She Roll Dice/He Role Vice 3
ローレライはアドルフと話していた兵士に問いかける。
「非戦闘員は?」
「……時計台地下の……シェルターに……」
「こちらの残存兵力は?」
「……北と西の大隊が2つずつ……東は大隊1つとかろうじて小隊を組める程度です……」
「残っている高威力兵器は? ロケットやグレネードのような」
ローレライは聡明な娘だった。
防衛部隊が手も足も出ない私兵を、アドルフは多くて2発の弾丸で止めを刺していた。
アドルフと防衛部隊の違いは"武器の瞬間火力の高さ"だ。
アドルフの冗談のような拳銃、ハンドキャノンと防衛部隊の持つアサルトライフルやサブマシンガン。
その両者の火力の違いはあからさまだ。
現にアドルフが引き金を引く度に、パワードスーツを纏う企業の私兵達は死んでいったのだから。
「……マコーリー卿の指示で……温存しているロケットとグレネードが……1番施設に……」
「な、きさ――」
「お黙りなさい。責任はいずれ追及させていただきます」
今はそれどころではない、とローレライはマコーリーを黙らせる。
温存してあると言うのなら、ロケットやグレネードなどの兵器は結構な数が溜め込まれているだろう。
そして次に思考するのは、敗走戦だとしてもどこへ逃げればいいか。
非戦闘員と負傷者を優先的に普通車両に乗せて逃がすとして、ほとんどの兵士にはで部隊ごとの撤退をしてもらわなければならない。
あまり遠くで落ち合うことも出来ない以上、コロニーCeaster辺りが限界だろうか。
そう結論を出したローレライは膝立ちの状態から立ち上がり、マコーリー達へと振り返る。
「手間を掛けさせましたわね。マコーリー卿、彼とお父様を含む負傷者を含む非戦闘員を普通車両でCeasterへ脱出させてくださいまし。その後我々戦闘員は限界まで敵戦力を削り、その後各自脱出する事としますわ」
「お待ち下さい! いくらアロースミス卿のご息女とは言え、貴方に命令される筋合いなど――」
「ならば……現場の総指揮を……ローラに譲渡しよう……」
「お父様!?」
ローレライの膝に頭を預け、苦しげに息と共にチャールズは言葉を吐き出した。
未だ戦況を覆せると信じきっているマコーリーは、チャールズの言葉に信じられないとばかりに呆然としてしまう。
以前の戦いから数年が経っていた。
傭兵が出て行ったコロニーBIG-Cを、その数年間守り続けてきた自身らの実力に酔っていないとはいえない。
それでも簡単に物資的にも豊かなコロニーBIG-Cを捨てるなど、マコーリーには考えたくもなかったのだ。
「もう……我々の古いやり方で……守ることも出来ない……」
そうだな とチャールズの意図と視線を受け止めた眼帯の男が肯定する。
「その通りです、旦那様。アップグレードされた武装、知られている戦闘スタイル、圧倒的な数的な差を埋める事はもう不可能でしょう。しかし――」
生きていれば、負けではない。
お互いの言外にある言葉はお互いが教え合ったものだった。
BIG-Cから出て行く時、アドルフは疎まれるのを覚悟でそれを告げていた。
だからチャールズは一人娘の望む教育を受けさせた。それが伝統から離れたもので、戦争に関するものであっても。
そして1人で戦場を霍乱し、BIG-Cに勝利をもたらしたかつての男に、アロースミス夫妻は反論も許さずそれを告げた。
その両方は自分と誰かが生きる為には絶対に必要な考えであった。




