前触れなんて無い
「でね、その相手に良く思われたい一心で服とか靴とかにお金全額使っちゃったんだって。」
「へぇ~そんな外見てか服とかそんな注目しねーけどなぁ。」
「え!じゃあ私が何着てるかとかも見てないの?」
「いやーそれは、、そんなことはないけど。ってか何?その子の事批判しちゃダメだったの?」
「うん感心してほしかった。」
「感心?」
「好きな相手のためならそんぐらい必死になるんだって。」
「んーまぁそれはそうだなぁ。」
言葉選びに失敗してしまったみたい。
めずらしく愛奈が拗ねた。
喜ばせようと思って、うなずいたことが裏目に出る。
じゃあなんて言うのが正しいかったんだなんて言いたくなるけど、
そんなこと言ったらおしまい。
少しでも、話に共感したいのに、
こうやって一つ失敗するだけで焦るのは
好きな証拠なんだろうな。
「そういえばさ、今日、」
「秀?」
はなし始めた途端、背後から名前を呼ばれる。
振り向いた瞬間、思わず目を閉じた。
「秀、なんで電話もメールもしてくれなかったの?ていうかここで何してんの?」
「え、、あっ、いや・・・わるい、ごめん、またあとでな」
「この子だれ?」
「え、あー」
「お兄ちゃん、私席外すね。」
お兄ちゃんと咄嗟に言う愛奈、
焦りをほぐすために口に流し込んだコーヒーを思いっきり吹いた。
「なんだ妹さんだったの?秀、早く言ってよ。
はじめまして、お兄ちゃんの恋人の美奈子です。よろしくね。」
「あ、愛奈です。よろしくお願いします。」
あたまが真っ白。目の前に
本当の恋人と、偽の恋人。
本物が愛奈で、偽が美奈子。
なのに本物の愛奈が偽わって妹になって
偽者が図々しく恋人になって、
そして否定せずに沈黙する柊秀人がいて。
「ひで、折角会えたんだからどっか行こ」
「いやゴメン。今日は愛奈と出かけるから・・」
「いいよ、お兄ちゃん。私のことは気にしなくていいから行ってきて。」
なんで愛奈、満面の笑みを浮かべるんだろう?
嫌味とかウソが全く見えない、嫉妬の香りさえしない笑顔で
サラリといいのける。
「いや、でも今日は本当に」
「妹ちゃんも一緒に遊ぼうよ。せっかく出会えたんだし。そうだ。私のバイト先に行こう。かわいいものがねいっぱいあるの。一緒に見よ。」
「いや、悪いですから・・」
「なんでー私ね、一人っ子だから姉妹で買い物とかしてみたかったの。なんなら今日は秀必要ないくらいだよ。」
「はぁ・・」
愛奈が本気で困ってる。
俺が助けなきゃいけないんだけど、急展開にひたすら閉口。
「秀さっきからずっと黙ってる。何?そんなに兄妹の邪魔されたくなかったわけ?」
「うーん・・ていうかホント今日はさ、両親の結婚記念日だし二人で計画練りたいんだ。だからごめん。また別日にしよう?」
「えー妹ちゃんとも?」
「あぁ、うん。」
「そう・・・。じゃあ仕方ないか。まぁ本当はさ今日どうせ合コンだったから、妹ちゃんを唆してメンバーに連れて行きたかっただけなんだけどね。」
「ふーんそっか。」
「お兄ちゃんがこうも固いと無理だね。」
「あはは」
「じゃあねー」
嵐のように去っていった奴。
そして残された散々すぎる傷跡。
「愛奈?」
「ん?」
「悪かった。」
「何が?」
「あの女はさ、別にそんなんじゃ」
「やめよう。そうゆうの、聞きたくないし興味ない。」
「へ?」
「あっもう4時だ。じゃあ私帰るね。」
「送るよ。」
帰り道、いつもより早い帰り。4時って。
今日は愛奈がバイトだから仕方ないってわかってるけど、
このまま帰って大丈夫なのか。
このまま離れて大丈夫なのか。
弁解や言い訳の言葉が頭で回ってる。
でもそれを聞きたくないと一瞬で遮られたら
言っちゃいけないんだと思う。
さっきと同じように
何も無かったみたいに
くだらない話をして笑ってる
隣に居る愛奈は
本当は俺の事なんか
どうでもいいのかな。
じゃあ気をつけてね、って言って
家の扉が閉まる。
どうしようもない虚無感が
襲ってくる。
このままずっとあの扉が
開かないままだったら
どうしよう。
全く行き先が見えない←でもとりあえず書きたくて書いた。うん、書いただけエライ。一歩踏み出した!