口を持たない男
人は得てして欠点がある、いやコンプレックスといったほうがいいだろう。ただ、ひしひしと感じる自己への嫌悪感。
千もまた、抱え持ったものがある。それはふとした瞬間に脳裏に浮かび、個人を蝕む。
誰もが感じるちょっとした自己嫌悪の話。
千は噓つきである。
悪びれることも、悦に浸るような様子もなく、無表情で嘘を吐く。それはまさしくポーカーフェイス、彼の嘘はもう誰一人として見破ることはできない、親でさえも、兄でさえも。
彼は悪そのものではない、彼の嘘に悪意はなかった。千自身、なぜ嘘をついてしまうのか分からない、咄嗟についてしまうものだから、それは本性というものだろう。生まれ持った呪い、性。
千はこんな性分だから、なかなかに苦労している。
自分の思うように言葉が出ないのだから、何かにつけて言葉に詰まっているような話し方をする。嘘に加え、これもまた、千のコンプレックスなのだ。
千の交友関係はさほど広くなかったが、それは会話相手がいないというわけではない、むしろ誰とでも話せたほうだった。にもかかわらず、千の友人は限られる。なぜ? 無論、嘘が原因である。
嘘には様々な用途がある。自衛のための嘘、責任逃れのための嘘、しらを切るような嘘……千の嘘は嫌われることを避けるための嘘――会話相手に合わせる嘘、例えわからないことであっても。
定型文のように決まりきった文句に定期的なオウム返し、興味があるかのような質問、すべてが嘘だった、そうすべてが。
だが嘘だけでは会話は成り立たない、最低限の知識が求められる。
千は多彩であった。
文学もスポーツも、幅広い経験が蓄積されているのだ。だから大抵のことはできるし、てきとうな会話が続けられる。何の意味も持ちえない会話が…………
障害とは、先天的なものと後天的なものがある。特に後者は、知らず知らずのうちになっていた、なんてこともよくある話だ。促音化構音障害…………言うなれば、発音の癖のようなものだが、これは千を苦しめ続けた。空気の出し方が異なる、ただそれだけのことだが促音化構音障害は日本語の発音に著しく影響を与えた、誰もが知らないような、こんなマイナーな障害が。
得てして人は完全に意識の共有、情報伝達ができない。言語というもの(この世の知覚されるすべてのものも)の伝達には、模倣するという危険な過程が潜んでいる。
人の言語習得は、聴いて模倣するわけだから、舌の動きなんてものの享受のしようがない――つまり、想像という危険性が付随するということだ。千は、この言語習得の被害者だったのだ。
具体的な事象は「ち」が「き」のように聞こえることだ。加えてサ行の発音も危うい。
これもまたコンプレックスの一つであった。
嘘をつくことは、壁を作ることにどこか似ていた――人との距離をあけ、我が身を孤立へと導く。他人との間に隔たるそれは、嘘をついた負い目であり、情報伝達の妨げるものであった。
千は孤立する、精神的に…………だが表情は運動を忘れている。
千は不安をかき消すように自分に言い聞かせた。
(変わらない、変えられない。何が本当かわからない。だが僕は幸せだ。幸せだ。幸せだ。幸せだ…………幸せだ!)
千は嘘つきである。
うあー、執筆ってめちゃむずいね! 具体性に欠けていて、商品ラベルみたいな文章になっちゃった。今回の反省はやっぱり描写の味気無さかな……読んでくれる人の五感を楽しませる文章を書きたいね。今回の文章は内面、感情を書こうとしすぎて風景、経験の描写が少なかったように思える。
読んでくれた方がいれば、ここが好きって言ってくれたらちょーうれしい!




