛戦の英雄であるお兄さんを連れて戻り、生存率の高い敗走戦に切り替えましてよ!」

「それであの傭兵の小僧にまた重荷を背負わせるのか?」


 ルーサムはそう言いながら肩を竦める。

 ローレライはまだ自分が成果を出せている訳ではない若者である事を理解し、ルーサムは斜に構えた思考を戻すことが出来ない。

 過去に自分の指示で息子となる人間を死なせた。

 もう二度とあんな責任を取れないような事は御免だと、無責任な諦観がその身を重く縛り付けているのだ。


「……そうですわ。我々が弱く、無知であるからこそお兄さんに頼らなければなりませんの。だからこそ考えていただきたくてよ。ここで西の防衛部隊がそれぞれ勝手に撤退を始めてしまえば、防衛部隊の兵士達もお兄さんも生存率が下がってしまいますわ」

「そんな事は分かって――」

「いいえ、ルーサム卿は何も分かっていませんわ。ここで我々が戦う事をやめてしまうということは、家族を見捨てるということなんでしてよ?」


 自身の言葉を遮るローレライに、ルーサムは思わず険しい視線を送ってしまう。

 北の防衛部隊が勝利を諦めながらもこの場に残り続けているのは、脱出した人々から自身らへと視線を向けさせるため。

 その中に含まれて居る1人娘、サビナ・ルーサムのためにルーサムは部下を死なせる。 

 あくまでその役割を果たしている自身らは、突然現れて命令を下したローレライに言われる筋合いはない。

 死に向かう事への諦観と部下達を死なせる無念に染まる、ルーサムの青みがかった瞳はそう言わんばかりにローレライに向けられていた。


「陣を立て直せば、彼らが生き残れるとでも?」

「ええ、我々の勝利は1人でも多い生還ですわ。わたくしはあなたにも皆にも死んでほしくありませんの、そのためであればどんな手でも使ってみせますわ」

「……なるほど、小僧の入れ知恵か」

「あら、気に入らなくて?」

「いや、奴も多少は利口になったようだ。お前に我々を論破させる程度にはな」


 今までの理解の行かなかった全てに納得したように、ルーサムは深いため息をつく。

 BIG-Cの大人達ではその発想に至る事はなく、人とは違う教育を受けてきたローレライであっても故郷を捨てる決心は出来なかっただろう。

 だからこそ、兵達はそれを理解出来ずにこうした恐慌状態に陥っているのだが。

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