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機械世界の女子高生  作者: 笹田 一木
アメフラシと少女
11/17

[4] ブリンクとシルク




 大通りで狂ったように暴れまわるグルド・ショップス。


 そんなグルド・ショップスの前に、町長が銃を持った男達を連れて立った。

 恐怖を押し殺した表情でグルド・ショップスの前に立つ。


「魔物狩りはダメだったようですね。こうなったら我々でどうにかするしかありません。みなさん、準備はいいですか?」


「はい!」


 銃を持った男達が一斉に返事をして、前に出る。


「構え!」


 先頭の男の号令と共に、男達は一斉にグルド・ショップスに銃を向ける。


「撃てー!」


 無数の銃声と共に銃撃がグルド・ショップスに放たれる。

 しかし、その銃弾全てが大きな音を立てて厚い表皮にはじかれた。


「そ、そんな……」


 呆然とした表情をする男達。それらに向けグルド・ショップスは怒れる雄叫びを上げ、突進する。巨大な胴体からは想像できないほどの速さで疾風の如く町長一団に襲いかかる。

 それを見て悲鳴を上げて逃げ惑う町長一団。逃げ遅れた町長を巨大な爪が引き裂こうとした瞬間、グルド・ショップスの厚い表皮が勢いよく裂けた。

 グルド・ショップスの体は後ろ向きによろめき、大きな音を立てて仰向けに倒れた。

 腰を抜かした町長とグルド・ショップスのあいだには、ブリンクが立っていた。右手の剣はすでに振り抜かれている。


「無事か、町長」


 ブリンクは町長の方を向く。


「ブ、ブリンク、生きていらしたのですか」


 町長は神を崇めるような目でブリンクを見上げていた。


「立てるか?」


 ブリンクは町長に手を差し伸べる。町長はブリンクの手を取りなんとか立ち上がった。


「よし、立てるな。なら早くここから離れろ」


「えっ?」


「少し攻撃が浅かった、まだ息があるかもしれない」


 ブリンクは倒れたグルド・ショップスの方に向き直る。町長はボーっとした頭でブリンクの言葉の意味を理解した途端、一目散にその場から逃げだした。

 ブリンクはグルド・ショップスをじっと見る。仰向けに倒れたグルド・ショップスは巨大な岩石のようだった。まるで微動だにしない。


(やったのか?)


 ブリンクがそう思った時だった、巨大な尻尾がブリンクの体に叩きつけられた。


(しまった!)


 そう思った時にはもう遅かった、グルド・ショップスの巨大な尻尾はブリンクの体を軽々と吹き飛ばした。ブリンクの体は、しばし宙を飛んだあと、店のショーウインドウを砕き、店内に放り込まれた。ブリンクの体は無数の服をなぎ倒しながら、店内を転がった。


「クソ……」


 ブリンクは何とか体を起こす。割れたショーウインドウ越しから大通りをにらむ。

 グルド・ショップスは巨大な体を揺さぶり、ムクリと起き上がった。興奮した様子でフーフーと大きく息を荒げて、ゆっくりとブリンクの方をにらむ。

 ブリンクは起き上がり、剣を構え、グルド・ショップスをにらみつけた、その時だった。

 ブリンクは一瞬、悪夢を見たのかと思った。

 グルド・ショップスの目の前の路地から一人の少女が飛び出してきた。

 シルクだった。

 シルクは一瞬、路地に新しい建物が出来たのかという表情でグルド・ショップスの腹の辺りを見つめていた。そして、ゆっくりと頭を上げ、その恐ろしい牙と眼を見つめた瞬間、見る見るうちに顔を恐怖で引きつらせていった。

 ブリンクは駆け出しながら、その様子を離れた所から見つめるしかなかった。ブリンクは祈るように心で言った。


(ダメだ)


(刺激するな)


(声を、出すな)


(絶対に、声を出すな!!)






「きゃあああああああ」


 シルクの絶叫が町にこだました。その声に当てられて、グルド・ショップスはさらに興奮して雄叫びを上げ、シルクをギロリとにらんだ。

 ブリンクは無我夢中でシルクに向かって走る。


(やめろ)


 グルド・ショップスはシルクを一点に見すえ、長い爪をむき出した腕を振り上げた。


(やめてくれ)


 シルクは石のように固まっている。

 

(やめろ、やめろ、やめろ)


 ブリンクの脳裏に過去の、こと切れた少女の姿がよみがえる。


 長い五本の爪が勢いよく振り下ろされる。


「やめろおおおおおおお!」


 爪は真っ直ぐにシルクの体へと落ちていった。


 ザクッ

 引き裂いた音が辺りに響いた。

 宙に大量の血が舞った。

 ブリンクは息を切らしたまま、立っていた。

 ブリンクの体は、グルド・ショップスの体とシルクの体のあいだに置かれていた。グルド・ショップスの爪はシルクの頭の寸前で停まり、代わりにブリンクの肩を向かい合う形でわずかに切り裂いていた。ブリンクの巨大な剣はグルド・ショップスの攻撃を受け止める形で、太い腕を切り裂きめり込んでいた。

 グルド・ショップスは激痛で叫び声を上げた。


「ブリンク……」


 シルクは涙声でつぶやいた。ブリンクの背中を見て安心したような声だった。

 ブリンクはグルド・ショップスを真っ直ぐににらみつけていた。


「おい、魔物……さすがのオレも今のには胆を冷やしたぞ。その代償はしっかりと払ってもらう」


 グルド・ショップスが腕を引き上げ、ブリンクの刃を引き抜いた瞬間、ブリンクは剣を横に大きく構えた。

 グルド・ショップスは雄叫びをあげて両腕を振り上げたその瞬間、ブリンクの剣が動いた。

 グルド・ショップスが腕を振り下ろす間もなく、一瞬の内にその剣は、巨大な体を横一閃に通過した。

 間もなく、グルド・ショップスの上半身が、下半身から浮き上がった。そしてすべるように後ろへとずれていく。

 上半身がそのまま地面へと落ちようとする、その瞬間だった。 

 残された下半身から勢いよく血が噴き出た。大量の血は雨のようにあたり一面に降り注いだ。

 血の雨はしばしのあいだ降り注ぎ、やがて止んでいった。

 ブリンクはゆっくりと後ろを振り返り、シルクを見た。その途端、ブリンクは辛そうにわずかに眉を寄せた。

 シルクの服は血の雨を浴びて赤く染まっていた。顔は恐怖で氷のように固まり、目は大通りに置き去りにされた巨大な下半身を一点に見つめたまま動かなかった。シルクはそのまま呆然と立ち尽くしていた。

 ブリンクはその様子を見て一瞬目を閉じた。そして何も言わずにその場からゆっくりと離れていった。



「いえ、本当になんとお礼を言えば……」


 町長の太い声が屋敷の客間に響く。


「町民を代表してお礼を言わせていただきます。本当にありがとうございました」


 ブリンクは無表情で座っている。


「礼なんかに興味ない。オレがほしいのは金だ」


 ブリンクの態度を見ても、町長は貼り付けたような笑顔でしゃべる。


「ええ、分かっておりますよ。あの、ですが、三〇万の予定でしたが、町の財政はいま大変苦しくて、できれば半額の……」


 ブリンクは全てを聞かず、冷たい目で町長をにらみつけた。


「い、いえいえ、無理ならばいいのです。これがお約束の三〇万です」


 町長は焦った様子で二つに分けられた金貨袋を差し出した。ブリンクは金貨袋を荒くつかみ取る。

 そんな様子を見ながら町長がブリンクの顔色をうかがうように口を開く。


「あの、仕事を終えられて一日が経ちましたが……これからはどのようなご予定で?」


「ここにもう用はない。すぐに町を出るつもりだ」


 ブリンクはそう言ってサッと部屋の外に出る。

 去り際に部屋のドアのすき間から町長と秘書の小さな話し声が漏れた。


「すぐに出て行くのか。ああ、良かった」


「全くです。あんな恐ろしいやつにいつまでもいられては……」


 ブリンクは何も感じなかった。いつもの事だったからだ。

 屋敷から出たブリンクはそのまま町の外へと向かった。ただ、ふと何かを思い、少しだけ寄り道をしていった。

 ブリンクは町の路地の前で足を止めた。路地の奥は日の当たらない暗い影を落としている。二日前の同じ時間、シルクと話した場所だ。

 シルクは言った、ここが自分の居場所だと。

 しかし、そこには誰もいなかった。

 ブリンクは少しの間そこを見つめたあと、再び歩き出した。


(これで……いいんだ。誰に感謝されなくてもいい。オレはそのために剣を振るっているわけじゃないのだから)


 ブリンクは城門を抜け、次の町へ向けて歩き出した。

 しばらく歩いたときだった、ブリンクは足を止めた。

 背後から自分の名を呼ぶ声がした。

 振り返ると、遠くにシルクの姿があった。


「ブリンク!」


 名を呼びながら駆け寄ってくる。

 シルクはブリンクの隣まで駆け寄ると、息を切らしながらブリンクの顔をのぞく。


「あー、やっと見つけた。町中探しても見つからなくて、もう行っちゃったかと思った」


 ブリンクは驚いて呆然とシルクを見ていたが、何とか声を絞り出した。


「何しに来たんだ」


 それを聞いてシルクはニコッと笑った。


「わたしを連れていって」


 その言葉を聞いて、ブリンクは戸惑った。


「おまえは……頭おかしいのか? 恐ろしくなかったのか、昨日の事」


 それを聞いてシルクはコクコクとうなずいた。


「メチャメチャ怖かった。もう昨日なんか怖くて寝れなかったよ!」


「ならなんでだ!」


 ブリンクは思わず声を荒げた。


「ブリンクとならどんな魔物が出ても大丈夫でしょう? それに旅は二人の方がきっと楽しいよ」


「……オレはおまえを見捨てるぞ」


「そんなことないよ」


 シルクは微笑んだ。


「ブリンクはわたしを助けてくれた。命懸けで助けてくれた。ブリンクだったら信じられる」


 その言葉を聞いてブリンクは一瞬固まった。しかしすぐに前を向き、歩き出した。


「勝手にしろ」


 その言葉を聞き、シルクは笑顔でそのあとをついていった。






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