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エピソード08

 「私は生まれてすぐ親に捨てられ、静岡の乳児院から同県の養護施設へ移され、そこで育ちました」

 

 「なっ、なんだと・・・」

 

 「そして、私には傷害の前科があります」

 

 「なに!今、何と言った!」

 

 「ちっ、違うんです!お父様、聞いてください!」

 

 「麗子!お前は黙っていなさい!」

 

思わず立ち上がった父親は、少し時間を置いて椅子に座り直した。


 「弘江、水を一杯持ってきてくれ」

 

母親は両手で口を押えたまま目を見広げ、呆然としている。


 「弘江!水だ!」

 

 「あっ、はい」

 

大声で我に返った母親は、立ち上がって部屋を出た。

父親は、咳払いをした。


 「綾部君・・・今一度聞くが、傷害の前科があるというのは、本当か」

 

 「本当です。それ以外にも、地元のコンビニで窃盗で何度か補導されたこともあります」

 

父親は腕を組んで、大きく息を吐いた。

しばらく、誰も何も言わない沈黙の時間が流れた。

 

 「出自は不明、傷害の前科あり・・・君は、よくそれでうちの娘と結婚などと言えたな」

 

 「お話しすれば、必ず反対されると思っておりました」

 

 「当たり前だ!前科者など、うちの敷居を跨ぐことすら許されんわ」

 

 「お怒り、ごもっともです。大変申し訳ございませんでした」

 

 「帰ってくれ」

 

 「お父様、お待ちください!」

 

俺は深々と頭を下げた後、椅子から立ち上がりカバンを肩にかけた。

 

 「よくこのタイミングで言ってくれた。これが結婚した後だったら、えらい事になっていた。私の名声に、とんでもない汚点を残すところだったよ」


 「お父様、お願いです!京一郎様がなぜ障害事件を起こしたのか、私が説明します!」

 

 「お前の説明など必要ない。裏にどんな美談があろうとも、前科は前科だ」

 

 「おっ、お父様・・・」

 

 「昔だったら腕に入れ墨をする程、前科者は社会から区別される存在だ。そんな奴が、義理とはいえ由緒ある東条家と関係を持つことなど、絶対にあってはならん!」

 

母親がコップをお盆にのせ、部屋に入って来た。


 「お母様!お母様は、私と京一郎様のことは、」

 

 「廊下で声が聞こえました。私は、お父様の意見に賛成です。許しませんよ、結婚なんて」

 

 「そっ、そんな・・・」

 

 「前科のある人が義理の息子だなんて。考えただけでも、寒気がします。麗子、あたなちょっと冷静になりなさい」

 

 「お母様・・・」

 

 「あなたは、これまで何度も何度もお見合いをしては断って。その度に運命の人を見つけるとか言ってきたけど、結局これですか。期待したお父様も私も、見事に裏切られましたわ」

 

 「すみません、私はこれで失礼します」

 

 「なんだ、まだいたのか。とっとと帰ってくれ。二度とこの屋敷に来るな、わかったな」

 

 「もちろん、二度と来ません。では、」

 

 「待ってください、京様!」

 

俺は頭を下げ、障子を閉めた。

彼女は俺の後を追いかけようと、障子に手をかけた。


 「追うな!あの男のことは、もう忘れなさい!」

 

 「あたなには、もっとよい男性をこの母が見つけて差し上げます」

 

 「私が妻となるのは、あの方しかおりません!私くしは、京一郎様を心から愛しています!」

 

 「バカなことを、前科持ちだぞ!あんな男、野良犬と同じだ!」

 

 「!」

 

障子を持つ彼女の手が震えた。


 「今のお言葉、・・・私は、お父様を一生許しませんから」

 

 「なんだと!親に向かって、その言いぐさはなんだ!」

 

彼女は父親を睨んだ後、障子を乱暴に開け部屋を飛び出した。


俺は車のドアを開け、ドライバーズシートに身体を沈めた。

 

 「京様、お待ちください!」

 

彼女は、開けたドアのガラスに手をかけた。

足元を見ると、裸足だ。


 「わかったろ。これが現実さ」

 

 「京様、私にお任せください!時間をかけて・・・時間をかけて、両親を必ず説得します!だから京様、」

 

 「まだそんな事を言ってるのか」

 

 「京様は・・・私が好きになった、この世でただ一人のお方です・・・私は京様の妻になりたいのです!絶対に、絶対に諦めたくないのです!」

 

俺は彼女の腕を握り、ガラスから手を離させた。

そして、運転席のドアを閉める。


 「京様、お願いです!行かないでください!」


彼女は、運転席のガラスを叩いた。

俺はガラスを下げ、運転席の窓を開けた。


 「京様、」

 

 「ひとつだけ、方法がある」

 

 「えっ、・・・それは、それはどんな・・・」

 

 「君が、この家を捨てることだ」


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