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機械世界の女子高生  作者: 笹田 一木
機械世界の女子高生
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[4] 異界へとつながる光




 掘削場に取り残された壊れた機械兵を横切り、風香とクロセットの二人は道を引き返した。

分かれ道まで引き返し、別の坑道へと入った。

 坑道を歩くを歩く途中、風香は口を開く。


「クロセットって……すごいね。どうしてあんなに強いの?」


 クロセットはニッと笑う。


「すごいだろ、自分でも異常だって思うぜ。昔はけっこー荒れててな、ケンカばっかしてたんだよ。んで、そのうち人間相手じゃ満足できなくなって、町の外に出て獣相手と戦うようになったんだ。気付けばこんな感じになってた」


(そのまま野生に帰った方が馴染んだのでは?)


「自慢だけどサシでの勝負に関してなら人間だろうが、機械兵だろうが、絶対に負けねぇよ」


「へぇ、何か理由があるの?」


「理由? そんなのねぇよ、ただ絶対負けねぇって言う自信があるだけだ」


「そう」


(こいつに理由を聞くだけ無駄だったか)


「ねぇクロセット。そういえば、軍はなんでここの鉱山を欲しがってるの?」


「知らねぇよ。軍の考えてることなんかオレが知るかよ」


 クロセットは少し不機嫌になった。


「話の中に出た東の鉱山って……」


「ああ、東の鉱山は、昔親方たちがメインに掘っていた鉱山さ。だけど、ちょうど一年前、軍のやつらが突然町に来て、その鉱山を奪いやがったんだ。結局親方たちは昔破棄したこの鉱山で採掘するしかなかったんだ」


「じゃあ、東の鉱山は今どうなってるの?」


「軍のやつらが大掛かりな施設を建てて、今でも採掘に勤しんでるよ」


 クロセットは足を止めた。目の前には明かりのない暗い坑道が続いている。


「昔作られた坑道でな。誰も油を変えねぇから明かりが灯らねぇんだ。しっかりあとをついてこいよ」


 暗闇の中へとどんどん進むクロセット、そのあとを風香は追う。暗闇の道でクロセットからはぐれないように風香はクロセットの上着を少しつかんだ。

 しばらく進んだ時だった、坑道の奥から何やら柔らかい光が漏れているのが見えた。

 二人はその光に向かってまっすぐ進む。


 風香は思わず魅入ってしまった。

 坑道の壁全体を柔らかな青色の光が包んでいる。


「キレイだろ。これが町に伝わる異界へとつながる光だ」


「これが異界へとつながる光……」


 辺りは青色の光に包まれ、幻想的な景色が広がっている。


「ここの坑道にはこの町にしかないサーモリッドっていう光る鉱石があってな。ここはこの鉱床だ」


(鉱石が放つ青色光って……なんか怖いんだけど、ガンマ線とか含まれてないよね。異界につながる光って、放射線の被ばくでリアルに天国に行くって意味じゃないよね)


 風香は鉱山を照らす光を見渡す。


(柔らかい光の感じはあの羽に似てる。……でも違う。あの羽の光じゃない。異界へとつながる光。そう呼ばれてるのは、おそらくこの幻想的な光が異界を連想させるってだけだろうな)


「どうだ? 元の世界に戻る手がかりはつかめそうか」


 クロセットの質問に風香は首を横に振った。


「ううん。せっかく案内してもらったけど、ここには元に戻る手がかりはないと思う」


「そっか……」


 クロセットは残念そうに少し視線を落とした。

 二人は坑道の出口へと向かって歩き出す。


(だけど……どうしよう。これでいよいよ手がかりがない。こんな世界に一生と閉じ込められるなんて、そんなこと……)


 風香は胸を締め付けられるような不安を感じた。

 そんな風香の様子を察してか、クロセットが元気な声で話しかける。


「そんなに心配すんな。必ず元に戻る方法は見つかるさ」


(何の根拠もない言葉を掛けられても……)


「それにいざとなったらこの町に住めばいいじゃないか。町のやつらはいいやつばかりだし、慣れるまではオレが色々手伝ってやるよ」


(あんたに手伝われるのが一番不安なんだけど。それにこんな訳わかんない世界に住みたくなんかない)


(………………………………)

 

 風香は視線を落とした。


(わたし嫌なやつだな……。あいつはわたしの事を心配して声かけてるのに、こんなことばっかり考えてる。わたしのことを心配したり、助けたりしたって、こいつには何の得もないのに……。こいつは多分、他人のためにばっかいつも動いてるんだ。だからあんなにバカでもみんなに好かれてる。でもわたしは自分のことしか考えない。だからいつも…………)


「フウカ……?」


「ゴメン、なんでもない。なんでも」


(なに考えてんだ、わたしは……。卑屈になるなんてわたしらしくない。今はとにかく元の世界に戻る新たな手がかりを探さないと)


 二人は坑道の外へ出た。薄暗い坑道を出ると二人の目にまぶしい光が差し込んできた。

 風香が思わず顔を左手で覆った時だった。何やら鈍いパラパラとした音が響いてきた。

 プロレラ音だ。上空から響いてきている。

 目を細めながら空を見上げると、何やら巨大な影が空からこちらへと向かってくるのが見えた。

 風香は思わず目を見開いた。強い風が吹き、巨大な飛行艇が目の前の草原に着地した。飛行艇の巨大な影は坑道の入り口を含めた二人が立つ一帯をきれいに包み込んだ。

 呆然と立ち尽くす二人。

 すると飛行艇の入り口が開かれた。四つある入り口が一気に開かれ、中から軍人が次から次へと出てくる。

 二十人はいるだろう軍人は剣を構え、二人を囲んだ。

 クロセットはとっさに風香を後ろに下げて、素早く機械剣を両手で持って周りを囲む軍人達をにらみつけた。

 すると飛行艇の入り口から遅れて一人の軍人が降りてくる。三十代後半ぐらい、きれいに整った髪に冷たい目をした男だ。

 クロセットはその軍人を見て思わず声を漏らす。


「あいつは……」


「知ってるの?」


 クロセットの背中越しに風香が小声で聞いた。


「ああ、東の鉱山を奪われた時に見た。軍施設の責任者アクスバル将軍だ」


 地面に足をつけたアクスバル将軍はゆっくりと近づいてくる、槍型のライターを取り出し、葉巻に火をつけた。


「機械剣を持つ少年……君がサーペントを破壊した少年か」


 アクスバルは煙を吐き出す。


「だったらなんだよ」


 クロセットは挑発的な声を出す。


(何をこの状況で敵をあおってるんだ、こいつは)


 アクスバル将軍はつぶやくような静かな口調で話しかける。


「私はことをできるだけ穏便に運びたいんだよ。つまりできるだけ平和的な解決がしたいんだ。分かってくれるかい」


「オレ達から鉱山を力づくで奪うことが平和的な解決だって言うのかよ。アアッッ!!?」


 クロセットはもう怒っている。


「その通りだよ。君達にとっても我々と戦争をするよりよっぽど平和的な解決だと思うがね。君達が我々の要求に従うのなら、我々は君達に一切の危害を加える気はないのだよ」


 その言葉を聞いてクロセットは目の前の地面を機械剣で切り裂いた。辺りの地面が割れる。


「話になんねぇんだよ!! なに上からもの言ってんだ、アアッ!!? ふざけたことばっかり言いやがって、ぶった斬って、ミンチにして、鳥のエサにしてやるッッ!!!」


(この場合クロセットの言い分の方が正しいんだろうけど、なんだろう、なぜかチンピラがイチャモンつけてるようにしか聞こえない……)


「やれやれ、我々は望まないが、力づくしかなさそうだね」


「なんだ、この兵隊でオレとやるつもりか?」


「機械兵を生身で倒すような君に、私の大切な人材をぶつける気はないよ。ふさわしい相手はちゃんと用意してある」


 アクスバル将軍は片手を上げる。すると飛行船の左右の壁が大きく開き、その中から巨大な何かが大きな音を立てて出てくる。

 機械兵だ。サーペントとは違うタイプの機械兵。サーペントが人型の機械兵なら、この機械兵はゴリラ型と言った方が正しいだろう。サーペントよりもはるかにごつい胴体に、異常に太い腕がぶら下がっている。全体の大きさはサーペントの倍以上はあるだろう。そんな凶悪な機械兵が、片方から三機ずつ、全部で六機、列を作りながら出てきた。


「サーペントの発展型、機械兵ブロッキング。国軍の主力兵器だよ」


 巨大な機械兵六機が囲むようにクロセットに近づいてくる。


「風香、オレから離れて……」


 そう言いかけたクロセットのはるか遠くに風香はすでに隠れていた。


「逃げるのはやっ!」


 風香は鉱山の入口の陰からクロセットと機械兵をのぞき見る。


(当たり前でしょ。こんな危険な場所に誰がいつまでもいるか! あんたがまいた種にわたしまで巻き込まれてたまるか)


「さて、ブロッキングの性能はサーペントの約八倍。しかもそれが六機。これを生身の人間が相手をすることがどれだけ無謀か、君でも理解できるだろう?」


 その言葉を聞いてクロセットは笑う。


「知ったことかよ。気に入らねぇからぶっ潰す。それだけだ」


(ごめんなさい将軍さん、この子バカなんです。頭の回路が途切れてるんです)


「それは残念だ。私も乱暴な真似は極力控えたかったのだがね」


 アクスバル将軍は軽く手を振り下ろす。


「やれ」


 アクスバルの命令とともに六機のブロッキングが音を立てて突進してきた。







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