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Avenger  作者: J.Doe
Actors On The Last Stage/Program:Avenger
106/107

Until You Wake/Until You Break 2

 ソファで少し凝ってしまった体をほぐしたいが、自らに体を預け眠っているローレライを起こすのは忍びない。

 しかしついてしまったため息が悪かったのが、ローレライはゆっくりと透き通るような碧眼を開いた。


「……ん」

「ああ、ごめん。起こしちゃったかい?」

「構いませんわ、ソファに座ったらついうとうとしてしまっただけでしてよ」


 そう言いながらローレライはウィリアムの腰に腕を回し、ウィリアムはそんなローレライの頭を撫でる。

 かつては触れることすら恐れてしまった違う色、救うために遠ざけようとした愛しい色。

 代えようのない安堵を与えてくれるその色が後押ししたのか、ウィリアムはポツリと呟いた。


「夢を見ていたんだ。俺とローラが再会した頃の」

「あの頃は大変でしたわね。婚約されると聞いた時は相手次第ではウィルを誘拐して逃げようと思いましたもの」

「それは犯罪だよ。……まったく、何がそこまで君を焚きつけるんだかね」

「ウィルへの留まる事を知らない愛情ですわ。責任を取っていただけなくて?」


 呆れたとばかりに肩を竦めるウィリアムを余所に、ローレライは楽しげにウィリアムの右目を覗き込むようにして問い掛ける。

 だが酷使された脳とのナノマシンで何度も無理矢理再生した体は、より早く朽ち果てるだろう。もしかたしたらそれよりも早く、ローレライはウィリアムに愛想をつかして出て行ってしまうかもしれない。


「聞かせてくれ、俺は誰だ?」


 何度も繰り返した問い掛けをウィリアムは口にする。

 今でも時折感じるのだ。

 アドルフに変わっていくような、左目に征服されていくような暖かな不快感を。


 勝手だというのは分かっている。それでもウィリアムは自分で居たかった。

 アドルフに拾われ、ローレライと出会えたウィリアム・ロスチャイルドで居たかった。


 そうでなければ自分の命に価値を持てなかった。

 そうでなければ何も知らないまま死んで行くだけだった。

 2人と出会えた自分で居たかった。


「あなたはウィリアム・ロスチャイルド、わたくしの傍らに骨をうずめるウィルですわ」


 毎回のように優しい声色で答えたローレライは、ウィリアムの胸元に顔を寄せてその鼓動を聞く。

 アドルフが理由を与え、ローレライが繋ぎとめた命。

 ローレライはそれを愛しく想い、ウィリアムはそれが続く限り戦い続ける。

 そう。ウィリアムはどれだけローレライに止められても、戦う事をやめられなかったのだ。


 確固たる理由も、戦う為の矜持も何もない。

 どうして戦いを終えて利用する価値を失った自分に、何もかもを失わされてしまった少女が寄り添っているのかも分からない。


 それでも戦いはウィリアムを戦場へと誘い、ウィリアムは全てを守る為に銃を手にするしかなかったのだ。

 だからこそ、ウィリアムは自分が変えてしまった少女が望む限り誓い続ける。


 いつだって、君を守ると。


 ローレライが自分を不要とし、別離が訪れるその時まで。


「また、俺は何もかも忘れてしまうかもしれない。だからその前に言っておきたい事があるんだ」


 サラサラとした金糸のような髪を梳いていた手を白磁のように真っ白な頬に添え、ウィリアムは見る度に心を奪われてきた碧眼を見詰める。

 左目に犯された脳はいつ機能を停止するか分からない。

 優性遺伝子の結晶であったとしても、傷つき続けた体がいつその動きを止めてしまうかは分からない。

 ポズウェルという少年がどうなったのか、2人の関係がどういったものなのか。


 分からないからこそウィリアムが口にするのは、望むことも叶ってもいけなかった自分の願望。

 口に出す事すら出来なかった唯一の言葉。


「ローラ、君を誰よりも愛してる」

「わたくしもですわ、ウィル。忘れても何度でも思い出させて差し上げましょう」


 当然だと、ウィリアムの浅黒い頬に手を添え返したローレライ・ロスチャイルドは美しい笑みを浮かべて言った。


「御覚悟を。もう、二度と離したりなんてしてあげませんわ」

 ご読了ありがとうございます。

 ここで今後のActor On The Last Stageの更新について改めて説明させてください。


 今回更新していたリメイク版Avengerですが、小説家になろうの規約上”旧Avenger”の削除が出来ないので、Actor On The Last Stageを”D.R.E.S.S.の完結後”に改めて連載を始めたいと思っています。


 つまりD.R.E.S.S.の完結後に”AOLS:Program:Avenger"を含めた"Actor On The Last Stage"を新たに作り更新をはじめ、一段落ついたところで現在あるActorシリーズの引き下げという事になります。("あくたー"に関しては一部除いて再掲載は未定です。)


 2部の更新までまだ時間が掛かってしまい、大変申し訳ありません。

 新しく作り直した際にはこちらでもお知らせをさせていただきますので、どうかこれからもActor On The Last Stageにお付き合い下さい。


 改めてになりますが、ご読了ありがとうございました。

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