始まり
初めての投稿です。至らぬ点も多いですが生暖かい目で見守ってくださると嬉しいです。
先月、隣国との戦争が終わった。
勝利の決め手は我が国の名将だという。国王陛下は褒美は何がいいかとお訪ねになったが答えは味気ないものだった。
曰く、「この勝利は自分の力だけではない。下から上まで、すべての兵士が自国を守ろうとした、その結果である。自分だけ褒美をいただくわけにはいかない。」のことだった。
しかし国王陛下は、国を守るために戦った戦士をどうして無視することができようか、とおっしゃり、名将スターク・シュベルター閣下は王宮に参上する運びとなった。
数十分の談話の末、国王陛下は第1王女、レインディールを下賜することをお決めになった。
レインディール王女はあまり民衆の前には姿を表さず、お体が弱いため療養することが多い。そのため国王陛下は国内で縁談をまとめようとお考えになられたのかもしれない。シュベルター家と王家の関わりは今後強いものになるだろうか。この国の発展につながることを願う。
国紀659.11.2
「もうこんな情報が知れ渡ってるなんて…驚きだわ」
新聞を片手にレインディールは誰ともなく呟いた。朝日がちらつく埃っぽい室内に座り込み新聞を読む姿はとても王女には見えない。どこかの疲れ切った町娘といったところだ。
「なにが体が弱い、よ。私は至極健康体なのに!」
レインディールは悪態をついて新聞を睨みつけた。隣国との戦争の終結ともに王女の婚姻の知らせが掲載されている。
「それに療養しているんじゃなくて、公の場に姿を表さないように仕向けられてるだけよ!」
レインディールは前王妃の子だった。前王妃が亡くなったあと今の王妃がレインディールをこの古びた離宮へと追いやり、公の場に出ることを禁じたのだ。
「いつかこんなところ出て一人でくらすって決めてたのに…。今になって都合よく使われるとか…」
うなだれていたレインディールだったが新しい婚約者の写真をみると少し頬を赤く染めた。
「すごい男前…だけど!こういう男性は女性に言い寄られるのよ!そして本妻なんかほったらかしにするに決まってる!」
レインディールの少し膨らんだ婚約者への期待は男性への偏見であっけなく崩れてしまった。
「いやだなあ。こんな人生。」レインディールは目をつぶり汚れた床の上に横になった。そして今までのことをゆっくりと思い出す。
母と死別し、その後にやってきた新しいお母様。本当の親子まではいかなくともそれなりに仲良くできると思っていた。しかし違った。近づくなり軽蔑の目で見られ、この離宮へ押し込められた。10歳だった。持っていた母の遺品も全て奪われ、思い出の品はなくなってしまった。優しかった乳母も解雇されたらしい。お元気でと言って宮を去って以来、見ていない。
子供の頃は母が恋しくて、奪われたことが悲しくて毎晩泣いていたがそれも今はない。
慣れとは怖いものだ。
いっそのこと逃げようか。レインディールはぼんやりと考える。夜に決行すれば気づかれないはず。今まではお金が無かったからできなかったけれどもう十分よ。じゃらりと音がする袋をつつき重さを確かめ、レインディールは決心した。
逃げよう。誰かの手のひらで動く人生なんてもういや。
そうと決まれば準備だ。レインディールは飛び起きて勢いよく扉を開ける。
ゴンッ
レインディールは気づかなかった。というか不注意だった。勢いよく扉を開けるものではない。
扉の外には若い侍女が一人。顔を抑えて呻いている。
「なにをしているのですか…」
うめきながらも目はレインディールをしっかりと見据えている。扉を開けた本人は顔を引き攣らせて目を逸らした。
「何も。ただ外に行こうとしただけよ」
レインディールは何でも無い風を取り繕ったが内心では非常に焦っていた。
(まずいわ。どうしてよりによって彼女が来るのよ…)
侍女は少し赤くなった顔をずいとレインディールに寄せて呟く。
「逃げようとしていたのでしょう。もしくはその準備。違いますか?」
(バレてる!!!)
レインディールは動揺した。完璧に隠せていると思ったのに。
(彼女にバレるのだけはまずいわ。なぜなら…)
「王妃様が知ったらどうなるのでしょう。」
目を細め、侍女はレインディールに問いかける。
(彼女は王妃の手先、つまりスパイだから!)
「クリスタ。」レインディールは静かに侍女の名前を読んだ。
「逃げようとしていただなんて。なんてことを言うの。仮にも王族が自分の責務を全うしないで逃げるだなんて。そんなことあってはならないわ。」
「さようでございますか。」
「ええ。私にはスターク伯爵との結婚という役目があるのですから。」
「前向きなようで何よりです。それでは準備をしましょう。」
「え?」
ここでレインディールはクリスタの後ろにブラシや、ドレス、タオル、洗面器などがつまった大きなかごが置いてあるのに気づいた。
「今日の昼出発ですわ。」
「うそでしょう?」




