古代から蘇ったもの
遠く、街の外れでは煙があがっていた。街を囲むように存在する防壁の一部はいともたやすく壊され、内部に敵を侵入させている。巨大な怪獣が雑居ビルをなぎ倒して粉塵が舞い上がり、破壊されたあちこちから燃え上がった炎がそれを照らしている。
どこか街並みがちっぽけに思えた。それは怪獣が大きすぎ、住居はおろか高く作られた防壁すらも怪獣のはるか下に存在したからだ。ざっと考えても、今までに現れた驚異の数倍の大きさがある。ドルオールにこのような怪物が封印されていたなど、これまで誰も想像していなかった。だがこの街は間違いなく、その封印を守るために生まれた街だったのだ。
無理やり登り上がった闘技場の外壁の上からその光景を眺めていたのは、他にも何人もの魔法使いたちがいた。そこから踵を返すと、手に握った魔剣の感触を確かめながら内側へと飛び降りる。足に鈍い衝撃が伝わった。魔法が使えればなにも感じずに済んだところだ。
ちょうどそばを走っていたエリィがこちらに気付き、足を止め、近寄ってくる。その顔には汗がつたっていた。焦燥か、悲壮さか……いずれにしろこの状況をなんとかしなければという使命感に動かされている。今はそれでいい……静かに認めるほかなかった。
「あの……」
「まだここまでは到達しない。というよりここを目指してるのかも怪しいくらいだ」
「……!」
エリィが顔をやや青ざめさせて息をのむ。その理由は分からなくもない……すでに街は被害を受け、住民たちは指針もなく逃げ惑っている。皆の役に立ちたくて魔法使いを志し魔法結社に所属したのだとすれば、なんという役立たずぶりだろう?
「先輩は……」
エリィが視線を落とす。その先には、漆黒の剣。
「先輩は戦えるんですね?」
「少なくとも他の魔法使いよりは、ってところだけど。いくらか霊草が助けてくれる……夜を破るための剣を使うなら、ここを除いて他にない」
彼女は頷いた。軽い動作だった。
瞳の奥に、確たる芯のようなものが光っている。自分のやるべきことを知っていて、それを疑わない瞳。
その瞳を見て、思わず呼吸を忘れる。
「信頼してます、先輩。がんばってください……私は」
エリィは、片手で持った自身の杖を握りなおした。
「私は霊位の操作場を探しに行きます。絶対、信じてますから」
「気を付けて」
霊位とは魔法を使うためのフィールドと言い換えてもいい。それが失われてしまえば魔法は使えなくなる……たとえば、夜を破るための剣のような例外を除いて。
今、魔法使いたちは無力だった。
エリィは元気を見せつけるように微笑んだ。
「大丈夫です、先輩。サナカちゃんも一緒ですから。なにかあったら……この杖で、がーんって」
言いながら彼女は杖をふるって何かを叩く真似をする。
お互いに頷きあうと、もう言葉は必要なかった。目の前に事件があり、困っている人々がいる。魔法使いとして、魔法結社として、何でも屋として。決意をあらたに、やるべきことはすでに分かっていた。




