いふー
じぃ……と見つめる先でエリィは小首をかしげた。その様子に嘆息したくなるが、それはこらえた。
なにかいつもとは違う雰囲気を感じ取ったのか、彼女もこちらを物言いたげな視線でみつめてくる。
「君はどんな魔法使いになりたい」
「それは……みんなの役に立てるような」
なにを今さら……といったていで彼女は答えてくる。
その言葉をとらえてさらに続けた。
「みんなって、たとえば?」
「そ、それはこの魔法結社の皆さんのこともそうですし、街の――」
「嘘だろう、それは」
とっさに反論しようとしたのだろう。だがエリィは、吐き出しかけた言葉を飲み込んだ。
「君には才能があると思っていた。きっと名をはせるような魔法使いにだってなれると」
「才能がある、と言ってくれるのは光栄なことだと思います」
「……だけど、その才能を見出したのは僕じゃなかった」
「…………」
エリィは無言で話を促す。
「君は検査の意味を知っていた。的確に、正確に。そしてその上で自分の実力を隠したりはしなかった。隠そうとすれば、それは君が深淵の夢の構成員と演じた立ち回りと齟齬が生じてしまうから」
「大図書館での事件は、私にとってどうしようもなく後悔するほかない事件でした。私が無力なせいで先輩が大けがを負ってしまった……。だから私は今まで以上に奮起して、それに合わせて成長もついてきた……そのようにみえて、本当は。大図書館地下に安置されていた禁忌の書の影響によって力が底上げされていただけだった。努力による力ではないと知って落ち込む私…………おかしい所はありましたか?」
「……あえていうなら最初から」
「最初から?」
「だれもこんな意味の分からない魔法結社に入ったりしない、ってことさ。君が記念すべき一人目だ」
「……先輩も入ったじゃないですか」
「僕はあの頃フリーの魔法使いとして活動していて、たまたま事件を追っていた何でも屋さんの夕暮れとかちあった。いろいろあったものの共同戦線を張って、それからこの結社に入ることになった」
「つまり……」
「他の皆も似たようなものさ。誰もがみんな、この魔法結社を深く知ってから入ったんだ。もともと縁やゆかりがあって入ってきた……君以外は、だ」
「……たしかに、この魔法結社について深くは知らなかったみたいですね。最初から無理があったのかも」
「少なくとも、ずっと後ろで眺めていればよかったのさ。サナカちゃんは正しかった……」
「……? あの子がなにか?」
「深淵の夢、第一の刺客。それを称して、サナカちゃんは大したことない、って言ってたよ」
「言われても、その、しかたなかったとは思いますけど……あはは」
どうしようもないというように、エリィが苦笑する。
「つまるところ……君はその刺客を追い払った。君が手を出さず僕たち三人に任せていたなら、かならず刺客が捕縛されてしまうと悟って追い払ったんだ」
「つまり、私は」
「深淵の夢の刺客」
「目的は」
「夜を破くための剣」
沈黙が落ちる。言葉がなくなったからといって、なにもかも今までのことがなくなってしまうわけではない。ともすればなくなってしまえばよかったのにとも思いながら、それでも時間は過ぎていく。置時計が鐘を鳴らす。
薄く開かれた口から、エリィの乾いた笑いが部屋に響き渡った。
今回の話は本編とは一切まるで関係ありません。