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機械世界の女子高生  作者: 笹田 一木
アメフラシと少女
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[1] 鋭い目をした魔物狩り




 月明かりに薄く照らされた町の石畳の大通り。

 そこを巨大な影が動いている。地面を揺らすような足音と共に、町の大通りをゆっくりと進んでいる。

 その足音が響くごとに、ベッドの中の住民たちは恐怖に顔を引きつらせる。ある男はベッドの中に顔をうずめ、ある母親は泣き出す子供を小声で必死にあやす。

 巨大な影の口からは槍のように鋭い歯がずらりと並び、そのすき間から、空気を揺らすようなフーフーという大きな息づかいが漏れる。

 巨大な影は歩くのをやめた、大通りの真ん中に立ち止まり、そして大きく口を開いた。


「グオオオオオオオオオオオ」


 心臓が凍るような巨大な遠吠えが、町全体に響き渡った。





 サルマ大陸の西の国レト、とある場所。


 明るい日差しが照らす森の中を、一人の旅人らしき青年が地図を片手に歩いている。長身の青年だ。年は一八、九、赤い髪、射抜くような鋭い目をしている。腰には巨大な剣を付けている。


「ふぅ、もうすぐ町に着きそうだな。これでしばらく干し肉から離れられそうだ」


 青年はそうぼやいた直後、何かに気づき足を止めた。森の中で立ち止まり、鼻をクンクンと鳴らす。


「臭うな」


 青年は目を一層鋭くした。


「魔物の臭いだ」





 明るい森の中を、一人の少女が歩いていた。

 少し汚れた服を着た一三才ぐらいの少女だ。茶色い柔らかい髪、大きな目には青い瞳が輝く、軽快な足取りでうさぎのように草原をぴょこぴょこと歩いている。右手には木のかごが掛けてある。

 少女は木の枝にとまる青い小鳥を見つけて明るくニコッと笑う。


「おはよう、今日もいい天気だね」


 少女はしばらく歩くと、大きな赤い実のなった木を見つける。ぷくぷくと太った赤い実の一つ一つに目をやると、ご機嫌そうに笑顔を浮かべる。

 

「うんうん、今日は大漁だね」


 少女は赤い実を次々と取ってかごの中に入れていく。かごいっぱいに実を収穫すると、木に背を向けてもと来た道を戻ろうと歩き出した。その時、少女は背後から妙な気配を感じた。木の葉を踏みしめる小さな音がする。

 少女は嫌な予感がした、足を止めておそるおそる振り向く。

 少女が先ほどまでいた木の周辺、そこに数匹の影が見えた。

 魔物だ。

 大型のオオカミのような魔獣が三匹、鋭い牙をむき出しにして、血に飢えた鋭い視線で少女を一点に見つめている。

 気づかれないように、音もなく近づいてきていたのだ。

 少女の顔が青くなる。


「ウソでしょ……この辺には出なかったはずなのに」


 少女は走り出した。木のかごを投げ捨て、一心不乱に走る。それに反応して魔獣たちも少女に向かって駆けだす。四本の長い手足をばねのように伸ばし、風のように少女を追いかける。

 必死で逃げる少女の耳には、徐々に迫る魔獣の足音が聞こえていた。少女が振り向いたとき、魔獣の一匹がすでに少女のすぐ背後に迫っていた。その魔獣が牙をむき出し、少女に向かって飛びつく。


「きゃあああああああ」


 悲鳴を上げる少女の首に、魔獣の牙が突き刺さるであろう、その時、鋭い風切り音が辺りに響く。

 少女は見た、真っ二つになる魔獣の胴体を。そして目の前に立つ一人の男。その男の右手には爪のような形の巨大な剣が握られていた。

 男は少女に背中を向けたまま、残りの二匹の魔獣を見る。

 魔獣たちは立ち止まり、うなり声を上げながら男を睨みつけている。その魔獣たちに向け、男は疾風の如く速さで斬りつけた。

 魔獣の一匹をあっという間に斬り伏せる。すると最後の一匹が大きな声を上げて男に飛びかかる。しかし、男は一瞬で反応し、剣を振り抜いた。真っ二つになる魔獣の体。

 男は三匹の魔獣をあっという間に倒してしまった。

 その様子を呆然と見る少女。まるで夢でも見ているかのようだった。

 男は少女に歩み寄る。


「ケガは……?」


 鋭い視線で少女を見ながら静かな口調で話しかけた。


「うん、大丈夫……」


 少女は呆然としたまま、ぼやくように答えた。少女は男を見る。射抜くような鋭い眼をした長身の青年だ。軽装で、ベルトの横にはいくつもの袋をぶら下げている。


「旅の人……?」


「ああ」


 少女の問いかけに対して、青年は無表情で答えた。


「地図によると、この近くに町があるはずなんだが、おまえ知ってるか」


 青年はまるて脅すようなきつい口調だった。少女はその口調に少し戸惑う。


「えっと……サブレットのこと?」


「そうだ」


「うん、わたしの住んでる町」


「そうか、なら案内してくれ」


 少女は軽くうなづいた。


「うん、ついてきて」


 少女は青年の手前をトコトコと歩く。

 黙ってついていく青年、その顔を少女は笑顔を浮かべながらのぞく。


「わたしはシルク、あなたは?」


「ブリンク」


 ブリンクは顔も見ずに返答した。


「ブリンク、助けてくれてありがとう。ブリンクってすごく強いね、もしかして魔物狩り?」


「そうだ、魔物だらけのご時世だ。魔物狩りで仕事に困ることはほとんどない」


「もしかしてずっと一人で旅してるの?」


「そうだ」


「さびしくないの?」


「……そんなこと考えたこともない」


 ブリンクはシルクの汚れた服装をチラリと見た。


「それにしても、ずいぶんと薄汚れた服だな。おまえの町の住民はみんなこんな服を着ているのか」


 そのブリンクの言葉にシルクは少しだけ表情を曇らす。


「え……っと、ハハハ、わたしは特別かな」


「そうか」


「それよりそろそろ町が見えてくるはずだけど……あっ! ほらブリンク、町だよ」


 木々の間から、低い町の城門が顔を出した。

 ブリンクとシルクは城門を抜け、町の通りを歩く。


「この町には仕事探しに来たの?」


 シルクはブリンクを興味ありげに見ながら質問する。


「ああ」


「そうなんだ。なら、そんなに苦労はしないと思うよ」


 町の住民の姿がちらほらと見えてきた。その住民たちが全て睨みつけるような嫌な視線を向けている。それにブリンクは気付く。

 ブリンクは初め、自分に向けていると思ったが、どうやらその視線はシルクに向けられているようだった。

 シルク自身もその視線に気づいているようだ。


「えっと、わたしはこれくらいで失礼するね。町まで案内したし」


 シルクはそう言って、ブリンクから離れた。


「仕事なら町長を訪ねればいいと思う。それじゃあ、さようなら」


 シルクは路地へと入って、ブリンクの前から立ち去った。







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