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サナカちゃんとか

「なんというか……大丈夫?」

「ふぇ……。は、はいっ。大丈夫です、カンベル先輩」

 向かいの机の少女――エリィは慌てた様子で姿勢を整えて答えてくると、一転してうらみがましげな視線を向けてきた。

 なにか彼女を困らせることしただろうか?

「な、なにか?」

「うー…………。昨日ほど大変なのはそうそうないって言ってたのに、今日も大変だったじゃないですか、先輩」

「そ、そうかな」

 逃げ出した魔法研究用の飼育動物を捕まえに行ったくらいで、たいしたことはなかったはずだ。動物の体質が魔法に面白い反応を示すだけで、捕まえるには無害なただの小動物であることだし。

「そりゃあ、あの子も逃げ足が速かったから捕まえるのは大変だったけど」

「そ、そうじゃありませんよ。先輩。ほら、昨日と違って今日は、他の人たちが……」

「余所の魔法結社、だね?」

 その言葉にエリィはこくん、とうなずくと、短くためいきをついた。

「サナカちゃんとか、サナカちゃんとか、サナカちゃんとか……うう」

「元気な子だったのは認めるけどさ……あはは。君はだいぶ振り回されてたからね」

「はい……。でも、今日の仕事はそんなに重要な……ええと、重要な魔法研究の動物だったんですか?」

 重要?

 仕事に貴賤があるわけではないけれど、彼女の言い方には不思議なものを感じる。

「重要というか、まあ、一般的な魔法研究の動物ではあると思うけど。特筆するほど珍しいわけではないよ」

「そうなんですか?」

 やや、驚いたようにエリィが問い返してくる。

「昨日のタコさんの時は他の魔法結社のかたなんて来なかったから……てっきり、今日の仕事はもっと重要な意味があるのかと」

「ああ、なるほど……」

 ようやく彼女の言いたいことに納得して、苦笑する。

「霊位、霊具、霊草、霊珠……なんにしろ用意するには高価なものさ。大きな事件に関わろうとすればそうした装備はいやでも必要になるし、霊位や霊草は言うまでもなく、他の道具も失ったら費用が馬鹿にならない」

「…………」

「貴族的な権威争いをする反面、諸々の魔法結社は大事を嫌うってこと、かな。それが恩を売れる相手ならともかく、力ない一般市民とすればなおさら」

「そ、そんなの……間違ってます」

「僕はそうは思わない」

「…………!」

 少女の驚愕の表情のなかに、わずかな失望の色を探す。

「そのほうが成り上がるには近道さ。魔法使いとしての自分の地位を高めることこそ生きがいと思っているのは、少数派じゃない」

「先輩は、そう思わなかったから……ここにいるんですか?」

「いや、ほら……。お金稼げればどこでもいいと」

「…………」

 失望というよりは呆れているような目でエリィがこちらを見ている。気にせずに、話をつづけた。

「なんだっけ……そう、今回の場合は費用も掛からない仕事だし、末端の構成員に行かせればいいやと。そういうことだったんじゃないかな?」

「え? 末端、ですか?」

「そう、末端。あの程度でしかなかっただろう? サナカちゃんとか」

 あえて彼女の口ぶりを真似て言ったつもりだったが、エリィは気にしないようだった。ただ疑わしそうにつぶやいてくる。

「でも……あんなに魔法が上手だったのに」

「あちらは、うちの何十倍も大きな魔法結社だよ。あの程度、ってことさ。もっとすごい魔法使いをなんにんも抱えている」

 はぁ……っと言葉をなくした様子の彼女に、落ち着いた声で告げる。

「まずは、サナカちゃんとか」

「え?」

「全部追い抜いて、君が頂点に立つんだ。皆の役に立ちたいと本気で願うなら、それが君の生き残る道だ」

「あ……」

 エリィは小さく声を漏らすと、肩を落とした。仕方ない事だろう。

 彼女をそのままに、席から立ち上がって帰るために片づけを始めると、背後からか細い声が聞こえた。

「わ、わたし、頑張ります……絶対、がんばりますから」


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