参加者募集中
流しから戻ってきたエリィが、カップに注がれたホットココアをこくこくと飲んでいる。時間も遅く、昼間の喧騒が遠い落ち着いた時間……。
少なくともそんな風に受け取ることはできる。実際は、エリィの仕草にはところどころ不安さがにじみ出ていた。瞳の揺れや、ぼうっと手に持つカップの時間。
やがてエリィはカップから口を離すと、はぁ……とホットココアの熱がこもった息を吐き出した。
「先輩」
「なんだい?」
しばし、沈黙。
それでも考えが変わらなかったのか、エリィは困ったような表情で言葉を続けてきた。
「やっぱり、無理があると思うんですけど……」
「出場資格は魔法を使えること」
「それは資格だけじゃないですか。わたし、魔法学校で習ったことしかなにもしらないんですよ?」
「いいんじゃないかな、魔法学校にすら入学せずに魔法結社にも所属せず出場する人だっているよ?」
「そういう人は、独学で魔法を手に入れられるほどすごいんです……」
きっかけは目の前に置いてある、一枚の紙だった。
――魔法決闘大会、参加者募集。
由緒ある大会で、この街では七十年前から行われている。ドルオールで行われる由緒正しい行事というのは大抵が帝都から輸入されてきたものなので、本当の由緒はもっと古いのだろう。
街に数多くある魔法結社は自らの威信を高めようとその大会に出場者を送り込んだり、逆に威信を守るために徹底して構成員が出場しないよう管理したり、大会は野蛮な戦いにすぎないと関心を持たなかったりする。
「なんで、私が何でも屋さんの夕暮れを代表することに……」
「いい経験になるだろう? すごい魔法使いと戦えるかもしれない」
「負けたら赤っ恥じゃないですか。もっとすごい魔法使いがこの結社にはたくさんいるのに……」
「たくさんいたらよかったんだけどね……」
思わず口を挟んでしまう。愛すべきこの魔法結社は万年人手不足にあえいでいる気がする。とにかく志望してくる人間が少なすぎる。そんななか入ってきた彼女は貴重な人材だ。
顔の力を抜いて、エリィにふっと微笑む。
「僕は、君には才能があると思ってる」
「や、やめてください……もう」
エリィは照れているのか見るからに頬を赤く染めて、うつむくようにカップへとまた唇を寄せた。