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白狐  作者: 神馬草子
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白い女

タグに歴史・江戸時代など表記いたしましたが、作者の歴史の成績はたいしたことゴザイマセンでした。それをふまえて読んでいただければありがたいです。

時代にそぐわない言葉もあると思いますがニュアンスで読んでいただける方のみ推奨とさせていただきます。

巷では辻斬りが流行り始めている。佐吉は町の奉行所がその辻斬りから町民を守る自警団を募るというお触れを見てそれに志願した。元より奉公先から戻ってきて親の仕事を手伝うでもなくぼんやり過ごしているのにも飽きたことだし、小さいときから腕っ節は強いと自負していた。ただ、喧嘩っぱやいのが祟って奉公先から追い出されたようなものだったのだが。


自警団は奉行所の目の行き届かない長屋の中ごろや端々に点在させた。それぞれの分団は五、六人で形成されていて、辻斬りの多発する宵の口を中心に交代で控えることになっている。

佐吉は仲間の文治、長太と一緒に3畳くらいの控え所に座っていた。日が落ちてきて狭い控え所の奥まで日が射す。町の人々は噂の辻斬りに怯えて早く家に帰ろうと早足で家路に急いでるようだった。


「なんだか、今日は冷えそうだね。」

『下がり眉』のあだ名が似合いの長太が体をぶるっと震わせた。

「そうだな。お月さんもよく見えそうだし、…今日は、『出る』かもしれねえなぁ。」

禿頭、コワモテの文治がゆっくりと佐吉、長太を見ながら呟く。長太はひいと細い悲鳴を上げてさらに震えた。

「おいおい、頼むぜ。これでびびってちゃあいざ『お出まし』になった時に使い物にならねえよ。」

文治は長太の背中をばしばし叩いて笑う。豪快な笑いに長太も多少の不安が消えたのか、小さく笑って頭を掻いた。


辻斬りは神出鬼没だ。もしかしたら一人ではないのかもしれない。噂に便乗するものも少なくないという。川向こうの奉行所では同じ時間に3人も辻斬りの被害に会ったと聞いた。物盗りや純粋な「斬る」行為目的もあるようだった。

とはいえ点在している自警団は辻斬りの監視、捕獲のために配置されてるが、やることはほとんど何でも屋に近かった。

酔っ払いの介抱、喧嘩の仲裁、荷車や屋台店の取り締まり、道案内…。

今日もそうやって一日は過ぎていくのだろうと佐吉は沈む夕日を見ながら思った。


日が沈んでしばらく経って、屋台店も仕舞い始める時間に男がふたり、控え所の戸口に立っていた佐吉に近づいてきた。

男の一人は怯え切って顔が真っ青だった。もう一人の男がそれを支えている。

「どうしたんだ?じいさん?真っ青だぜ。」

真っ青な老人は小さな背中を丸めて震えていた。とりあえず落ち着かせようと長太が控え所の縁側に座らせる。

「わしは久兵衛。こっちの人はわしのお隣さんで保市さんといいます。」

保市さん、と久兵衛に促されて小さいほうの老人は丸くなったまま話し始める。あんまり小さな声なので全員で保市さんを囲むように耳をそばだてる。


「長屋の東側に小さなお稲荷さんがあってな…。」

「ああ、あそこね。」

佐吉も知っていたが、おんぼろの社に朽ちた狐が寄り添っているような、廃墟に近いお稲荷さんだ。

「わし、あんまり草が生えすぎて不憫でな、ちょっと草を抜いてやろうかと、」

「『襤褸稲荷』にはいったんですか?」

長太が続けると保市は震えてうなずいた。

「始めは入り口だけ、と思ってたんだが、夢中で草を抜いてたら、狐さんの近くまでいってたんだよぅ。」

うんうん、とその場にいる全員で固唾を呑んで続きを促した。

「そうしたら、そうしたら…、左側の狐さんの後ろに…白ぉい、人が居たんだよぉ!」

きゃー、という声とともに長太が真後ろにぶっ倒れた。

「じいさん、そりゃ見間違いじゃないのか?酒でも飲んでたとかよ。」

文治が呆れて禿頭を掻きながら言った

「わし、酒飲めねえもの。一舐めしただけで、そこのあんちゃんみたいに倒れちまわ。」

「そっちのじいさんは見たのかい?」

佐吉は久兵衛に向き直る。

「わしは、見てはないんだが…二日くらい前からお稲荷さんの方でがさごそ音がするのを聞いたもんでな。」

「辻斬りが潜んでるかも知れねえって思ったわけかい?」

久兵衛はうなずいた。


気絶した長太と保市を控え所に置いて、佐吉と文治は襤褸稲荷に足を運んだ。

「じいさんは向こうで待ってろよ」

後ろを着いてくる久兵衛に佐吉は告げたが彼は戻ろうとはしない。

「あのお稲荷さんには世話になってるからな。今までほうっておいた不義理も含めてちゃんと挨拶しとかんとと思ってたんだ。」

「おいおい、只のお参りじゃないんだぜ?じいさんよぉ。」

文治も呆れて言うが、結局追い返すことも出来ずに俄自警団は件の稲荷神社にたどり着いた。


保市が夢中で草取りをした、小さな道が奥に続いている。社までは抜ききれてない草や雑木で出来た闇に包まれてよく見えなかった。

「人がいそうには見えねえがな…。」

手分けして草を払いながら奥へ進む。誰かが入ったなら、何処かの草が倒れているようなものだが、踏まれたような形跡も見当たらなかった。

「裏側からは入れるのか?」

「いや…、裏手は川があるし、崖になってるから入れないと…。林の間から入るにしてもうちの長屋の前を絶対に通らないといけないから、誰かが通れば気付くはずなんだがなあ。」

雑木林の隙間から久兵衛の住む長屋が見える。すぐ近くだし、この林をすり抜けるには体の大きな男は難儀するだろう。

「じゃあ、なにか?…まさか、幽霊か?」

「ふうむ。」

文治が大きな声を出したので頭上の鳥が騒いだ。ぎゃあぎゃあという音に文治は飛び上がる。

「狸か、犬とかじゃねえのかよ?」

「狸も犬も白くないだろ。」

そうじゃなくてよ、と文治は頭を抱えた。

「辻斬りはともかく、幽霊の類は俺らの仕事じゃねえだろう?」

「なんじゃ、禿げの若造。腰抜かしか。」

「やかましいわい!」

図星を突かれたか、文治は持っていた棒を振り回した。石ころに当たって左の狐のほうに飛んだ。


ちゃりん


耳慣れない音が聞こえて、三人は息を止めた。

狐の後ろ、社の軒下から音は聞こえた。佐吉は辻斬りの可能性も考えて棒切れを構えてにじり寄る文治が飛ばした小石は細かい鎖のようなものに当たっていた。

鎖は四角い小さな箱に繋がっていて、その箱の先には


「女か?」


白い女が倒れていた。


自分でも「自警団」はないな。と思っています。

…ひどすぎるよね。

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