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Avenger  作者: J.Doe
Actors On The Last Stage/Program:Avenger
24/107

Ride The Bullet/Hide The Cullet 6

「君の目的は分からないけど先に言わせてもらうね。傭兵業は今日で廃業、明日の昼にはここを発つからもう依頼は請けられないんだ」


 そう言ったアドルフは、少女の透き通るような碧眼を見下ろしながら考える。

 身なりや振る舞い、そして外にある見覚えのないバイク。

 それらから少女はなかなかいい所の出であろう事が伺え、世間知らず過ぎる事も納得が行く。


 しかし何故と、アドルフは訝しんでしまう。


 組合にまで行ったのなら、組合に依頼を出せば済む話だ。

 依頼人の予算にもよるが、基本的に組合は依頼の内容により人材の割り振りをしている。

 アドルフが1人で護衛から暗殺までこなしているのを、民間軍事企業は適材適所にしっかりと割り振っている。


 民間軍事企業嫌いのアドルフでさえ、それだけは評価しているのだから。


「てめえ! 逃げんのか!?」

「逃げるつもりは無いけど、まあ勝ち逃げなら許されるよな。負け犬のお前には分からないと思うけど」


 アドルフは少女の処遇を考えながら、隣人の売り言葉に毒を返す。


 このような世間知らずのお嬢さんを泊められる、安心できるような場所などスラムには存在しない。

 かと言ってアドルフは自分の部屋に、見知らぬ少女を泊める事に抵抗を持った。

 そしてもし保護者が居たのならこんな所に来させはしない、よって少女は一人でここまで来たのだとアドルフは理解していたのだ。


 しかしアドルフは出立の準備も終わらせなければならない、荷造りはエフレーモフのおかげで途中で切り上げたままだ。


「てめ……! だから……! 何度言えば……!」

「何度言えばも何もお前いつも「お前のせいだ」しか言わないじゃないか。まあオツムが足りないお前の言葉を理解するのは文明人としてやってやらないといけないのかもしれないけど」


 これ以上付き合ってやる気は無い、とアドルフは言外にしてはあからさま過ぎる拒絶を突きつける。

 アドルフは少女がどうやって夜を明かすかを考えなければならないのだから。


 今も昔も子供には甘いままか、とアドルフは内心で呟く。


 少女には酷かもしれないが、早々にお引取り願うしかない。

 バイクが少女の私物なら大変かもしれないが、明日のシェアバスを待たずに帰れるはずだ。

 アドルフがそう考えたその時、隣人はおもむろに手甲の安全装置を解放する。


「……お前が明日出て行くって言うなら今日、ケリだけはつけさせてもらうぜ」


 そう挑むように言った隣人は、その両手に鎮座する仕事道具である手甲から刃を展開する。

 その刃がアドルフに突きつけるのは、今までのジャレ合いとは違う本気の殺意。


「お前、そこまでやったらもうおしまいだぜ?」


 アドルフは手の平で顔を覆い、呆れた物言いをする。

 ルールなどほとんどないスラムの集合住宅であっても、殺しだけはご法度だったのだ。

 しかし隣人は知らぬとばかりに刃をギラリと輝かせる。


「どうせ負けたままじゃ、も食い上げだ。どっちに転んでも、お前とのケリはつく」


 そう言いながら隣人は、両拳を目の高さまで上げてファイティングポーズをとる。


 手甲を着けたこの男はこの刃で何人の命を奪ってきたのか。この時代に置いてそれはステータスでしかない。


 弱いものは悪い、敵対する者から大切な者を守れない者は自らの無力さを悔いるだろう。

 強いものは良い、資産を持つ者は私兵や企業の影響力で以って自らの家族や庇護する者達を守り通している。


 まあ、何でも良い。


 アドルフは静かに意識を切り替える。


 1つの狂いも許されない数式のように。それでいて答えに辿り着くのが必然であるように。

 行うのは、ただ自らが思い描く勝利に向けて駒を進めるだけの戦闘。


「お前の額ぶち割って回り血だらけにした時、管理人に怒られたの俺なんだぜ? 後でお前掃除しとけよ」

「ああ、お前を殺した後でな…!」


 隣人が手甲で顎を隠すような姿勢のまま、アドルフに向かって走り出す。

 アドルフは少女を脇に除け、懐に着けたハンドガンを取り出す。


「死ね、クソヤロウッ!」


 隣人が右手の刃を持って男を切り裂かんと振り上げる。

 その刃はアドルフの命を刈り取らんと、禍々しい光を湛える。

 アドルフが考えていた最悪の事態はあの少女を人質に取り、アドルフに武装解除を促すというものだった。

 しかし、ただ真正面から殴り掛かってきた隣人にそのような考えはないのだろう。

 まっすぐな男だ、それも今日までかもしれないけどな。


 内心で呟いたアドルフは、無感情に引き金を引いた。

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