旅立ち
初投稿です。生暖かい目で見守ってくださると嬉しいです。
(まさかこんなことになるなんて…)
レインディールはじとりと眼の前の男を見つめた。たしか年齢は27歳。大柄な体に濃い緑色の目、焦げ茶の髪を短く刈り込み、それがいかつい印象を増加させている。太めだがキリッとした眉は驚くほど形がいい。
彫りの深い顔には威厳すら感じる。
レインディールはなぜかスタークといっしょに馬車にのっていた。
(出発が今日だなんて聞いていないわ)
あの時クリスタが来たのは出発の準備をするためだったのだ。どうやらスタークが領地に変えるときに一緒にレインディールも連れて行く、という流れだったらしい。
(あの王宮から離れたのだから良しとしますか…でも唯一の憂鬱ポイントは…)
「なにかございましたか」
(どうして一緒の馬車にクリスタも乗ってるのよ!)
レインディールはにこりと笑って何もない、と返した。
(私の監視したすぎじゃないかしら!王妃め…許さないわ。これじゃ王宮と変わらないじゃない。)
クリスタはそんなレインディールの様子をちらりと見てからまた窓の外に目を向けた。
(クリスタのこと、スターク様に言ってみる?いや、どうせ私のことを放おって他の女性のことろへ行くに決まってるわ。信用できない)
レインディールがじっとスタークを見ていると別の所が気になってきた。
(眉、手入れされているのかしら…)
レインディールが見ていると視線に気づいたのかスタークは何か問いかけるように見つめ返してきた。
「いえ。なんでもありません。スターク閣下。」
レインディールがそう謝るとスタークは彼女を気遣う素振りを見せた。
「申し訳ありません。レインディール王女。我が領土までもうしばらく掛かりそうです。」
どうやらレインディールが疲れていると勘違いしたらしい。
「いいえ。スターク閣下。私は大丈夫です。それと、私はあなたの妻となるわけなので敬称は必要ありませんわ。」
(どうせ邪険にされていた王女だし)
スタークは目をゆったりと細め
「そうですね。それではレインディールと呼ばせていただきます。俺のことは気軽にスタークと。」
(そんなの呼べるわけがない!)
レインディールは心のなかで叫んだ。
(顔面が良くて声までいい人にレインディールとか呼ばれたらどう反応すればいいのかわからなくなって焦るわ!あと呼び捨てで呼べるわけがないのに!)
「わかりました。どうぞこれからよろしくお願いします。」
平然を装うレインディールを横目でクリスタが見ていた。
「つきました。ここがシュヴェルター家の領地、クランディア地方です。」
(ようやくついたのね)
一行が着いたのは午後だった。
スタークが先に馬車を降りてレインディールに手をさしだしてくる。その手は数秒間宙に浮きっぱなしだった。レインディールがぽかんとした顔でスタークを見返したからだ。
「レインディール?」
不思議そうに問いかけるスタークの声でレインディールははっとした
(そうだったわ!これは手を重ねるものだった!)
「もうしわけありません」
(出発のときよりマシよ。)
出発のとき、レインディールはスタークの手に気づかないまま乗り込んでしまった。それを見たクリスタは気まずそうに目線をそらし、スタークは苦笑したが何も言わなかった。
馬車から降りて初めてレインディールは王都以外の町並みを見た。王都とはだいぶ違った。
良く言えば自然が多い、悪く言えば王都よりも古い建物が多く田舎っぽい。
対称に王都は最先端の都市だ。貴族も多くおしゃれな人間や建物があちこちに立ち並ぶ。
だからキラキラした王都に憧れている地方の人間も多いだろう。しかしここ、クランディアは人は多いものの王都のような最先端の雰囲気は感じられない。
その代わり、温かさを感じる都市だとレインディールは感じた。
街の入口では若い娘たちが談笑していて隣では気前の良さそうな店主が座り客の注目を集めている。その向かいには焼き菓子を売っているのだろうか、女性が声を張り上げたくましく客を捌いていた。通りの奥には大きな噴水があり、恋人たちが楽しそうに談笑している。その他にも走り回っている子どもたち、楽器を演奏し日銭を稼ぐ音楽家、数え切れない人がそこで生活をしていた。
そしてなにより王都では見られなかっ真っ青な空が町々を包みこんでいた。
レインディールはその様子に圧倒された。見たことがなかった。
何も言わないレインディールを心配したのかスタークが声をかけた。
「どうかしたのですか?レインディール。」
急に至近距離で話しかけられたレインディールと心臓は飛び上がった。
「いいえ。少し圧倒されただけですわ。王都とはだいぶ違うのですね」
スタークはゆっくりと町並みを見渡してレインディールの言葉に頷いた。
「そうですね。王都のような華やかさはないかもしれません」
「いいえ。そうではなくて…私は王都よりこちらのほうが好きですわ」
レインディールは空を見上げた。鳥が飛んでいる。王都のよりも大きい。
「空が開放的で、自由に、飛べるような、そんな感じがします。」
スタークは驚いたように目を瞬かせた。
(何か変なことを言ったかしら)
「…自由に飛べるのは良いかもしれません。」
スタークは同じように空を見上げながら呟いた。
その時飛んでいた鳥が大きな声で鳴き出した。その鳴き声に我に返ったスタークは
「もうすぐ日も落ちてきます。屋敷へ案内しましょう」
といってレインディールに手を差し出した。
レインディールは今度は忘れずにその手を取ることができた。
レインディールは王女としてはポンコツです。社交に出たこともほぼないのでマナーも詳しくありません。




