エピソード09
首都高に入った。
降り出した雨が、フロントガラスを激しく叩く。
別れ際に、家を捨てるとか言ったが、
何か言わないと、彼女は車から離れない気がした。
彼女は筋金入りの箱入りだ。
家を捨てるなんて、そんなこと出来っこない。
結婚を除けば、親のいう事に素直に従ってきたに違いない。
今回の事で多少荒波は立つにしても、
最終的には、親の言う事に従うだろう。
さよなら、
俺と君とは、住む世界が違い過ぎた
そう思った時、
彼女との出来事が急に脳裏に蘇ってきた。
美術館で出会ったときの驚き、
オープンカフェでの再会、
レストランで弾んだ会話、
ネックレスをつけた時の幸せそうな顔、
そして、海岸での涙・・・
ほんのわずかな時間を過ごしただけなのに、
どうして、次々と思い出すのか。
俺は首を横に振った。
何度も振った。
彼女の顔が、俺の脳裏から消えるまで。
頼む!もう消えてくれ!
ビッビー、ビッビー
はっ、
スマホが振動した。
ニューヨークで商談を続けているスペンサーからの電話だ。
俺は深呼吸をして、気持ちを切り替えた。
「What's wrong? It's 4 a.m. over there, isn't it? 」
「The director gave the green light for the new drug development!」
えっ、・・・マジか!
思わずハンドルを叩いて、ガッツポーズした!
「Really?! That's incredible news!」
「Leave Japan immediately and come to our head office in New York」
「Got it! I'll be there. I'll let you know when I arrive.」
「Okay, in New York then」
それは、俺の特許を使った新薬開発の一年越しのプロジェクトが、
ようやく纏りそうという超ビッグニュースだった。
紆余曲折を経て、ついに役員に面会できるところまで漕ぎつけた。
よーし、速攻で飛行機を予約して、明日の朝から出発だ!
このチャンスを逃せば、次は無い。
役員へのアピールは、飛行機の中で考えるとしよう。
高速を飛ばす俺の胸は、一気に高鳴った。
この案件、必ず成功させるてみせる!
そして、2か月余りが過ぎた・・・




