代わりに
短編です
バシン!!
大きな音の直後、左の頬がジンジンと痛む。あぁ、またか。
「みゆき!何度言ったらcvウェfjidvふぇあ家qbvくぇrhうvbxc!!」
母が何やらわめいている。今日はピアノのレッスンの日。母は教育熱心だから、ちょっとでも音階を間違えると、平手が飛んでくる。
でも、お母さんはもっと重大なことに気が付いていない。それは、私がみゆきじゃなくてミサキだってこと。
みゆきはピアノが苦手だった。どんなに頑張っても、指が追いつかない。私と同じはずなのに、みゆきはピアノの稽古を嫌がった。私だって嫌だけど、みゆきが悲しむのはもっと嫌だ。
『大丈夫だよ、私が代わってあげる』
そう、これは私の選択。私がみゆきを守るんだ。幸い母は、私がミサキであることに気が付かない。同じ顔、同じ声色なんだから、わかるはずがない。
母親なら自分の娘が何かおかしいとわかれば、気が付いてしまうだろうと、最初の頃は思っていた。でも結局、今日もこの母は気が付かなかった。
今日は4度頬を叩かれた。顔、腫れてるなぁ。こんな顔を見せたら、きっとみゆきは驚くだろうから、少し冷やしてから声をかけよう。
保冷剤を取りにリビングに行くと、父がいた。
「なんだ、またお母さんを怒らせたのか?もっとちゃんとs0faiuag 理宇イdfzv言う永宇あうhら」
最近両親の言葉がまともに耳に入ってこない。でもどうせ言うことはわかってる。二人とも私達に小言を言っているんだ。どうせ言っている内容はいつもと同じ、ちゃんとしなさい、言う通りにしなさい、なんでできないの!ってね。
最初の頃は謝っていたけど、もう何を言っても、両親は聞こうとも見ようともしない。
結局父も私がミサキであることを見抜けない。
自分の部屋に戻って、頬を冷やすと、少し痛みは和らいだような気がした。でもきっと腫れが収まるまで、みゆきは戻ってこない。あの子は痛みに弱いから。
だから私が、守ってあげなくちゃ。可愛い可愛い、私の妹。
でも時々、どうして私ばかりなんて思考がよぎることがある。みゆきを守ると決めたのは私。みゆきの代わりになったのも私。
でも私だって、頬を打たれるのは嫌だ。痛いのは嫌だ。
私とみゆきは同じはずなのに、どうしてこんなにも私ばかり痛い想いをするんだろう。
ベッドに体を預けると、次第に眠気に襲われた。
きっと、次に目を覚ましたら、頬の腫れは引いていて、みゆきに戻ってる。
私が次に目を覚ますのは、またきっと母か父に何かをされるときなんだろう。また痛い想いをするんだろうか。今度はできれば、顔は打たないでほしいなぁ。
頬が熱い、腫れはまだ治まっていない。鏡を見ると、ずいぶん酷い顔だ。でもこの間よりはマシかもしれない。
ごめんねミサキ、いつも代わってくれてありがとう。ずっとずっとお礼を言いたかった。でもわたしとあなたは一緒には存在できない。だからわたしも、頑張らないと。ミサキがもう打たれなくて良いように、わたし達がもう、代わらなくても良いように。ミサキが安心して眠れるように。
——わたしだって包丁くらい、使えるから——
一人の強さ




