人を探してあちらこちら
ドルオールの街というのは、少なくとも大陸における主要都市のひとつである。大陸南西の海岸にほど近く、ともすれば帝都の賑わいにも劣らない繁栄を見せていると言っていい。
無論、霊位の安定している内陸の帝都に比べて、沿岸部は霊位が不安定であるから悪霊などの暴走が少なくないし、海から到達してくる巨大怪獣の脅威にも時折さらされることになる。それでも主要な都市が沿岸部に集中しているのは交易の基本がいまだに海路であることがあげられる。
船旅による怪獣への危険や霊位変動による天変地異諸々への対処。それらを行う者たちの集まりを、魔法結社と呼ぶわけである。
(正確では、ないけれど……)
行うことができる、というのが正しい。魔法結社の本質は、危険への対処というところにはない。魔法結社というのは、魔法を追及するものの集まりなのだ。
「…………」
「ど、どうしましたか? カンベル先輩?」
半眼でエリィを眺めていると、彼女は戸惑ったように書類へ字を書きこむ手を休めた。
「その……珍しく楽しそうだなぁ、と思って。あはは……」
「う……。やめてください、先輩。わたしがそんな、怒ってばっかりみたいな……」
しかし否定はできないと自覚しているのか、やや肩をすぼめて小さくなっている。
「まあ、今日は変な人もいなかったしね」
「……はい。なんていうか、この街のいろんな場所を見て、素敵でした」
「それはよかった。ともすれば迷子になっちゃいそうなほど、大きな街だけどね」
「あの、ええと、はい……」
「…………?」
「な、なんでもありませんっ。そういえば、街には教会がいくつもあるんですね」
「まあ、そうだね。最寄りの教会に行くのに何時間もかかったらたまらないし……それらを束ねてる教会は、庁舎をすこし北のほうに行ったところにあるんだけど」
「時計台の向こうですか? 街の中心に作ればいいのに……」
「教会の周りが賑やかすぎても、それはそれで困るってことだと思うよ。それに坂の多いこの街で、一応は一番高い所にあるわけだし……信徒をあまねく見守っているってことじゃないかな。そこの教会に通う人は大変そうだけどね」
その光景を想像して、苦笑する。もしかしたら教会の人々はそれも神の試練と言うのかもしれないが。
「まあ、聖歌隊は中心街のほうが盛んに活動してるって印象はあるかな。教会と位置が近いからかもしれないけど、たまに劇場でも歌声を披露しているし」
「……素晴らしい劇場でしたよね。華やかできらびやかで。演目の看板を見てるだけでも楽しそうだって思えました。いつかショーも見てみたいです」
「うん、それがいい。実際にとっても楽しいから。逆に大図書館とかはお勧めできないけど……」
「そ、そうなんですか……?」
「うん。なにがなんだかわからないけど、あの図書館はひたすら霊位が不安定だから。変な蔵書でもあるんじゃないかな……。落ち着いて本は読めない。どころか危ない目にあうかもしれない。こう言ったらなんだけど、まあ、どうして存続してるか不思議というか」
「うう。楽しみにしてたから残念です……」
「まあ、そりゃあ調べられれば面白い魔法の本とかはあるかもしれないけどね。それに喜んでいいよ」
「はい?」
「明日はその大図書館の見回り」
「え、ええ……っ!?」
「お勧めはできないけど仕事だし……なにが起きるか分からないのも面白いというか。別に本を読みに行くわけでもないからね」
「先輩……」
なぜだか呆れたような微笑み方をされた。
「まあ、こうやって些細なことから大きなことまで、いろんな仕事があるから、ドルオールにある魔法結社の数も多くなるんだろうね……」