Ride The Bullet/Hide The Cullet 10
襲撃は、ほぼ24時間前。
コロニー周辺を哨戒中であった戦闘車両部隊から「私兵集団の襲撃」と連絡が入った。
3台ある戦闘車両は2台が大破、もう1台は命からがら撤退に成功した。
迎撃に向かった防衛部隊の内2つが殲滅された瞬簡にチャールズ・アロースミスはコロニーが保有する防衛戦力では勝ち目がないことを悟った。
私兵集団の目的はBIG-Cが所有する乗り物や兵器、貴金属等の財産。そして人々の記憶だろう。
つまり降伏はただ命を失うだけでしかないのだ。
アロースミスはそれを許すわけにはいかなかった。
司法が死に、宗教は廃れ、モラルが腐るこの世の中において、人々の模範となるように振る舞い、弱きを助け、誇りと共に生きる。
他所から見れば愚直かもしれない。
だが、アロースミスとはそういうものなのだ。
高貴なる者の義務と共に生きる。
強制したこともされた事もない、自らが選んだ生き方。
その上で死ぬのならばチャールズ・アロースミスの一人娘は改めて道を選ぶ事が出来るだろう。
もし勝てたのならばこの時代において弱き者達の灯台になれるだろう。
チャールズも他の防衛部隊の人間達も同じ考えに辿り着いたのだろう。
しかし誰もそれを口にしようとはしない。
BIG-Cの人間達は理解していようがしていなかろうが、かつて1人の少年に重荷を背負わせてしまった。
傭兵とは言えただ1人の少年。
しかし彼は防衛部隊に「とにかく敵陣に弾丸をバラまいてほしい」と言って単身敵陣に飛び込んでいった。
状況が動き出してしまい、コロニーの防衛部隊は傭兵の言うとおりにする他なく、文字通り敵陣に弾丸をばら撒いた。
傭兵はその中をある時は私兵集団の戦闘車両を盾にし、ある時は傭兵が誘ったフレンドリーファイアにより力尽きた私兵の死体を盾にし、ある時は冗談のような大口径の拳銃で、私兵を無力化した。
私兵達にとって理解不能な恐怖の対象となった傭兵と、飽和攻撃を続ける私兵達のパワードスーツに大したダメージも負わせられない飽和銃撃。
最後の1人まで、戦場を私兵の精神を揺さぶり続けて全滅させた。
結果としてBIG-Cは勝利し、彼らの平穏は守られたが未だに大人達の心中にはその戦闘が引っかかり続けている。
もし防衛部隊の弾丸が底を尽きていたら?
もし私兵集団の中にカリスマを持った指揮官がいたら?
そうなってしまえば傭兵は確実に生きては帰ってこなかっただろう。
そして守られた平穏に酔いしれた防衛部隊は、反対するアロースミスを差し置いて傭兵を追い出してしまった。
「任期満了だ」
そう告げてしまえば、傭兵は出て行かざるを得ない。
BIG-Cの大人達の恐怖心は彼への同情や感謝を上回った。
平気で弾丸の雨の中突入し、平気で敵の死体を盾として利用する傭兵に。
結果BIG-Cは自らの英雄を追い出したのだ。
傭兵は恨み言1つ言わず出て行った。
そしてBIG-Cはその傭兵に改めて力を借りようとしている。
傭兵は人々を許すだろうか、とチャールズは悔恨するように胸中で呟く。
チャールズは交渉事において無類の才能を開花させていた実の娘に、傭兵との交渉を依頼することを命令した。
傭兵が依頼を受けてくれたとしても、財産を失ってしまうかもしれないが彼は人々の命を守る事を第一とした。
最悪アロースミス家一番の財産であるバイクを譲渡しても構わない、と。
これには彼の一人娘も周囲も驚愕を隠せなかったが、それ以外の財産は復興に使わねばならない。
バイクや乗り物は貴重であり、それ故資産に変えようにも買い手が付かないのも事実であった。
企業や資産を持つ者達に知られれば彼らはそれを買うのではなく、奪いに来るだろう。
MEMORY SUCKER.さえ持っていれば襲撃は一石二鳥のビジネスとなる。
現に私兵集団がこうしてコロニーを襲撃している今、手段は選んでられない。
チャールズは傭兵と交渉役を任命する前に自ら申し出た愛する一人娘に全てを託し、戦線へ指示を出すべく立ち上がった。




