卒業と、四人の花嫁の永遠の誓い
魔素の脅威が完全に去り、俺(天城カイト)が無事に高校を卒業してから数年後。
黒田グループが総力を挙げて買い取った南のプライベートアイランドには、抜けるような青空の下、純白の巨大な大聖堂がそびえ立っていた。(ちなみに基礎工事は俺の土魔法でこっそり手伝った)
今日は、俺の結婚式だ。
しかも、相手は一人じゃない。
「天城ぃぃぃ! お前マジで、マジで幸せになれよなあああ!」
「俺たちの村人Aが、最高のハーレム主人公になりやがって……! ぐすっ、おめでとう!!」
参列席で、高校時代のクラスの男子たちが滝のように涙を流しながらハンカチを噛んでいる。俺が四人の花嫁を同時に迎えるという事実に、彼らはもはや嫉妬を通り越して、神を崇めるような目で俺を見ていた。
やがて壮大なパイプオルガンの音が鳴り響き、大聖堂の扉が開く。
そこに現れた四人の姿に、俺は完全に息を呑んだ。
大胆なオフショルダーのドレスで、ひまわりのように明るい笑顔を弾けさせるリカ。
流れるようなマーメイドラインで、息を呑むほど高貴で美しいナギサ。
フリルがたっぷりの妖精のようなドレスで、頬を桜色に染める詩織ちゃん。
そして、透け感のあるレースで、大人の色気と気品を完璧に纏った凛さん。
魔大陸の100年でも、世界を飛び回る救助活動でも、決して揺らがなかった俺の心が、今日ばかりはこの圧倒的な美しさを前に完全にノックアウトされていた。
四人が俺の隣に並ぶ。
神父が誓いの言葉を問いかけようとした、その時だった。
「神父さん、ストップ! 誓いはアタシたちから言うから!」
リカが茶目っ気たっぷりにウインクをして、俺の右手をギュッと握った。
「天城くん! アタシ、絶対に天城くんを退屈させない! 毎日最高に笑える日常を作ってあげるから、ずっとアタシのそばで笑っててよね!」
続いて、ナギサが俺の左手を両手で優しく包み込む。
「カイト。貴方がどれだけ強くなろうと、私は貴方の背中を守る盾であり、隣を歩く妻であり続けるわ。一生、私に守られなさい」
詩織ちゃんが、俺のタキシードの袖をギュッと掴んで、上目遣いで微笑む。
「あ、あのっ……私、天城くんが帰ってくる場所を、世界で一番温かくて安心できるお家にしますっ。ずっと、私に甘えてくださいね」
最後に、凛さんが少しだけ背伸びをして、俺の耳元で甘く囁いた。
「カイト様。貴方の英雄としての伝説も、夫としての平穏な日常も、この私が死ぬまで完璧にプロデュースして差し上げますわ。……愛しています」
四人からの、愛と重さ(?)が限界突破した誓いの言葉。
俺は苦笑いしながらも、胸の奥が熱くなるのを止められなかった。
「……ありがとう。でも、俺からも一つだけ言わせてくれ」
俺は指を鳴らし、空間収納から『四つの指輪』を取り出した。
それは地球の宝石ではない。俺が魔大陸の最深部で命がけで手に入れた『星の結晶』を、俺自身の魔力で削り出し、絶対に壊れない加護を付与した、正真正銘、世界に四つしかない特注の指輪だ。
「俺の100年間の孤独は、君たちが終わらせてくれた。俺は世界を救う『英雄』なんかじゃなくて、君たちを幸せにする『普通の夫』になりたい。……だから、一生かけて、俺の平和な日常を一緒に作ってほしい」
俺が四人の薬指にそれぞれの指輪をはめると、彼女たちの瞳からポロポロと美しい涙がこぼれ落ちた。
「……もう、天城くんのくせにカッコよすぎなんだからっ!」
「ええ……本当に。貴方はどこまで私たちを惚れさせれば気が済むの……」
「天城くんっ……大好きですぅぅっ……!」
「ふふっ。我が夫ながら、本当に規格外ですわね」
そして、いよいよ誓いのキス。
……なのだが。
「ちょっと、アタシが最初だから!」
「星野さん、こういう時は武の礼儀として私から……!」
「ゆ、譲りませんっ! 今日だけは私が……っ!」
「ええい、抜け駆けは許しませんわよ! 私が一番です!」
祭壇の上で、神聖な儀式は一瞬にして「誰が最初にキスをするか」という、可愛すぎる四つ巴の争奪戦へと変わってしまった。
参列者たちが温かい拍手と爆笑で包まれる中、俺は幸せすぎる揉みくちゃにされながら、南国の青空を見上げた。
(……魔大陸の神様。どうやら、俺の『村人A』としてのモブライフは完全に終わってしまったみたいです。でも……)
四人の花嫁の温もりと、甘い香りに包まれながら、俺は心から笑った。
(この騒がしくて、最高に愛しい『主人公』の日常も……悪くないな)
◆◆◆
南のプライベートアイランドでの盛大な結婚式を終え、夜。
黒田グループが総力を挙げて建設した超高級リゾートホテルの最上階、スウィートルーム。
俺(天城カイト)は、シャワーを浴び終えたバスローブ姿のまま、部屋のど真ん中に鎮座する巨大なベッドに腰掛けていた。
(……ついに、この時が来たんだな)
少しだけ緊張しながら待っていると、奥の広いドレッシングルームの扉が静かに開いた。
そこから現れた四人の姿に、俺は思わず息を呑んだ。
リカは、彼女の白い肌を強調するような透け感のあるベビーピンクのランジェリー。
ナギサは、艶やかな黒髪に映える、深いネイビーのシルクのネグリジェ。
詩織ちゃんは、胸元のリボンが愛らしい、純白のキャミソールワンピース。
そして凛さんは、大人の色気を隠そうともしない、漆黒のレースがあしらわれたガウン。
普段の彼女たちからは想像もつかないほど無防備で、そして……「俺の妻」としての熱っぽい覚悟を纏った姿だった。
「……カイト」
一番に近づいてきたのはリカだった。
彼女はベッドに座る俺の膝の上に、躊躇うことなくまたがるようにして跨った。俺の首に腕を回し、顔を近づけてくる。シャンプーと、甘い香水の匂いが鼻をくすぐる。
「今日からはもう、誤魔化しはナシだからね。……アタシのこと、いっぱいいっぱい、愛してよ」
リカの少し震える唇が、俺の唇に重なった。
チュッ、という軽いものではなく、吐息が混じり合うほどの深く、甘いキス。俺が彼女の細い腰を引き寄せると、リカは「んっ……」と甘い声を漏らして、さらに俺の胸にすり寄ってきた。
「リカだけずるいわ。……私にも、貴方の熱を教えて」
ふわりと、背中側からナギサが抱きついてきた。
彼女の柔らかな膨らみが背中に押し付けられ、耳元で吐息混じりの囁きが聞こえる。ナギサの手が俺のバスローブの隙間から入り込み、鍛えられた腹筋や胸元を、熱を持った指先でなぞり始めた。
「ナギサ……っ」
「私、もう剣は持たないって決めたもの。今夜は……貴方のすべてに、身も心も降伏させてちょうだい」
ナギサが俺のうなじに熱いキスを落とす中、今度は詩織ちゃんが、ベッドに手をついて俺の顔を覗き込んできた。
その瞳はトロンと潤んでいて、普段の控えめな彼女からは考えられないほど、深い独占欲に満ちていた。
「カイトくんっ……。私、カイトくんの全部が欲しいです。私の全部も、カイトくんの中に入れて……ひとつに、なりたいですっ」
詩織ちゃんが俺の右手を両手で包み込み、自分の熱い胸元へと押し当てる。ドクン、ドクンと、彼女の早い心音と体温が、手のひら越しにダイレクトに伝わってくる。
「……ふふ。皆様、少しだけ気が早いのではなくて?」
最後に、凛さんが優雅な足取りでベッドへと上がり、俺の真正面に跪いた。
彼女は細く白い指先で、俺のバスローブの帯をゆっくりと、焦らすように解いていく。
「スケジュールなど、最初から不要でしたね。……カイト様。いえ、私の愛しい旦那様。朝日が昇るまで、私たち四人が、貴方の一秒たりとも無駄にはさせませんわ」
凛さんが眼鏡を外し、俺の頬に熱い両手を添える。
四方向からの、逃げ場のない愛と熱情。
肌と肌が触れ合い、互いの体温が混ざり合うこの空間で、俺の中の『100年のサバイバー』としての理性は、甘く溶けて完全に消え去ろうとしていた。
「……ああ、分かってる」
俺は照れて逃げるのをやめ、夫としての覚悟を決めて、リカの背中と凛さんの腰を力強く引き寄せた。
「四人まとめて、俺が絶対に幸せにする。……朝まで寝かせないから、覚悟しててよ」
俺の言葉に、四人の花嫁たちは一瞬驚いたように目を丸くし、それから……最高に幸せそうで、とろけるような笑顔を咲かせた。
「っ……うんっ!!」
「望むところよ、カイト……っ」
南国の夜風が窓を揺らし、波の音が響く中。
重なり合う吐息と甘い囁き声は、夜が明けるまで部屋に響き続けていた。最強の英雄と四人の女神たちの、熱く濃密な「永遠」は、こうして甘く深く結ばれていくのだった。




