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機械世界の女子高生  作者: 笹田 一木
機械世界の女子高生
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[2] とりあえず状況の確認




 風香は少年に引っ張られるままに、知らない町を駆けずり回された。


 走り過ぎて風香が吐き気を覚え始めた頃、少年は足を止めた。


「悪いな、変なことに巻きこんじまった」


「うん、いいよ……もう」


(あの場で他人のふりをしてくれれば巻き込まれずに済んだんですけどね)


 少年は目の前の建物に目を向ける。


「ここがオレの住んでる家だ。まあ借り家だけどな」


 茶色の四角い古い建物だ。


「とりあえず上がれよ。なんか色々混乱してるみたいだし、ゆっくり話そう」


(あんたが余計に混乱させたんだよ)


 少年は入り口のドアの取っ手を握る。


「アレ……!?」


 ドアを開けようとするが開かない。ガチャガチャと引っ掛かる音がする。


「……壊れやがったな。ここもけっこー古いからな」


 少年はそう言った直後だった。ドアを思いっきり蹴とばした。バキンと大きな音が鳴り響き、ドアが折れ曲がり蹴り破られた。

 その様子に風香は呆然とする。


「ほら、入れよ」


 少年は平然とした様子で言い放った。

 そのまま玄関に入る。風香は玄関にバラバラに散らばるドアを見つめた。


「ドア……あれでいいの?」


「大丈夫、直すよ…………そのうち」


 風香は一瞬言葉を失ったが、再び口を開いた。


「……さっきの軍人みたいな人……ここに来たりしないの?」


「ああ、あいつらか、大丈夫だよ。あいつらがここのやつの顔をいちいち覚えてる訳ないし、オレがぶん殴ったやつも記憶が飛んでるだろうからな」


 少年はそう言ったあと声を上げて笑った。


(笑えねーよ)


 部屋は少しだけ散らかっていた。茶色の壁に囲まれた部屋には棚やテーブルなどの家具のほかに、見たことのないような複雑な機械がいくつも置かれていた。


「テーブルに座って待ってろよ。いま茶いれるから」


 風香が座ると、少年は機械の一つに手を触れた。四角いジグザグとした複雑な機械だ。取り付けられているレバーを動かすと、機械に着いている小さな煙突から湯気が音を立てて噴き出る。


(なに、あの機械……マニアックな湯沸かし器?)


 少年が機械の隣にティーカップを置くと、機械の注ぎ口らしきところから茶色い液体が流れ出てきた。

 少年はティーカップを風香の前に置く。向かい側の席にもティーカップを置いて、その席に座る。


「オレはクロセット、おまえの名は?」


(くろせっと……? 黒瀬戸? 黒セット? 黒瀬と? そもそも名前なの? 『オレはクローゼットだ』って言う新手のギャグ?)


「わ、わたしは風香」


(あっ、つい名前の方を……)


「そうか、よろしくなフウカ」


(な、馴れ馴れしい、名前で呼ぶのなんか家族以外いなかったのに……!)


「よろしく……」


「で、おまえは迷子の旅人かなんかなのか?」


 そのクロセットの質問に風香は一瞬黙った。


「ねぇ、クロセット、あなたはさっきここを、アイゼンシュート王国のホースブリケットって言ったよね」


「ああ」


「それは本気で言ったんだよね。変なイベントとか冗談とか抜きで」


「……? なんでオレがイベントとか冗談でそんなこと言うんだよ」


(真面目に言ってる……)


「じゃあさ、ここが地球のどの辺か分かる?」


「チキュウ?」


「…………。ここが世界のどの辺か分かる?」


「……世界って言うと、そうだな、セイカ大陸の東の方だって聞いたことがあるな」


(セイカ大陸……???)


「……ねぇ、クロセット、アメリカって分かる?」


「あめりか……なんだそれ、なんかの動物か」


(誰か助けてー!!!)


「そ……そう、分かった、よく分かった」


(ダメだ……。なんか良く分からないけどダメだ。そう、分かることは一つ、ここはアドベンチャーランドなんかじゃない。さっきあったゴタゴタは、変なイベントなんかでもない。ていうか、思いっきり殴ってたもんね、あの軍人っぽいヒト、宙に浮いてたもんね、あれがスタントだったら神業ですよ)


 風香は大きく溜め息をついた。


(もうダメだ、認めよう、ここは明らかにわたしの知ってる世界じゃない。あの変な羽……よく分からないけど、わたしはアレによって別の世界に飛ばされたんだ。まぁ、仮にちょっと推測が違ってても、そういうことにしとこう。今の状況に抗っていても無駄に疲れるだけだから)


「状況はつかめたのか? フウカ」


「ええ、バッチリつかめた」


「じゃあフウカ、どういう状況だったんだ。オレにも教えてくれよ」


(フウカ、フウカって、コイツ馴れ馴れしいなー。でもどうするか、コイツにどうやって説明しよう。別の世界から来たって言っても信じるわけないし、いや、待てよ、さっきのゴタゴタを見る限り、コイツかなり頭悪い。頭悪いヤツの特権は疑うことを知らないこと……試してみるか)


「ねぇ、クロセット。もしわたしが別の世界から来たって言ったら信じてくれる?」


「別の……世界!?」


(食いついた! バカにしてる様子はない)


「そう、わたしはココとは全く違う世界にいた。そして突然、気付いたらここにいた……」


「すげぇ、じゃあフウカは別の世界の住人なのか」


(ありがとう神様、最初に出会う人間をこんなおバカな人にしてくれて)


「そうなんだ。だからわたし全然訳が分からなくて、どうしていいか」


 風香はあえて弱々しい声を出した。


「そうか、そりゃあ大変だったな。オレもよぉ、別の町に行ったことがあるんだが、こことは勝手が違って、けっこー困ったことが多かったんだよな。なのに風香は町どころか、国も大陸も飛んで、世界だもんなー、そりゃあ困るだろう」


「ねぇ、クロセット、わたし、元の世界に戻りたい。なにか元の世界に戻る方法はないの?」


「元の世界……うーん、分からねぇな、別の世界なんてそもそも、あの世ぐらいしか知らねぇし」


(でしょうね、元の世界に戻る方法なんて、そこら辺に転がってるとは思えない。しかもコイツは特に無知そうだし)


「光の羽……多分それが原因だと思う。どこかで、そんな話や神話なんかを聞いたことない?」


「うーん、光の羽か。言葉だけだったら転がってなくはなさそうだけど…………待てよ」


「心当たりがあるの?」


「光の羽とどれだけ関係あるか分からねぇけど、異界につながる光ってやつは知ってるな」


(マジですか)


「その異界につながる光って言うのはどういうものなの?」


「ここで説明するのはちょっと難しいな。今からその光のある場所まで行くか」


 クロセットは立ち上がった。


「案内するぜ、フウカ」




 鉱山の隣に巨大な灰色の施設が建っている。その一室に一人の軍人が座っていた。年齢は三十代後半ぐらい、髪をきれいに整えた、冷たい目をした男だ。

 青白い顔をした軍人の報告を聞き、小さくつぶやくような声を出す。


「兵士の一人が殴り倒された?」


「はい、町民の犯行だと思われるのですが、殴られた兵士は覚えていないらしく」


「所詮小さなイザコザだ。構う必要などないよ。それより今日は大事な発表の日だ。物事を円滑に進めるためにも、あまり町民を刺激しないでくれよ」


「はい、アクスバル将軍」


「君は予定通り、鉱山に足を運んでくれ」


「はっ!」


 青白い顔の軍人が敬礼をすると、アクスバル将軍は薄く笑みを浮かべた。




 風香とクロセットは町の石畳を歩く。のっぺりとした茶色の建物が次々と通り過ぎる。その間、人の姿は見えない。


「この町、建物の割に人がいないね」


「この時間はみんな働きに出てるからな」


「へぇ……ねぇ、クロセット。さっき巨大なマシンが列を作って歩いているのを見たんだけど、あれってなに?」


「ああ、あれはサーペントだ」


「サーペント?」


「………………」


(おい、なぜこのタイミングで黙る。まさか今ので説明した気?)


「サーペントって何なの? どういうことをする機械なの?」


「ああ、アレは軍の兵器だよ。人工知能を持った軍用の機械兵だ」


(人工知能を持った機械兵……しかもあのサイズか。機械工学に関しては、わたしのいた世界よりはるかに進んでる)


 風香は頭の情報を高速で整理する。


(でも町の景色を見る限り建築技術に関してはまだ未発展。さっきクロセットが別の町へ行って困ったって言ってたから、町同士の交流はあまりない……ってことは、交通の便もかなり未発展だと思っていい。進んでいるのは機械工学だけか。恐らくその分野での天才がいたんだろうな。それとも国家事業で長年にわたって開発されていたのかも。この国を取り締まっているのは軍? いや、アイゼンシュート王国って言うぐらいだから国王か。政体は君主制か)


「あの機械兵が兵器っていうのなら、どうしてその兵器が町中を歩いていたの?」


「ふん、やつら見回りと称してアレを町中に歩かせてオレ達をビビらせようとしてんのさ」


 クロセットは不機嫌に声を上げる。


(ビビらせる? なんか町の住民と軍とでイザコザなんかがありそう。極力関わらないようにしよう)


「ここは鉱山の町って言ってたよね。この町ではどんな鉱物を採掘してるの?」


「まあいろんな種類が採れるけど主なのはディナメタルだな」


「ディナメタルってどんな金属なの?」


 風香がそう聞き返すと、クロセットは声を上げて笑う。


「おまえディナメタルも知らねーのかよ」


(うっせーよ、この世界の事なんて大抵知らないわ。当たり前だろ)


「ディナメタルって言うのはな。一番よく使われる金属だよ。だいたいの機械に使われてる」


「へぇ、そうなんだ」


(つまりわたしの世界で言う鉄みたいなものか……いや、どちらかというとアルミかな)


「じゃあクロセットも鉱山で働いてるの?」


「いや、今は働いてねぇな。オレは町のいろんな仕事を転々としてるんだ。町のいろんなやつらと関わってる。手が足りないやつらを手伝ったりとかな」


「へぇ、自由な生活をしてるんだね」


(つまりフリーターか)


 二人はそんな調子で話しながら、町はずれの広い草原まで歩いた。


「着いたぞ」


 クロセットは足を止めた。

 目の前には巨大な鉱山と、坑道の入り口が大きく口を開けている。


「ここにあるの? 異界につながる光って……」


 クロセットはニッと笑う。


「ああ、とにかくついて来い」








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