[5] 狂気との対峙
山内は大きく目を見開き不気味に笑みを浮かべていた。
山内はポケットからステッキを取り出した。前に見たものとは別のステッキ……ブラックステッキだった。
それを見て陽一と美鈴に緊張が走った。二人は素早くブラックステッキを構える。
陽一は山内をにらみつける。
「答えろ! どうしてあんたは人を殺した」
山内はニヤニヤと笑う。
「僕はね……人形が好きなんだよ。好きで好きで好きで好きで好きで堪らないんだ。人形にはね、一つ一つに妖精が宿るんだよ」
山内は嬉しそうに笑う。
「心臓をきれいに止めた人間は、とてもきれいな人形になるんだ。僕はね、人間を妖精にしてあげているんだ。そして妖精になった人の魅力を他の人にも見せてあげるために、目立つ所に飾ってあげるんだよ」
山内は狂ったように笑みを浮かべていた。
「僕は……出世や名誉なんてものには興味はないんだ。だから、自分が有能なことなんて誰も知る必要はない。僕はただ……妖精と一緒にいれればいいんだ」
陽一は不快に表情を歪ます。
「こいつ……吹っ飛んでやがる」
山内は奇声を上げた。
「さあああああああ!! 君たちも妖精にしてあげよう!!!」
陽一は素早く衝撃を飛ばそうとした、しかし、その瞬間、心臓の動きが不規則に乱れた。陽一はあまりの苦しさにその場にひざまずいた。
「さあ、まずは君の心臓だ……」
陽一は視界が歪むのを感じた。
(やべぇ、死ぬ)
陽一がそう思った瞬間だった。山ほどの小石のつぶてが陽一を横切り、山内に一直線に飛んでいった。
「ぐうぅ!」
山内の叫びが響くと共に、陽一の心臓が元に戻った。
「南くん! とにかく動きなさい、動き続けて物理情報を変化させれば、体内をいじくられなくて済む」
美鈴の声を聞いて、陽一は左右に動きまわる。
「このぉ……!!」
山内は陽一をにらみながら再びステッキを動かすが、陽一の体に変化は生じない。
陽一はステッキを動かす。
「相手もブラック……、悪いが命の保証はできねぇぞ!!」
巨大な衝撃波が陽一から放たれた。その衝撃は強烈な勢いで山内に向かって飛ぶ。山内の体にぶつかるだろうその瞬間、山内の体が消えた。
陽一と美鈴は驚いた。
「どこに……?」
「あそこ!」
美鈴は上を指さした。
山内の体は宙に浮いていた。
「電磁反発か……! 磁石と同じ反発の力で浮いてる」
山内はニヤニヤと笑っている。
「僕が心臓を止めることしかできないと思っていたのか?」
山内の周りから雷の落ちた時のような激しい稲光が起き、巨大な電気の球が形成されていく。
「陽一くん、きみの魔術ではこれは防げないだろう?」
巨大な電気の塊は陽一に向かって一直線に放たれる。しかし突然コンクリートがはがれ、電気とぶつかり合って互いに粉砕した。
「私を忘れるなんて失礼ね」
美鈴は山内をにらみつけながら言った。
山内は舌打ちする。
無数の石やコンクリートの破片が山内に向かって一気に飛んでいく。山内はそれを電気で弾き飛ばすが、自身は宙に浮いたまま全く動かない。
「どうやら電磁反発の飛行じゃあ、ほとんど動けないみたいね」
山内はすぐに地面に降りた。
「クソガキ共め」
山内から再び巨大な電気の球が放たれた。美鈴が再びコンクリートの盾を作るが、電気の球はそれにぶつかる直前にはじけて、無数のつぶてに変わった。電気のつぶてはそのまま、陽一と美鈴のいる一帯に雨のように降り注いだ。美鈴は素早くコンクリートの破片を盾にして防いだが、陽一はその電気のつぶてを体に浴びてしまった。
「あああああっ!!」
陽一は激しく叫び、そのまま力無く地面にうつ伏せに倒れた。
「まず一人……」
山内はニタッと笑う。
「次は君だ……」
山内は美鈴を見つめる。
美鈴の表情が険しくなっていく。
「何が『まず一人』だ……」
うつ伏せになっている陽一から声が漏れる。
「やられるのは、あとにも先にもテメーただ一人だよ」
陽一は顔を上げて、山内をにらみつけていた。
それを見下ろす山内。
「いまさら強がりを言っても……」
「おい、オレのステッキ……どこに触れているか見えるか」
「なに……?」
陽一のステッキはコンクリートの道路に触れていた。
「オレの得意は振動魔術。振動が伝わるのは空気だけじゃないんだぜ。物質から物質へも伝わるんだよ」
山内はハッとした。
「もう遅い」
山内の足元から衝撃が飛び出て、鈍い音と共に、山内の体は真上に勢いよく吹っ飛んだ。太い叫び声と共に、山内の体は大きくのけ反りながら宙を飛んだ。
そのままコンクリートの道路に激突し、山内は仰向けに倒れた。
陽一は起き上がり、ピクピクと痙攣する山内を見下ろした。
「これで終わりだ。クソ野郎」
その後に来た警察によって山内は逮捕された。
二人は夜の道をゆっくりと歩く。
美鈴は夜空を見上げる。
「大変な一日だったわね……」
「ああ」
陽一は静かに答えた。
「陽一くん、今日は協力してくれてありがとう。それからごめんなさい」
「え……?」
「私は陽一くんに協力してもらいたい一心で、親友を思う陽一くんの気持ちを利用したから」
「そんなことねーよ。これはオレが決めてやったことだ。それに……」
陽一は美鈴を見つめた。
「おまえが誘ってくれたおかげで、こうして犯人を自分の手で捕まえることができた。本当に感謝してる」
それを聞いて美鈴はニコリと笑った。
「ねえ、陽一くん、また今度なにかあった時、あなたを頼ってもいい? 私たちいいコンビになりそうでしょ?」
陽一は優しく微笑んだ。
「ああ、いつでもいいよ」
美鈴は足を止めた。
「それじゃあ、私はここで……」
「大丈夫か、もう遅いぞ、送ってこうか」
「ありがとう、だけど私に関しては心配いらないんじゃない?」
「ハハハ……確かに」
「それじゃあ、またね」
「ああ、またな」
二人はゆっくりと別れていった。