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機械世界の女子高生  作者: 笹田 一木
機械世界の女子高生
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[3] 鉱山のイザコザ



 薄暗い坑道をクロセットと風香は歩く。

 所々に明かりが灯っており、中を見渡すことができた。土壁がひたすらに続く広い坑道を二人は進んでいく。

 風香はクロセットをチラッと見た。


(異界につながる光。それがここにあるってこいつは言ったけど、見る限り何の変哲もないただの坑道……本当にこんな所にあるの?)


 クロセットは黙々と少し前を歩いている。

 そんな時だった、前方からエンジン音のような鈍い音が響いてくる。


「なに?」


 風香が前方に目を凝らすと、何やら大きな機械がこちらへと走ってくる。トラックのような運搬車だ。


「フウカ、道を開けろ」


 クロセットの声と共に、端に寄る風香。巨大な運搬車はブルルッと一度音を響かせ、二人の横に停まった。後方には大量の鉱石が積まれている。


「クロセットじゃねーか」


 運搬車には白いひげに顔を覆われた老人が座っていた。


「よう、アヒじじい、久しぶり」


 クロセットは気さくにあいさつした。

 アヒじじいは丸い目でクロセットを見たあと、今度は風香の方をじっと見た。


「たまげたな、クロセットが女を連れて来とる。しかもこんな美人を」


「ちょっと訳ありでな、異界につながる光を見たいらしいんだ」


「ほう、そりゃあ物好きだなぁ」


「そういや、どうだ。調子は」


「全然ダメだよ。ココじゃあ話にならん。純度の低いクズ石ばかりだ」


「そうか……」


 クロセットは少し表情を曇らす。


「クロセット、せっかくだからルックの野郎に顔見せてきな」


「ああ、初めからそのつもりだよ」


 運搬車はまた動き出し、坑道の入口へと走っていった。

 二人は再び歩き出す。クロセットが風香の顔を見る。


「さっきのじいさん、アヒじじいってみんな呼んでんだ。ひげを生やしたアヒルみたいな顔してるから」


(別に聞いてないんだけど。てか、ひどい呼び名だな)


「フウカ、ちょっと親方のトコに寄ってくわ」


「うん、分かった」


「悪いな」


「ううん、別に焦ってないから」


(この状況で焦ったところで疲れるだけだし)


 坑道はいくつもの道に分かれており、入り組んだ構造をしていた。クロセットはその道を迷わず進んでいく。


「ずいぶん入り組んでるけど、迷ったりしないの?」


「大丈夫さ、オレを信じろ」


(アンタだから不安なんですけど)


 しばらく道を進んでいくと、遠くから何かを力任せに削るような爆音が聞こえてくる。

 その音が耳を押さえるぐらい大きくなるまで進んでいくと、大きなマシンが目に飛び込んできた。戦車のような形をした大きなマシンで、前方に付けた巨大なドリルで坑道の壁を力任せに削り取っている。そのマシンを五、六人の男が囲む。


「親方!」


 クロセットはそう呼んだが、ドリルの音にかき消された。


「おーやーかーた――――ッッ!!!」


 クロセットはドリルの音に負けないぐらいの大声で名を呼ぶ。風香はサッと耳を押さえた。すると、男達の中で一番体の大きな男が振り向き、クロセットの目の前まで歩いてきた。


「クロセットじゃねぇか」


「久しぶりだな、親方」


 クロセットは片手を上げる。


「あいかわらず眼つきの悪い野郎だ」


 親方はニヤリと笑う。


「親方も相変わらず膨らんだ体してんな」


 クロセットもニヤッと笑う。


「おい、クロセットが女を連れてきてるぞ」


 男の一人が声を上げると、次々と男達が風香に寄ってくる。ドリルマシンの脇にいた男もわざわざマシンを止めて風香に近づいてくる。


「若ぇ子だ」

「美人だ」

「変わった服装してるな。異国の子かえ」


 泥まみれの男達が風香を囲む。


(うわあ、ムサい……制服に土が付くでしょうが)


 風香は顔を引きつらせる。


「バカ野郎! 離れろ、怖がってんだろうが」


 親方が怒鳴ると男達は一斉に距離をとる。


「クロセット、こんなお譲ちゃん連れて何の用だ?」


「ああ、異界につながる光を見せにな。ここにはついでに寄っただけだ。久しぶりに働いてるみんなの顔を見てみたくってな」


 クロセットは明るく笑った。親方もつられて笑う。


「くっくっくっ、悪趣味な野郎だ」


 親方がそう言った直後、先ほど進んできた道から何やら大きな音が響いてくる。


「アヒじじいが戻ってきたか?」

「それにしちゃあ早くないか」


 男達は音の方向を見ながら話しだす。


「いや、この音は違う。車輪の音じゃねぇ、足音だ」


 クロセットがそう言った直後、坑道の奥から巨大な機械兵がノソッと顔を出してきた。


「サーペントだ!」

「なんでこんな所に……」


 騒ぎ出す男達を尻目に、サーペントはドスンドスンと大きな音を立てながら男達に歩み寄ってくる。

 男達の目の前で停まると、今度はサーペントの裏側から十人近くの軍人達が現れた。

 その軍人達の先頭には、青白い顔をした上官らしき男が立つ。


「ここは空気が薄いな、それに土臭い……私の体には合わん」

 

 青白い顔の上官は冷たい口調で言って辺りを見渡す。


「ここの責任者は?」


 青白い顔の上官は鉱山の男を見渡しながら聞く。


「俺だ」


 親方がそう返事をして一歩前に出る。

 上官は親方を冷たい目で見ると、小さく鼻をフンと鳴らす。


「国軍少佐のテトラだ」


「その国軍少佐殿がこんな空気の薄い土臭い場所にどのような御用で?」


 親方はテトラ少佐を軽くにらみつける。対してテトラ少佐は表情一つ変えない。


「私はね。仕事の邪魔をする趣味はない。それに鉱山の男と世間話をする趣味もない。よって単刀直入に話させてもらうよ」


 テトラ少佐は親方を静かに見つめた。


「この坑道を軍に明け渡してもらう」


 その声が坑道内に小さく響くと、しばらくのあいだ辺りがシーンと静まり返った。そのすぐあとだった、爆発するような怒りの声が坑道を埋めつくす。


「冗談じゃねぇ!!」

「東の鉱山を渡したあとに、ここまで渡すって言うのか!!」

「俺達に飢え死にしろって言うのかよ!」


 鉱山を埋めつくす男達の怒声。それと共にテトラ少佐の後ろに控える兵士達が前に出てくる。


「静かにしろ!」


 親方の大声が響く。その声を聞きテトラ少佐は手で兵士達を制した。

 親方はテトラ少佐の顔をじっと見る。


「オレは鉱山を掘るのが仕事でね。だから戦争を仕事にしてるアンタらと争うつもりは全くねぇ。だけどな、少佐殿、こりゃあ、いささか横暴じゃあねぇかな」


 親方は怒りを押さえるような口調だった。


「君達と交渉する気はない。これはすでに決定事項だ。これより一週間後に、この鉱山は軍の所有物となる」


「ふざけるな!」


 親方は声を上げた。


「なら俺達の生活はどうなる!」


「その分の補償は軍が十分に支払おう」


「十分に支払うだと……? 東の鉱山を奪った時、あんたらは俺達に十分な補償をしたか!!」


 親方の怒る様子を見て、テトラ少佐は溜め息をついた。


「私は同じことを二度言うのが嫌いなのだがね。これはすでに決定事項だ。君達がいくら怒鳴ったところで覆るものではない」


「ふざけんな!」

「いくら軍でも許されるもんか」

「絶対に奪わせねーぞ!」


 鉱山の男達は次々と声を上げるが、その直後に響いた足音にその声はかき消される。

 サーペントがドスンドスンと鉱山の男達に近づく。


「文句があるのならば、この場で相手をするが……?」


 テトラ少佐の冷たい声が響いた。サーペントの頭部に付いている人口眼がギラリと光る。

 鉱山の男達は黙ってあとずさりをする。


「文句あるに決まってんだろーがアアアアアアッッ!!!」


 クロセットが怒りの声が巨大に響き渡った。


「なにてめぇの都合で勝手に決めて決定事項だ! 逆らえば兵器使って力づくで抑え込むだと……?」


 クロセットは歯を鳴らしてうなった。


「もう我慢できねえ!! コナゴナにして、ぶっ潰して、チリにしてやる!!」


 クロセットは大きな足音を響かせながらサーペントに近づく。

 それを見て風香は冷や汗を流す。


(いやいやいや、落ち着こうよ。あんな巨大ロボに人が勝てるわけないでしょうが、それぐらいは分かろうよ)


 テトラ少佐はそんなクロセットの様子を見てあきれた様子だ。


「やれやれ、極力穏便に済ましたかったのだがな。やれ」


 その命令と共にサーペントが人一人分はあるだろう巨大な腕を振り上げた。そしてクロセットに向けて叩きつける。クロセットはとっさに反応して間一髪でその腕を避けた。サーペントの腕はそのまま坑道の地面にぶつかる。直後、鉱山全体が揺れ、地面に亀裂が走った。

 その様子を見て鉱山の男達は恐怖で顔を引きつらせる。

 しかしクロセットはサーペントから逃げ出す気配はない。背中の機械剣を両腕で持ち、取り付けられているレバーを引いた。その直後、機械剣に付いている排出口から白い蒸気が噴き出した。それと共に機械剣の刀身が見る見るうちに赤く染まっていく。

 その瞬間だった。

 クロセットは機械剣を一瞬で振り抜いた。

 それと共にボトリと巨大な金属の腕が地面に転がった。

 サーペントの片腕が機械剣によって切り取られたのだ。

 テトラ少佐を含む軍人達はその様子に口をあんぐりと開ける。


「おらあああああぁぁぁぁぁ!!」


 クロセットはそのまま叫びながら高く跳びあがり、機械剣をそのまま力任せに振り下ろした。鋭い音と共にサーペントの頭部が真っ二つに割れ、破片が銃弾のように辺りにはじけ飛んだ。

 遅れて、サーペントの頭部から黒い煙が上がり、内部から停止音のような高い音が響いた。

 サーペントはそのまま石のように動かなくなった。


「た、退散だ。ここは一度退散するぞ」


 テトラ少佐は青い顔をさらに青くしながら周りの兵士達と共に背中を向けて逃げ出した。


「こ、このままで済むと思うなよ!」


 捨て台詞を吐いてテトラ少佐は姿を消した。

 その一部始終を見ながら風香はあぜんとした。


(人間の動きじゃない…………どんな身体構造してるんだ、あの男は。実は人の形をしたゴリラとか? 頭も悪いし。どうもこの世界の人間にはわたしの持ってる常識は通用しないみたい、いや待て、そもそもこの世界の人間がみんなあんな動きをしたらマシンで脅しをかけるわけない、つまりあいつが異常なのか)


 鉱山の男達が一斉に歓声を上げた。


「最高だぜ、クロセット!」

「軍の野郎め、ざまーみろだ!!」

「見たかよ、あの少佐の間抜け面」


 鉱山の男達はクロセットを囲みながら大喜びする。


(いやいや、落ち着こうよ君達、こんなことをしてただで済むわけないでしょ。絶対に報復されるよ。そこんトコまで考えが及んでいるの?)


「とはいえ、少し厄介なことになったな」


 親方が重々しい口調で言った。


「これで軍が黙ってるとは思えねぇ。必ずまた来るぞ」


(あっ、まともなのが一名)


「そんときはまた返り討ちにしてやるよ」


 クロセットは笑みを浮かべる。


(おバカが一名)


「それで済めばいいがな」


「どっちにしろココを奪われちゃあ親方たちの生活がままならねぇ、なら戦うしかねぇだろ」


「おめぇはもう鉱山で働いてないだろう」


「だけど、親方たちには世話になった。それに町の問題はオレの問題だ。ほっとくわけにはいかねぇよ」


「ったくバカ野郎が」


「いざとなったらオレが単独で軍の施設に乗り込んでやる。そうすりゃあ、睨まれるのはオレ一人だ」


(何その自己犠牲な行動。ついていけん)


「バカ野郎、戦う時は俺達も一緒だ。あんまり勝手な行動するんじゃねぇぞ」


 親方は笑みを浮かべながら言った。

 クロセットは風香の方を向く。


「ワリィな風香、ゴタゴタしちまった。早いトコ行こうぜ、異界につながる光の場所へ」


 風香はうなづいた。


「うん、早く行こう」


(早いトコ、ことを済ませてゴタゴタに巻き込まれないようにしないと)








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