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機械世界の女子高生  作者: 笹田 一木
アメフラシと少女
10/17

[3] グルド・ショップス





「やってくれるのですか!」


 客室で町長が嬉しそうに声を上げた。

 ブリンクは無表情でうなずく。


「ああ、明日の昼に狩る。ただし狩るのは母親だけだ。子供だけならおまえ達でなんとかできるだろ」


「ええ、ええ、それで十分です。あの化け物だけ何とかしてくだされば。それと宿の代金はこちらで肩代わりしますよ。もちろん今までの分も」


「ああ、助かる」





 ブリンクは雨の城下町を走っていた。息を切らしながらひたすら走る。

 目の前を次々と剣を持った兵士達が襲いかかってくる。みなが狂ったような目でブリンクをにらみつけている。

 そんな兵士達に向けてブリンクは剣を振るう。

 ブリンクが剣を振るうごとに兵士の体は避け、雨のような血が降った。斬っても斬っても次々と違う兵士が襲いかかってくる。

 何人も何人もブリンクは斬り続けた。

 ふと気付けば、町の道路を立っているのはブリンク独りだけだった。足元には数えきれないほどの無数の兵士の亡骸が横たわっている。

 兵士達の目にはすでに生気はなかったが、その全ての目が自分を見つめている気がブリンクにはした。

 ブリンクが一歩あとずさった時だった、突然、背後から気配がした。ブリンクは驚き、振り向き際に素早く剣を振り抜く、その時、ブリンクの目に幼い少女の姿が飛び込んだ。

 少女の体は切り裂かれ、ブリンクの目の前に崩れ落ちた。

 ブリンクはすぐさま少女を抱き上げた。

 少女はすでにこと切れていた。

 死体にまみれた城下町に、ブリンクの絶叫がこだまする。


 ブリンクはベッドから起き上がった。息は上がり、体中から汗が噴き出ていた。周りはまだ闇に包まれている。

 ブリンクはゆっくりと息を整える。


(あの時の夢を見るのは……久しぶりだな)


 ブリンクは少しだけ悲しげな目をする。


(いくら人を助けたところで、あの出来事を無かったことにするなんて、できるはずない…………けれど……)


 一瞬シルクの姿が頭をよぎった。


(クソ……)


 ブリンクは再びベッドの中にもぐった。




 その日は曇り空だった、ブリンクは工場の跡地の入り口に一人で立っていた。工場には人の気配はなく、敷地内には草がぼうぼうと茂っていた。


「廃れた兵器工場……ここがグルド・ショップスの巣食う場所か」


 ブリンクは迷わず中に入った。茂みをしばらく歩いていると、周りから何かがうごめく気配がした。

 ブリンクは足を止め、周りを見渡す。

 すると無数のショップスの子供がブリンクを囲んでいた。長い毛におおわれた体、細長い手足、鋭い牙、子供といっても大型のオオカミほどの大きさはある。


「母親だけ仕留めるって言っても、それはそれで難しそうだな」


 ブリンクは巨大な剣を構えた。そして走り出す。ブリンクは巨大な剣を軽々と振るい、襲い来るショップス達を次々となぎ払う。しかし、斬っても斬っても次々と新たなショップスが現れてくる。

 ブリンクはたまらず工場内へと逃げ込んだ。中に入ると、重い扉を勢いよく閉めて鍵をかける。

 ブリンクは中を見渡す。中はずいぶんと広く、うす暗い。ショップスの子供の姿は見えない。

 ブリンクは中を細かく見渡しながら歩く。

 造りかけの大砲や銃の残骸が所々に置かれている。壁には無数の扉が並んでいた。

 中をしばらく歩くと、一つの扉に目が止まる。

 ブリンクは感じた、扉のすき間から魔物の強い臭いが漏れているのを。


「どうやら、ここのようだな」


 ブリンクは剣を構え、扉にゆっくりと近づく。ある一定の距離まで近づくと、一気に駆けだし、扉を蹴り開け、突入した。

 部屋に入った瞬間、一気に斬りつけようとした、しかし、斬りつける相手が見つからない。

 広い部屋には大量の枝で作られた巨大な巣があった。そのわきには多くの家畜の骨が転がっている。しかしそれだけで、グルド・ショップスの姿がない。


「どういうことだ?」


 ブリンクは呆然と立ち尽くす。

 ブリンクは部屋を見回った。壁には砕かれて作られた大穴があった。おそらく出入り口用の穴だ。

 ブリンクは立ち止まり、ハッとした。

 すぐさま町長の言ったある言葉がよみがえる。


「子供に危害を加えれば、すぐに母親が報復しに現れるのです」


(しまった!)


 ブリンクは事態を把握した。


(オレが町を訪れる直前、やつの子供を三匹殺した。殺したのは町の外だ、母親はすぐには気付かなかった。けれど数日もすればさすがに気づく……見事に入れ違えた! 母親はいま……)


 曇り空が小雨に変わった。


 町の大通りに魔物の雄叫びがこだました。

 巨体を揺らし地響きを立てて歩く。

 小さな家ほどもある巨大な体、その体を覆う鎧のような表皮、口からは槍のように鋭く巨大な牙が無数にのぞき、発達した太い下半身を軸に上半身を上げて大猿のように二足歩行をしている。

 グルド・ショップスは怒りに満ちた眼をギラつかせて大通りを大きな音を立てズシンズシンと歩く。巨大な腕をブンブンと振り回し、鋭い爪で、手当たり次第に建物に巨大な爪痕を刻んでいく。

 住民たちは悲鳴を上げて逃げ惑う。



 そこから少し離れた路地で、シルクは町全体に響き渡る雄叫びを聞いた。


「グルド・ショップスの声……なんで大通りの方向から……まさか」


 シルクは深刻な表情で走り出した。


(ブリンク……無事でいて……)








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