宿命の戦い!
釈然としないものを感じつつも、自分の席に腰をかけた。なんとも言えない疲労感を感じる。机の上に飾っている狸の置物の間抜けな口が、妙に可愛らしく見えた。
嘆息するのをこらえて、エリィを眺めていると、彼女は不意に気づいたように顔を上げてきた。
「……どうしました?」
赤くはれた頬を感じさせず、平然とエリィが問い返してくる。嘆息の吐息を混ぜながら答えた。
「いやぁ……丈夫になったなぁと思って」
「丈夫、ですか?」
訳が分からないという反応をされて、さらにため息をつきたくなる。
「元気そうじゃないか。あれだけサナカちゃんと大立ち回りを繰り広げたわりには」
「あ……それは、疲れてないわけじゃないですけど。でも、負けてられないじゃないですか。サナカちゃんもきっと、次までにもっともっと強くなってるはずですから」
にこりと優しげに微笑むエリィの表情にはいつも癒されているものだが、ところどころ傷を負いながら平然としている彼女の背後に修羅のようなものがみえる。
腰かけている椅子がぎぎぃとにぶい音を立てた。
「まあ、やる気があるのはいいことだけど……」
「……いよいよ、ですね」
「うん……けがはしないように」
「はい。……って言っても、信用してもらえませんよね。気を付けます」
エリィは気まずそうに苦笑した。なにしろ、先ほどサナカちゃんとの決闘で傷だらけになったからだ。結果的に引き分けだったが、サナカちゃんの近接攻撃を上手くいなして善戦していた。
エリィは優しく素直な少女ではあるが、どこか負けず嫌いなふしがある。それを向上心ととらえるなら素晴らしいことなのだろう。冷静で、引き際も心得ている……ように見えなくもないが、実際にはその引き際が本来の位置よりだいぶ過ぎているようにも感じる。
(つまり……引くのに失敗したら取り返しがつかないような、紙一重の位置)
適当に狸を指ではじくと、書類の上にころんと倒れて、中の重りのせいでまた立ち上がってきた。起き上がった拍子に狸の視線があらぬ方向にずれている。
見ればエリィは視線を下におとして、書類に字を書きこむ作業に戻っていた。