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機械世界の女子高生  作者: 笹田 一木
物理魔術師の幽霊捜査
14/17

[3] 事件現場に現れた男たち




 昼食を終えた陽一と美鈴は再び住宅地を歩く。


「そういえばさっき、黒目さんの呪いの噂にはもっと深い部分があるって言ってたよな」


「ええ」


「それって、どんな話なんだよ」


「……そうね、その話をするにはちょうどいいタイミングね」


 美鈴は立ち止まった。


「来て」


 美鈴はそう言いながら、電信柱の一つにゆっくりと歩み寄った。陽一もその電信柱に近づく。その電信柱には、花が添えられていた。


「これって……」


「少し前にここで人が殺されたの。変死事件が起き始めたおよそ一ヶ月前に」


 美鈴は静かな口調で言った。


「一ヶ月前……」


「今まで起きた四つの事件現場を地図上で線で結ぶと、この場所がすっぽり入るの」


 陽一は心臓が嫌な音をするのを感じた。


「ここで死んだ人って……」


「女子高生よ。暴漢に突然、頭を殴られて死んだらしいわ」


「それが、黒目さんの呪いの始まりなのか」


「それだけじゃない。この女子高生の噂について詳しく調べてみると、ある話が浮かび上がってくるの」


 美鈴は静かな口調でゆっくりと話しだす。


 女子高生の名前は白佐和シロサワ ヒカル

 彼女には愛する恋人がいた。

 光はその恋人と、ある誓いを立てていた。

 ずっと共に生き、そして死ぬ時も共に死ぬ。

 それが二人の愛の誓いだった。

 けれど、光が暴漢に襲われて死んだあと、恋人はそのあとを追わなかった。

 光は思った。

『どうして?』

『彼は死ぬ時も共にって約束したのに』

『どうして私を独りにするの?』

『どうして彼は追ってこないの?』

『約束したのに、約束したのに、約束したのに…………絶対に、許さない』



「これがちまたに流れてる噂話……」


「いや、きみの語り口が無駄に怖いんだけど」


 陽一の顔が青くなっていた。


「それじゃあ、噂によると彼女の怨念が黒目さんの呪いの正体ってことか?」


「そういうことになるわね」


「その彼氏っていうのは今どうしてるんだ?」


「調べてみたけど分からなかったわ。白佐和光は友達関係が希薄だったようだから」


「なのにそんな噂が流れているってのは少し不思議だよな」


「噂っていうのはいつも発生源がわからないものでしょ」


「確かにな……そういえば、彼女を殺したって暴漢は?」


「すぐに警察に捕まったらしいわ。……黒目さんについて私の知っていることはそんなトコかな。それじゃあ三件目の事件現場へ行きましょうか」


 二人は三件目の現場に向かう。歩くにつれ、住宅が徐々に減り、廃れた工場の建物が立ち並び始めた。


「ここら辺は少し治安が悪いらしいから注意してね」


 辺りからは民家は消え、道端に座り込むホームレスらしき人が目につくようになっていた。

 二人は三件目の事件現場に着いた。

 ひと気のない大きな施設の前の道路、美鈴はそこの電線の一部分を指さす。


「ここで死んだのは、茨木健斗イバラギ ケント二十二才フリーター」


 美鈴がそう言った直後だった。


「おい、おまえら、そこで何してる」


 突然、施設の敷地から、五、六人のチンピラのような男たちが出てきた。

 先頭のスキンヘッドの男が脅すような声を出した。


「聞こえてんのか? 何してるって聞いてんだよ……」


 スキンヘッドの男が陽一と美鈴をにらみつける。他の男たちもどこか威圧的だ。

 そんな男たちを前にしても美鈴はきぜんとした態度で口を開いた。


「あなたたちに話す理由はありません。人に何かを聞くのなら、まずあなたたちから何者か名乗ったらどうですか」


 男たちの表情が明らかに不快なものへと変わっていった。


「おまえ、死にたいらしいな」


 男たちは殺気立った笑みを見せる。


「まあ、どっちにしろ、オレ達のテリトリーに入ったやつは皆殺しってルールがある」

「運がなかったってあきらめるんだな」


 男たちは次々とグリーンステッキを取り出す。

 陽一は一歩前に出る。


「美鈴は下がれ。オレ一人で十分だ」


 陽一はブラックステッキを構えた。それを見て男たちが不思議がる。


「なんだあの色のステッキ?」

「ステッキは赤、黄、青、緑、白だけだろ。不良品じゃねーか?」


 陽一はため息をついた。


「無知ってのは命取りだな」


 その言葉にスキンヘッドの男が怒った。


「無知はテメーだよ!」


 スキンヘッドの男のステッキから大きな炎の球が飛び出し、陽一に向かって一直線に向かってくる。


「熱エネルギーの球を食らいやがれ!」


 炎の球が陽一に当たるその瞬間、陽一の周りの空気が震え、炎の球は跡形もなく消えた。


「な、なんだ!?」


 男たちは混乱したように驚く。


「ビビるんじゃねーよ!」


 サングラスの男が警棒を取りだし、陽一に向けて投げつける。警棒は男の手から離れた瞬間、電動ノコギリのように高速回転し、陽一に向けて凶暴に飛んでくる。

 陽一に当たる直前、またしても陽一の周りの空気が震え、警棒が勢いよくはじかれる。


「な、なんだ!?」


 驚く男たちを前に、陽一は余裕の笑みを見せる。


「さて、じゃあまずは軽くいくか」


 陽一のステッキから小さな空気の振動が二つ高速で放たれる。その振動は先ほど攻撃を行った二人の男の耳に叩きつけられた。


「おえっ!?」


 男二人は苦しそうに地面に倒れ込む。


「お、おい、どうした!?」


 仲間たちはその様子に驚いた。

 陽一は余裕の表情で男達を見る。


「空気振動で、鼓膜の奥にある、体のバランスを司る三半器官を攻撃したんだよ。しばらくはまともに動けない」


「この野郎!」


 別の男がステッキを構えた瞬間だった。それより速く巨大な衝撃がその男の体にぶつかった。男の体は勢いよく吹っ飛んだ。

 他の男たちが目を丸くした瞬間、さらにもう一人が勢いよく吹っ飛ぶ。

 陽一は余裕の笑みを見せる。


「これであと二人」


「て、てめえ!!」


 長身の男がステッキから勢いよく電気の球を飛ばした。

 それを見た瞬間、陽一は焦る。


「やべ、これ衝撃じゃ防げねぇ……!」


 電気の球が陽一に当たる直前、陽一の目の前に廃車が降ってきて、電気の球を押し潰した。


「え……?」


 陽一を含めた男全員が呆然となった。


「そろそろ私の出番ね」


 美鈴が陽一の隣に並び立った。


「この車おまえが……」


 陽一がそう言い終わらないうちに、美鈴がステッキを軽くひねる、再び車が宙を浮き、遠くへ消えていった。

 美鈴は陽一に笑顔を見せる。


「なかなか良いものを見せてもらったわ、南くん。お返しに私の魔術も見せてあげる」


 美鈴がステッキを手先でクルクルと動かした直後、男たちの周りにある、あらゆる物が浮きあがった。小石に、先ほど投げた警棒、コンクリートの破片、施設内にあった銅像まで浮かび上がった。

 浮かび上がったものに完全に包囲された男たちは恐怖で顔を歪ませる。


「私の得意は力学の運動魔術。物体を下から上、右から左、後ろから前、様々な方向に自由自在に動かせる。エネルギーを使った物の移動。もっとも単純な魔術よ」


 浮いていた物が一斉に男たちに向かって弾丸のように襲いかかる。男たちは悲鳴を上げて逃げ回る。石像も男たちの頭上を脅すようにブンブン暴れまわる。

 そんな様子に陽一は顔をこわばらせる。


(単純なだけに、魔術師が強力だと恐ろしく凶悪だな)


 男たちは悲鳴を上げながら逃げて行った。三半器官をやられた男二人もフラフラしながら必死で逃げていく。

 男たちが消えると共に、浮いていた物が一斉に地面に落ちた。

 陽一は冷や汗を垂らした。


「すげーな……一体どれくらいの物まで動かせるんだ?」


「調子が良ければ五トンぐらいまで浮かせられるわ」


「五トン……」


 陽一は美鈴が怖くなった。


「ただし無機物だけだけどね。生き物は構造が複雑だから物理計算の対象としては難し過ぎるの」


「ああ、生き物の物理計算はオレも難しい。それよりさっきの男たちなんだけど……」


「なに? ただのチンピラでしょう?」


「にしてはちょっとおかしかったな」


「えっ? なにが」


「全員グリーンステッキを持ってた。アレはプロ級の魔術師が持つもんだ。ただのチンピラが持てるようなものじゃない」


 美鈴は眉を寄せる。


「それって……つまり、どういうこと?」


「いや、オレもよく分からない。でも、なんとなくなんだが、あいつら、ここでオレたちを待ち伏せしてたんじゃないか? この事件現場で」


「事件現場で?」


「あいつらがあまりに問答無用で襲って来たような感じもあったし」


「だけど、そんなことする意味って……? もしそうだとするなら、彼らは何者で、何の目的があるの?」


 陽一は頭をかく。


「それがわかりゃ苦労しねーよ。だが、この事件に関わってる可能性はある」


「事件に……」


「ああ、もしそうなら、この事件は呪いなんかじゃないってことだ。……もっとも、オレの思い込みで、本当にただのチンピラって線もぬぐいきれないが……」


「今となってはどれも確かめようがないわね。一人ぐらい捕まえておけばよかった」


 美鈴は残念そうにため息をつく。


「まあいいわ。四件目の事件現場へ行きましょう」








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