表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Avenger  作者: J.Doe
Actors On The Last Stage/Program:Avenger
21/107

Ride The Bullet/Hide The Cullet 3

 アドルフは金の為に傭兵をしていた。

 故郷のコロニーには将来を誓った女が居て、彼女と幸せに生きて行く為に成人する前からアドルフは戦場に出ていた。

 資産を持つ者と企業、メモリーインダストリーの私兵とを含む企業の者達を除けば、傭兵が一番手っ取り早く儲かるのだ。

 アドルフの目論見は当たり、私兵を持つ程ではない、資産を持っていると言うには小さい勢力からの信頼を得る事が出来た。

 あの男は決して裏切らない。金が続く限り守ってくれる。

 あらゆる物を奪いに来た傭兵を殺すだけの毎日がついに終わりを告げた。目標金額が貯まったのだ。

 アドルフは帰郷の準備をしようとボストンバッグ1つ程の荷物を纏めているところに携帯端末が音を立て光を灯す。

 インスタントメッセージには"荒野の中央に拠点する私兵集団の強襲"と書いてあった。

 資産を持つ者達の尖兵である私兵集団は紛れも無くこの世で一番強い人間達であった。最新の兵器に最新の乗り物。そしてMEMORY SUCKER.。

 敵対した瞬間に暴力を浴びせ、そして奪う。それが出来る実力と精神と信頼を持った物だけが私兵集団に入れた。

 しかしどんなにいい装備でも扱うのは人間。日々戦争をしているのは何も私兵集団だけではないのだ。男は私兵集団との戦闘になればなるべく戦わないようにしていた。

 しかし一度どうしても逃げ出す事は出来なかった戦闘において、アドルフは私兵集団の大隊を全滅させた経験があった。


 何も難しい事は無い。


 当時の最新の装備に身を包みチャチな重火器を通さないパワードスーツに、フレンドリーファイアを誘い最新の重火器を破らせただけだった。

 その戦いによってそのコロニーは企業にも傭兵にも狙われることは無くなり、アドルフは仕事を失い新たな仕事を求めベースにしていたスラムへ戻った。

 そんなことを繰り返し、同業者に目をつけられていたアドルフが依頼内容を鵜呑みに出来るはずが無い。

 差出人はFever Om。入れ替えればEfremov(エフレーモフ)、組合に所属するアドルフと因縁がある同業者(ようへい)だ。

 アドルフは意味のないアナグラムに溜息をつきながら、1つの事実に気付かされた。

 エフレーモフは事ある事にアドルフに噛み付いてくる自意識ばかりで面白みも何もない人間だった。

 だがエフレーモフは企業とのつながりがあるコロニー出身で、そのコロニーのバックアップとしてジープを受け取っていたのだ。

 帰りが楽になる、あいつにいい手土産になる。アドルフは取ってもない皮算用を始め依頼を受諾した。


 アドルフは知らなかったが、2人は似た境遇にあった。


 それぞれの故郷のコロニーの為に金を稼ぎ、将来を共にすると約束した女の為に戦争をしていた。

 ただ1つ違う所があるのならエフレーモフは企業の庇護下にあるコロニーの有力者の息子で、アドルフは家族の記憶すらあやふやなただの一般庶民。

 アドルフはエフレーモフの事を歯牙にもかけていなかったが、エフレーモフはそんなアドルフに怒っていた。

 自分より下のレベルの人間が自分より信用を得て、自分より傭兵業で金を稼ぎ、そして自分を歯牙にも掛けぬその態度に。

 ただ、エフレーモフは打算もなしにこんな事を仕組んだわけではない。

 優秀な傭兵と言えど5対1なら敵わない。

 数の利はどの時代に置いても優位に立つための重要なファクターであった。


 何よりエフレーモフは確かに優秀だった。


 彼の父はそんな優秀な彼の為に兵器や乗り物、そして優秀な私兵を用意し、期待と共に送り出した。

 結果エフレーモフは優秀な指揮官となった。

 彼はあらゆるミッションで優秀な私兵に確実な指示を出し、自分と言うそのチームにおいて一番未熟な人間が武器を振り回す事になる前に事を終わらせた。

 その結果、私兵の1人が喉を切り裂かれ殺された光景にエフレーモフは激昂してしまった。

 喉を裂かれた私兵はエフレーモフが師と仰ぎ、指揮官としての生き方を教えてくれた人物だったのだ。

 エフレーモフはその威力と視覚の派手さから気に入っていたロケットランチャーをジープの後部座席の窓から出した。

 その一撃は男の肉体を爆散させ男の命を確実に終わらせるだろう。

 くたばれ。口をつくスラングを中空に踊らせながら引き金を引こうとした時に、アドルフの灰色がかった黒い瞳が自分を捕らえている事に気付いた。

 そして理解した。負けたのは自分なのだと。


 肩に担いだロケットランチャーの爆破によって自らが死ぬ寸前まで、エフレーモフは確かに優秀だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ