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特訓

 ぐったりと……それ以上に落ち込んだ様子で、エリィがもくもくと書類に文字を書き込んでいた。

 どうやら、当初の特訓スケジュールをこなせなかったことが心残りらしい。

「なんで……なんでこの街はトラブルが多いんですか……先輩」

 こらえきれなかったのか、エリィがペン先を震わせながら聞いてくる。

「いつもはこんなに多くないと思うけど……、君が問題に巻き込まれてばかりなのはたしか、かな? まぁ、僕も君のこと言えないんだけど……」

「大会も間近なのに、全然特訓が進んでません……」

「深淵の夢の構成員と戦ったのも特訓に入ると、思う、けど……」

 じっとエリィの顔を見つめる。そこに不思議なものは見つけられない。逆に、不思議そうにエリィが目を瞬いているだけだ。

 だが、この少女には明らかにおかしい所がある……。

 声を小さく、囁くように言った。

「あのさ……明日、検査を受けてみる気は、ないかい?」

「け、検査ですか?」

「そう心配するようなものではなくて……魔法の素養というか、そういうものの検査。今さらって言われるかもしれないけど……」

 嘘だ。

 魔法の素養に関する検査であるのは、嘘ではない。だが心配するようなものが、もしかしたら発見されるかもしれない。エリィがこの魔法結社に入った際に行われた検査では発見されなかった、なにかが。

「そういうことなら……お願いします。きっと、私の将来に役立つことですから」

 将来、この少女はどうなるだろうか?

 魔法学校で習った程度の力で、魔法結社の構成員と一対一で戦いあうことなど本来は不可能だ。しかし今日、エリィはそれをやってのけた。彼女に……そんな実力があったはずはない。

 心の中で否定する。そうではない。正確には、大図書館に行くまでのエリィだ。巨大タコを前にうろたえることしかできず、図書館にあふれた悪霊に手も足も出ず、自分の無力さに落ち込んだ少女。

(今では見る影もない……)

 魔力の量、ということではない。あえていうなら肝心な場面での判断力が格段に向上しているのだ。周囲の霊位に対して適切な選択をして、空間に魔力を放出することができる。だからこそ深淵の夢の第一の刺客との戦いの中でも、相手に霊位を用意されてしまいながらも逆転の一手を打つことができた。

「あの、難しい顔してますけど……」

「あ……ごめん。その、ほら、検査の結果ですごい結果が出たらどうしようと思って」

「す、すごいってどういうことですか?」

「それはもう、帝都の首席魔法使いに匹敵するような才能が……」

 あったら、どうなるのだろう?

 帝都には名だたる魔法使いたちが何人もいる。たとえば、銀の聖女などが有名だ。聖銀の雨を受けて祝福され、力を約束された聖女。霊位に魔力を合わせるのではなく、膨大な魔力で霊位のほうを歪めてしまうその力は、生まれ持った銀の聖女の力ではない。聖銀の雨を受けたからなのだ。

 なんらかの魔法的影響を受けることによって、後天的に才能を得る。

(つまり……)

 エリィの場合は大図書館だ。暴走した書物からあふれ出た悪霊や膨大な魔力の影響を受けて、彼女の体質が変わったということはありうる。

 得難い力ではある……それはエリィを幸せにするだろうか?

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